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「日本により深くコミットする」人材育成団体アイリープ 恵・エリクセンさん

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岩尾エマはるかさん

参加者にセッションを行っている、恵・エリクセンさん

2008年から世界各地からの参加者を対象にグローバル人材育成プログラムを展開している「iLEAP」(アイリープ)。創設10周年を機に、組織として日本にフォーカスするとともに、大学生や社会人だけでなく高校生にも対象を広げ、社会のサステナブルな発展を目的とするコワーキングスペースに拠点を移しました。日本により深くコミットすることになった理由、そして、アイリープが育成しようとしている「グローバルなマインド」「次世代リーダー」について、プログラム・ディレクターの恵・エリクセンさんに伺いました。

【公式サイト】ileap.org/ja/

– より深く日本にコミットする組織となった理由を教えてください。

iLEAP(以下、アイリープ)は創設当初から日本を含む世界各地からの参加者を対象にした人材育成プログラムをやってきました。昨年の夏、組織全体でこれまで10年間の活動を振り返り、日本向けのプログラムをさらに強化していくことに決めました。年々、日本の卒業生たちの人生にインパクトがあることが見えてきたことで、自分たちの日本への活動意義と必要性がより明確になったからです。

それでアイリープを二つの組織に分割し、「日本に特化したアイリープ」と「日本以外の地域に特化した新しい組織Perennial(以下、ペレニアル)」という、別々の組織になりました。つまり、別々の組織になることで、より特定地域や国、参加者からのニーズに対応したプログラムができるようになったのです。

– コワーキングスペースの「インパクト・ハブ」への移転はどんな効果がありますか。

インパクト・ハブ

コワーキングスペースの「インパクト・ハブ」

インパクト・ハブには社会のサステナブルな発展を共通目的とする企業や団体が入居しているので、私たちの活動も理解してもらいやすく、私たち自身もプログラム参加者もネットワークが広がりやすいですね。すぐそばにホームレスのシェルターがあることも、参加者が実際の社会問題に直接触れる機会につながっていますし、実際にその問題の解決のために活動している人にインパクト・ハブで簡単に出会うことができます。

以前の拠点だったウォーリングフォードの住宅地の歴史的な建物も良かったのですが、裕福な地域にいては参加者が社会問題を可視化することは簡単ではなく、刺激を与えてくれそうな人を常に見つける必要がありましたが、ここなら参加者が刺激を受けそうな人を用意しなくても、常に刺激があります。ネットワーキングイベントもありますし、さまざまなスピーカーが来てくれるレクチャーなどもあり、これからますます楽しみです。

– なぜアイリープが日本からの参加者に必要とされるのでしょうか。

これまで10年にわたり日本からプログラムに参加してくださったさまざまな人たちに会ってきましたが、10年前から変わらないのは、自己肯定感がなかなか高くならないことです。自信を持って人と話せない、必要以上に人と比べる、など、その表れ方は人それぞれですが、パッとわかるものではない形もあります。でも、「なぜこういうところでつまづくのか」「なぜこういうグループワークでうまくいかないのか」と悩む参加者と話をしていくと、自己肯定感が低いことにたどりつくことが多いです。

もうひとつ、変わっていないことは、「認められた経験がない」「あまり褒められたりしてきていない」ということ。英語の環境では相手を褒めたり声をかけたりするのが普通ですが、日本から来ると最初は驚きます。「そんなこと、言われたことがない」と。特に高校生や大学生の場合、出会う大人というのは、親、先輩、インターンシップ先の上司などになりがちで、なかなか認めてもらえない。何かやっても欠けているところをまず指摘される環境で大きくなってきているので、自分にも他人にも同じように欠けているところをまず指摘することが普通になってしまっています。

一方、アイリープのアプローチは、常に「あなたはすでにやっているんだよ」「あなたはすでに持っているんだよ」という、心からのピュアな信頼と承認にもとづいています。ちょうど日本で欠けていることが、私たちがやっていることなんですね。だからとても参加者に響くのだと思います。

ブリット・ヤマモトさん

参加者にセッションを行っている、アイリープ創設者のブリット・ヤマモトさん

– シアトルでプログラムを行う効果を教えてください。

わざわざ日本を出てシアトルまで来ることには、日本とは違う環境に身を置くことで、自分の中で固まりすぎるほどに固まってしまっているものに気づき、少しずつほぐしていく効果があると思っています。それは本当に自分のためになっているのだろうかと問いかけてみると、ためになっていないことが結構あるのです。「だったらどうする?」「それなら新しい思考のパターンだとか行動だとか、そういうものを作り上げていこうよ」と。それはいつもと違う環境から離れてみると、やりやすくなります。

日本はどんな場所でも、例えばミーティングでも、まず肩書きから入ります。「○○代表のxxです」「○○大学のxxです」「○○大学の何年生です」「○年働いています」などと言って、あっという間にみんなの位置づけを決めます。アメリカに来ても、日本人はそれをササッとやって、位置づけを決める。アメリカでも自己紹介をしますが、それは位置づけを決めるためではありませんね。他の世界では、そんなことはたいした意味がないということがわかっていますから。日本では知られていても、こちらでは誰にも知られていない。そんなところに自分を置いてみるのは、社会人にとっても学生にとっても、特に効果があります。

