![「”きれいだな” “楽しいな” と、心から思える時間を大切にしたい」草薙法美さん(くさなぎ・のりみ)押し花アーティスト](https://www.junglecity.com/wp-content/uploads/2023/06/norimi-kusanagi-1.jpg)
去る5月、シアトル日本庭園で押し花の実演が開催され、満員御礼となりました。実演を行ったのは、シアトル近郊の島ベインブリッジ・アイランド在住の草薙法美さん(くさなぎ・のりみ)。伺ってみると、約10年前に偶然のきっかけで押し花と出会い、それまで興味のなかった花に魅せられるようになったと話してくださいました。
![「”きれいだな” “楽しいな” と、心から思える時間を大切にしたい」草薙法美さん(くさなぎ・のりみ)押し花アーティスト](https://www.junglecity.com/wp-content/uploads/2023/06/norimi-kusanagi-2.jpg)
押し花とは、約10年前、日本で出会いました。その頃、更年期障害で気分が落ち込んだりすることが多かったのですが、ずっと押し花をやっていた児童心理学教授の義妹が「やってみたら」と紹介してくれたのです。
私はそれまで花との出会いがなく、興味がなかったのですが、そんなきっかけで花を意識するようになった途端、そのパワーに魅せられました。こちらでは作品を作っていれば誰でも「アーティスト」と呼ばれたりしますが、私の場合はそんなふうに始めたので、”accidental artist”(偶然のアーティスト)だと思っています。
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花のヒーリングパワーというのでしょうか。落ち込んだり、しょぼんとしたりしていても、花がそれを癒してくれるのです。
日本では押し花の教室があり、インストラクターのコースもあります。アメリカではそういうシステムはオンラインでは見つかりませんでしたが、興味のある人はオンラインでさまざまな情報を見ることができます。
また、日本ではとても性能の良い押し花キットもたくさん発売されています。細かいところまで気を配って作られていますので、説明通りに作れば、4~5日で簡単に完成できます。花によっては2~3日でできるものもあります。
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押し花の難しいところは、できるだけ早く空気と水分を抜き取り、色をきれいに保つことですが、日本製のキットならそれができるのです。残念ながら、アメリカ製の押し花キットの中には完成まで10日~14日もかかったりするものもあり、時間がかかると花の色が変色してしまう確率も高くなります。
また、厚みのある花を平坦にしていくこと、そして、作品にしていく時に、見せる側として深みや濃淡のあるものにすることも大切です。そのために、水彩で影をつけたり、パステル、和紙、水彩などで背景色をつけたりすることもできます。でも、独特の良い色が出ている押し花が背景色とかち合わないようにしなくてはなりません。作品を作っていて、「これで完成」と思える瞬間は、花の方が教えてくれます。うまく行かない時は、自分のエゴが出ているような時ですね。まだまだ学ぶことがたくさんあります。
ベインブリッジ・アイランドにあるブローデル・リザーブという庭園では許可をもらって、そこで見つけた草花を押し花カードにして販売したりもしています。でも、普段は特に珍しい花を探しているわけではなく、どこにでもある普通の花を押し花にしています。「毎日この時期になると、この花や植物が出てくる」というサイクルが楽しみなのです。
![「”きれいだな” “楽しいな” と、心から思える時間を大切にしたい」草薙法美さん(くさなぎ・のりみ)押し花アーティスト](https://www.junglecity.com/wp-content/uploads/2023/01/norimi-kusanagi-oshibana-1.jpg)
例えば、桜はいろいろな種類が次々に咲いて、最後に八重桜が咲くということを知りました。また、条件が揃うと、同じような時期に、同じような花が同じように咲き始めます。これはすごいことだと思います。また、あじさいの花は、咲いている時期が長く、いろいろな段階で、いろいろな美しさを醸しだしてくれます。その様子が人間に似ているように思えてなりません。若い時、中年の時、シニアになった時と、それぞれの美しさがあるように。
花は黙って育っているように見えますが、生育して、咲いて、咲き終わる、その一つのサイクルに全エネルギーを注いで、咲いて見せてくれるわけです。押し花を通して、そんな花のすごいパワーを感じることができるようになり、とても感動しています。
いろいろとお話ししましたが、大切なことは、花を見たいと思う心、きれいだなと思う心だと思っています。そのあたりを歩いて、きれいだなと思って、摘ませていただいて、それを上手に押し花にしようとする以前に、まず、花そのものを楽しみ、花に触れて、花とコミュニケーションさせてもらうことでしょうか。現代・未来にAIやテクノロジーの発展で失われていくかもしれない、「きれいだな」「楽しいな」と思える私たち人間の心、そのような純粋な気持ちや時間を、押し花づくりを通して、これからも大切にしたいと思います。
聞き手:オオノタクミ 写真提供:草薙法美