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「心を動かされる経験をたくさんしてほしい」 中高生を応援するプログラムで起業 Globeself 馬渕純子(まぶち・じゅんこ)さん

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東日本大震災復興支援で、福島の原発事故により故郷を離れなくてはいけなくなった高校生を対象に
「道を切り拓く力」を養うためのプログラムを企画運営。
馬渕さんの中高生を対象にした活動の原点となる生徒たち。

「頭でっかちになる前に、まだ心がやわらかいうちにもっといろんなことを自分の目で見て、肌で感じて、心を動かされるような経験をたくさんして、感受性をどんどん高めてもらいたい」- そんな熱い思いで中高生向けのプログラムを核に起業した馬渕純子さん。中高生を対象にする理由、ご自身の子どものころの体験、育児におけるチャレンジなどについて聞きました。

もくじ

育児もしながら、経験と人脈をいかして起業

2019年に馬渕さんがシアトルで初めて行った活動に参加してくれた13人の中高生たち。「彼らや、彼らの保護者の方々とは今でも強い繋がりがあり、この出会いに感謝しています」

もともと中高生と一緒に活動するのが好きで、シアトルに約2年半前に引っ越してきてから起業するまで、日本の中高生がこちらの学校のサマースクールなどに参加するプログラムを、カリフォルニア州で友人が経営している会社と企画して運営していました。それも本当にたまたまシアトルの学校のプログラムを見つけ、「素晴らしいプログラムだから、日本の子たちに来てもらいたい」と思ったのです。パンデミックが始まる前の2019年にも、13人の中高生がこちらでサマーキャンプに参加していました。

その後はオンラインでプログラムをやっていましたが、友人の会社でずっとやるのも申し訳ないので、「だったら自分の会社としてやろう」と、起業しました。すごく思い切って、というより、やりたいことをやっていた結果、こうなったという感じですね。

もともと自分が好きなことはやりたいという気持ちが強くて、本当にできるのかとか具体的に考えずに、やりたいという気持ちで動いてしまうというのが昔からあります。起業してから、友人に「4人目の子どもができたみたいだね」と言われて、「大変なことをしてしまったかも」と、初めて気づくぐらい(笑)。でも、いつかまたやりたいと思っていたので、私にとっては自然な流れでした。

でも、私の本業は今でも母親業だと思っています。特に教育に携わる者として、私の一番の仕事は、常にまず自分の子どもとしっかり向き合いながら育てること。自分の子どものことをおろそかにして、他人のお子さんのために仕事をするのは違うと思いますし、それでは周りからも信用されないと思うからです。なので、仕事は子どもが寝た後の夜だけで、大変なことはありますが、母親業がおろそかになってしまうような働き方はしたくないと思っています。

中学校・高校は、将来のために感受性をどんどん高める時期

東日本大震災復興支援の一つ。資生堂、ユニクロ、ヒルトン東京などとコラボして、職業体験や社員への提案などを通し、仕事をする楽しさを伝えた。

これまでの自分の経験から、中学校・高校は自分の将来の可能性を広げるために自分の時間を投資できる、貴重な時期だと思っています。日本の進学校に通っている子どもたちは特に、難しい本をたくさん読んでいます。逆に少し心配になるのは、知識ばかりが入ってきてしまっているのではないかということ。頭でっかちになる前に、まだ心がやわらかいうちにもっといろんなことを自分の目で見て、肌で感じて、心を動かされるような経験をたくさんして、感受性をどんどん高めてもらいたいと思うのです。

大学生になると遅いというわけではないのですが、大学に入ると就職活動や将来のことを具体的に考えなくてはならなくなり、焦りもあります。そういう時に頭で「何をしよう」「自分は何が好きかな」と、一から考えるのは難しいと思います。

また、「いろいろなことをやっているんですけど、何が好きなのかわからないんです」という人もいますよね。そこで一つ思うのは、経験のためにただやるというやり方ではなくて、心を動かしながら、心で感じながら、やることが大切ということ。怒りだったり、悲しみだったり、喜びだったり、そういうものをたくさん感じていればいるほど、好きなもの、心が動かされるものが見つかるんじゃないかと。だからこそ、心がやわらかい、多感なうちに、いろんなことを経験して、いろんなことを感じる、そういう癖をつけておくというのが大切だと思うのです。