また、日本から参加する人は、不確かなことが苦手という傾向もあります。幼いころから事細かく決められた環境を与えられていると、不確かなことへの免疫や耐性がなくなってしまう。私たちはそれもわかっているので、事細かく決めたスケジュールを提供することはあえてしていません。自分で動き、考える時間を持つことで、いろいろなことが見えてくると思っています。

– アイリープのプログラム参加者の顔つきが、卒業の段階ではまったく異なるのを何度も見てきました。

インパクト・ハブ

アイリープで提供してきた日本人プログラムの卒業生たちからのフィードバックは、「自信を得ることができる」「やりたいこと、方向性が明らかになる」「コミュニティが得られる」という3つが多いです。私たちがやってきていることはやはりそういうことなんだと再認識しました。

前述の、「事細かく決めない」ということは、信じているからこそできることです。信じるって怖いことですよね。自分の目に見えることはほんの少しだけですし、人を信じるには勇気がいることもあります。でも、私たちはプログラム参加者にそういう気持ちで接してきました。なので、卒業生たちからは、「信じてくれてありがとうございました」という言葉をよくいただきます。「信じてもらえたからがんばれた」。「信じてもらえたから乗りきれた」。このプログラムでは自分の嫌なところも見なくてはならないのですが、信じてくれる人がいると、それでも自信を得ていくことができるのです。

でも、ここで自信を得て、方向性が見えたことが終わりではなく、それは始まりです。高校生、大学生、社会人の方々、それぞれがコミュニティに戻り、学校、インターンシップ、就職、その他の新しい展開において、得たものをどういかしていくか。そうした卒業生たちが今では500人以上いるのですが、とてもユニークな道を進んでいる人も多いので、アイリープとさまざまなコラボレーションにつながっています。今後もこの輪が広がっていけばいいなと思っています。

インパクト・ハブ

コワーキングスペースの「インパクト・ハブ」

– アイリープが考える「次世代リーダー」とは、どういった人物ですか。

アイリープのミッションに、「インナー・リソース」「アウター・リソース」とあります。インナー・リソースとは、それぞれの人たちが内包しているスキルなどのこと。アウター・リソースとは、その人の外にある、まわりの仲間やサポートしてくれる人たちなど。この先必要とされる次世代リーダーは、その二つのリソースのバランスをうまく取れていることがとても大事だと思います。

アウター・リソースにだけ意識が行っていて、自分の中で何を自分が持っているか、どういう思いがあるかとか、そういったインナー・リソースに気づいていないと、自分のやりたいことが人に響きづらくなってしまい、アウター・リソースに影響が出てしまいかねません。

そして、リーダーとして、選んだことをじっくりやる。周りの人にリスペクトと愛情を持って接して、見えない部分を大切にする。人はそれぞれ、ちゃんと積み上げてきたものがあっての「今」ですから、話もしないで人のことはわからないですよね。そして、人のことを受け止める器を持つ。そういうリーダーを育てていきたいですね。

– アイリープのスタッフ同士も強い信頼関係で結ばれているのを感じます。

私は日々のオペレーションからプログラムの運営、学生たちとのセッションまで、常にいろいろなことをやっていますが、アイリープで一緒に働いているスタッフは、飾らない、ケアリングな性格で、心から信頼しあえる、英語で言えば authentic な人たちです。

スタッフそれぞれが持っているものが大きいので、一緒に話しあうことができ、相手を受け止める余裕もある。仕事だけの関係ではなく、同じ人間としての関係です。「シンプル」と表現することもできますが、本当に大切なのは、そうした人間同士の関係だと思っています。

編集後記:iLEAP について初めて知ったのは、創設されてから数年たったころ。そして、2014年にひょんなことから大学生対象のプログラムでメンターを務めさせていただくことになり、3年にわたりその活動の一部を見る機会がありました。

セレクトされて参加する大学生たちがユニークでエネルギーに溢れていたのもさることながら、彼らがもともと持っている素晴らしいものに iLEAP がうまく気づかせ引き出し、彼らがいきいきしていく様を何度も目の当たりにし、「私も大学時代にこんなプログラムに出会いたかった!」と思ったものです。

そのプログラム・ディレクターの恵・エリクセンさんは、まだ幼い子供の母親で、いったいいつ寝ているのかと思うほどお忙しい身ながら、いつも人の話を全身で聞き、深い問いを投げかけ、新しい気づきにつなげてくれる方。今回改めてお話を伺ったことで、組織としてのミッション、そして恵さんをはじめとするスタッフの徹底的なコミットメントをさらに理解するとともに、iLEAP のオフィスがなぜいつもとても温かい雰囲気なのか納得がいきました。

私自身、これまでメンターした大学生たちの数人と連絡を取り合っていますが、どの人たちもがんばっている様子に元気をもらっています。「天然資源の少ない国」と言われる日本。でも、そんな日本だからこそ、「人材」は大切な資源です。その育成には良い教育が必要で、そこにアイリープさんは徹底的にコミットしているのですね。弊社もこれからさまざまなコラボレーションを通して、少しでも役に立てることがないか、可能性を探っていきたいと思います。

掲載:2019年4月 取材:編集部/オオノタクミ



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