やりたいことや進路を決める時に、「自分はこれが好き」とか、「これをやっていると楽しい」とか、感情をもとに自分の将来を考えられる、道を決められるって素敵ですよね。

それができるようになるためには、やはりそれまでどれだけいろんなことを見てきて、どれだけのことを経験して、どれだけのことを感じてきたか、そのベースがあればあるほど、自分が好きだと思えるものを見つけられる可能性が広がるのではないかと思うんです。

中高生はまだそこまで焦りがなく、それこそ枠にとらわれず、いろいろなことを経験できますから、いろいろ経験しておくことで、その後の人生の選択肢が増えるのではないかなと、自分を振り返っても思います。そこをぜひ生かしてもらいたいですね。

無意識に自分で自分を枠にはめてしまっているところもありますよね。でも、枠をはずすことで失うものがあるわけでもないですし、本当に自分次第。取ろうと思ったら取れるもので、考え方ひとつで取れてしまう。それに中高生に気づいてほしい。

特に日本は高校2年生ぐらいになると進路を決めて選択しないといけないので、「それで自分の人生を決めなくてはならない」みたいに思いこんでいる子たちが多いように見えます。それを見ていると、そんなころから自分の道を決めなくてはならないと思ってしまっていることが、もったいないと思うのです。

でも、プログラムに参加してくれた子たちは、いろいろな生き方をしている人から直接話を聞くことができて、「今決めたことが一生を決めるんじゃないんだと気づいた」とかフィードバックをくれたりします。私自身、講師の方の話を聞くのがとても楽しいですし、中高生の子たちが刺激を受けている姿に、自分も刺激を受けますね。

人生を変えた、17歳の時のタンザニアでの体験

17才の時、ボランティアで行ったタンザニアの寮にて。一緒に寝泊まりしていた女子高生の友達たちと。

そんなふうに私が中学生と高校生を対象にしたプログラムをしているのは、私自身が17歳の時にものすごくいろいろなことを強く感じたからです。

15歳で親の転勤でドイツに引っ越し、インターナショナル・スクールに通っていましたが、そこでもいろいろな人種の子どもたちが一緒に勉強していて、日本で日本人だけの環境で生まれ育った私には新鮮でした。17歳の時に高校のプログラムでタンザニアにボランティアに行くことにしたのは、いろいろなことをやってみたいという気持ちがあったからだと思います。タンザニアで人を助けたいというより、「楽しそうだから、やってみたい」だったのだと思います。

タンザニアに着いてみて一番最初に驚いたのが、環境の違いでした。トイレもシャワーもなく、ものすごく不便で、今まで自分が当たり前と思っていたものが何もない。でも、そんなに違う環境で生まれ育っているのに、タンザニアの女子高生と仲良くなったら、クラスの好きな男の子の話で盛り上がったり、くだらないことを話して笑ったりして、「同じ女子高生だな」と感じたことは、衝撃というか新鮮でした。

毎日みんな陽気で、私は自分がボランティアに来る必要などないのではないかと思ってしまっていました。そんなある日、同じ寮に暮らしていた現地の女子高生が何かの病気になってしまったのです。でも、その村には病院もなければ、医者もいない。その時、厳しい現実が見えていなかった自分が恥ずかしくなりました。ちょうどそのころ、日本では中高生の犯罪が増えていたので、精神的豊かさ、物質的豊かさとは何なんだろう、何をもって発展途上国・先進国というのだろうとかと考えました。そして、途上国支援を考えたい、こういう人たちとこれからも関わっていきたいと強く思ったことが、UCLA で国際開発学を学ぶことにつながっていきました。

インド地震津波緊急復興支援。25歳で携わった仮設住宅建設事業ではプロジェクトマネージャーを務め、
100人以上の現場スタッフを取りまとめた。

やりたいと思ったら、実際にできるのかとか考えずに、これをするんだと決めてしまうのですが、大学を卒業した後も、まわりは就職するのが当たり前だった中で、私はまだ途上国支援に携わるという以外、何もわかりませんでした。そして、日本に帰国したところ、首都圏のNGOが集まるお祭りがあると知り、「これはもう行くしかない」と、履歴書を持ってブースをまわったのです。そこで後に就職することになるNGOを見つけたのですが、そんなお祭りに襟のある白いシャツを着て履歴書を持ってきたということが、今でも笑い話になっています。

そして、そこで見つけたNGOに最初は無給のボランティアで入って、週末は法政大学の教授のところでアルバイトをするという生活が始まりました。UCLAを卒業して、いい企業に入った人からしたら、「大丈夫?」という感じだったと思います(笑)。でも、不安はまったくなくて、これは自分が進む道だとしっかり決めていました。そんなに強くてブレない信念があったのは、17歳の時に感じたことが強かったからだと思うのです。頭の中で、「これがいいかな」とか考えて、「じゃあこの道に進もうかな」と決めたのではなくて、まさに心が動かされて決めたこと。だからこそ確信が持てましたし、だからこそ何年も途上国支援に携わり、大変な現場での困難も乗り越えてこれたのだと思います。

子どもにいい環境を与えて、選択肢の幅を広げること

スーダンで内戦直後、数十年の間隣国に避難していた難民が南スーダンに戻るための支援活動。
南スーダンとエチオピアの国境にて、UNHCR(国連難民高等弁務官)スタッフから300人の帰還民を引き受け、出迎えた。

両親に感謝していることの一つは、いい環境を与えてくれたこと。あまりうるさく言わず、自由にやらせてくれていたことは、とてもありがたいです。私も子どもたちにそうしてあげたいですね。親があまりうるさく言っていると、子どもは自分で何が良くて悪いのか判断できなくなってしまうと思うからです。親に言われるからやらない、親が言うからやる。私の場合、あまり言われなかったことで、自分で考えなくてはいけない癖がついたのかもしれません。

子どもは幼いうちは自分で環境は広げられないので、親がやれることは、いい環境を与えて選択肢を広げるということだと思っています。

そのおかげで、私の場合は早いうちに好きなことを見つけられてラッキーでした。なので、できれば今の中高生のみなさんにも何かきっかけを与えられたらというのが、今一番強く思うことです。彼・彼女らに将来的に海外で活躍する人になってもらいたいとか、海外に住んでもらいたいとか思っているわけではなくて、一度外に出てみれば、日本にいたら会えなかった人、気づかなかった考え方、思いもしなかったものの見方とかに、一気に触れられます。人間の幅が広がるという意味で、一度はやっぱり外に出てもらいたいですね。

「地球市民になる」というテーマ

人生の選択肢を広げることに加えて、私のもう一つのテーマは、「地球市民になる」ということです。

感受性の話とつながるのですが、例えば、世界で起きているいろいろな出来事をニュースとして見て、知識として取り入れて、「へえ、そうなんだ」で終わってしまうのではなく、感情的になる、なってほしい。ニュースを見て怒りや悲しみを強く感じられるようになってほしい。遠い国の、見たことのない場所のことでも、何らかの形で心が動かされる、そういうベースができているといいなと思います。

なぜかというと、感情があってこそ人は行動を起こせると思うからです。それもあって、中高生には感受性を高めてほしい、ゆくゆくは何か行動を起こせる原点にしてほしいという気持ちがあります。

そこで、次にやりたいことは、日本の中高生をオンラインのプログラムで途上国の人たちとつなげること。遠い国、見たことのない場所でも、いったんパーソナルコネクションができると、感じ方が突然変わりますよね。それが目的です。ハードルが高くて、どれだけできるかわからないのですが、やりたいと思っているので、いつかやるのだろうと思います(笑)。

多様性とは?皆違うのが当たり前 自分と同じ人はいない

2004年スマトラ沖地震の直後、 唯一の外国人として緊急支援で入ったインド領アンダマン・ニコバル諸島にて。避難所で緊急物資配布のためニーズ調査。

「多様性とは何か」と考えると、「人をグループ化しない」ということだと思います。誰かと接する時、その人が属しているグループと接しているわけではなく、個人と接しているわけですよね。

個人レベルで見れば皆違うのが当たり前なので、そこまでいければ多様性は当たり前の世界になってくるのではないかと思います。「自分と同じ人はいない。それが当たり前」と考えることができれば、「必ずしも一緒じゃないといけない」という考えも出てこないでしょう。違って当たり前、それで一緒に生きていくのが当たり前の社会にできればいいですよね。

例えば、私がアフリカの田舎やインドの田舎で仕事をしていた時、それこそ文化や言葉はもちろん、考え方も価値観もすべて違いましたが、個人レベルで見るとそういうことは問題ない。個人レベルで生活していく中で、違うのが当たり前だから、違いがあるごとに、必要であれば話したりできます。そういうことで私は苦労したことがない気がします。

リーダーシップとは、自分の人生をリードできる力

リーダーシップ。好きではない言葉です。突き詰めればいろいろな深い考えがあるのでしょうが、簡単に言うとまさにリーダー、人を引っ張る、人の上に立つ、それがリーダーシップという感じになっているように思います。

まるでリーダーになるのがいいことで、あたかもみんながリーダーにならないといけないようなリーダーシップ教育には疑問があります。かっこいいイメージや憧れなどもあるのでしょうが、正直なところ、組織にリーダーはそんなたくさん必要ないですし、リーダーになれる人というのもそんなにたくさんいないと思います。もちろん、リーダーになりたければ気質に関係なくがんばればいいですが、なりたくもない人、もともとそういう気質ではない人にはプレッシャーになりますし、楽しめません。それよりも、それぞれが自分の力を発揮できるところで活躍できたらいいと思います。

なので、私にとってのリーダーシップは、自分の人生をリードできる力です。他人ではなくて、あくまで自分。自分が「これがしたい」と思っていて、やりたいことで自分をしっかりリードできていれば、まわりも「面白そうなことやってるな」と思ってくれて、手伝ってくれたり、集まってくれたりする。本当にやりたいことをやっているうちに周りを巻き込んでいく、それが自分の人生をリードしていることになるのかなと思います。

育児においてのチャレンジは、「ま、いっか」

私は仕事がすごく好きで、ずっと後ろ髪をひかれているところがありましたが、子どもが欲しかったので仕事を辞めて育児に集中しました。最初の子どもを出産してから数年は今やっているようなことはまったく考えず、育児に集中していました。でもちょっと余裕ができて、ぽつっと時間ができた時に好きだったものが自然に戻ってきたのです。

リーダーシップの話からつながるのですが、私はもともとストイックで、自分で自分が面倒くさくなるぐらい完璧主義な性格でした。そういう人がリーダーになってしまうと、皆がやっていることに口出ししてしまう。リーダーに向いていないタイプです。

なので、「こういう性格だから、子どもができたら気を付けないといけない。きっと一つ一つ口出ししたくなってしまうから」と危険性を感じていました(笑)。そこは今でも一番気を付けているところで、育児の一番のモットーは「ま、いっか精神」。自分が完璧主義で、自分の中でこうあるべきと思っていたら、そうしないと気が済まないわけですが、この「ま、いっか精神」があれば、子どもたちが自分と違うやり方をしていたりしていても、部屋が散らかっていても、気にならなくなりましたね。

先日、娘が “Welcome to Twinkle Bay” と書いた紙を持ってきたので、聞いてみると、「Twinkle Bay っていう、自分の会社を作ったの」と言うのです。今こうして起業して、私が会社を作ったことを話していることを楽しそうと感じたのかもしれません。好きだったものをこうして自然な流れでまた始めることができて良かったなと思います。

取材後記:馬渕純子さんの会社の公式サイトからとても熱い思いを感じ、取材を申し込みました。お話を伺っていて、プログラムに参加する方々も、3人のお子さんたちも、これまでの経験を総合して自分が誰かのためにできることを形にしていく馬渕さんの姿に、まず心が動かされる刺激を受けるのではないかと思いました。すごい人の話を聞かせて、「すごい人だなあ」で終わらず、では自分はどうするかを考えるステージに持って行く。心がやわらかいうちに世界を広げ、自分の人生をリードできる力をつける。大人として、親として、次世代の子どもたちにそんなチャンスをたくさん作ることができたらすばらしいですね。

馬渕純子さん(まぶち・じゅんこ)略歴:カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を卒業後、国際 NGO に就職し、途上国支援の仕事を開始。2004年スマトラ沖地震・津波の後、インド領のアンダマン・ニコバル諸島での緊急復興支援、南スーダンの国境沿いの村で紛争後の帰還民支援など、現場の第一線で経験を積む。2007年にハーバード大学院にて国際教育政策学修士号を取得。その後は国連機関(UNICEF)にて教育専門家としてアフリカの教育の質の改善に努め、東日本大震災の後は福島県で高校生の人材育成に取り組むなど、国内外で若者の教育に携わってきた。2021年2月にGlobeselfを起業。3児の母親でもある。
【公式サイト】www.globeself.com
【公式インスタグラム】www.instagram.com/globeself/

聞き手:オオノタクミ

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