看護師として働きながら、「いつか海外で看護師として活躍したい」という思いを胸に英語を独学で学んでいた井上穂菜美さん。しかし、看護師として多忙な中での勉強に苦労したため、オペアとしてアメリカに滞在することに。その2年間のアメリカ生活で出会った人にかけられた言葉や、人々の生き方を通して、「自分が本当にやりたいこと」について考えるようになりました。コロナ禍で日本に帰国後、偶然始めたキャンドル作りに無我夢中になり、結婚を機に移住したシアトル郊外を拠点にキャンドルブランド 『CANDLE MOMO』を展開し、シアトルのローカルテレビ局でも紹介されるほど人気に。看護師としての経験、異文化の中での気づき、そして「大人かわいい」を大切にしたものづくり。キャンドルとの出会いから、商品づくりへのこだわり、これから目指す形について伺いました。
海外で活躍したいと思った原点と、看護師を目指した理由

ある日、小学3年生のときのアルバムを見返したら、将来の夢に「看護師さん」と書いてありました。「こんな時から看護師になりたいと思っていたんだ」とびっくり。やっぱり看護師になろうと思ったのは、それが大きなきっかけです。
でも、もう一つ理由があります。テレビで「国境なき医師団」や「青年海外協力隊」の活躍を見て、「やっぱり私も看護師になりたい!」と強く思うようになりました。
英語を学ぶためにオペアとして渡米
看護師になってからは、青年海外協力隊に参加したいという気持ちもありました。でも、それにはまず英語をなんとかしなきゃいけないなと感じて勉強しようとしましたが、看護師として働きながら英語の勉強をする時間を作るのはなかなか難しかったです。また、性格的にも、その状況に自分を置かないと集中して勉強できないところがあって、「じゃあ海外に留学しよう」と思いました。
それでいろいろ調べて、オペアという選択肢を知りました。私は小児科に勤めていたので、オペアも子どものケアをする仕事ですし、今まで見てきた病気のある子どもだけでなく、健康な子どもと関わることも学べます。そして、オペアとなってアメリカに来ました。
オペアとして過ごした2年間、ホストファミリーには「看護師さんが家にいるって本当に心強い」と言ってもらえました。その言葉は素直にうれしかったです。ただ、この時点では、キャンドルのことはまだ考えていませんでした。
「自分が本当にやりたいこと」を考え始めたきっかけ

転機になったのは、オペア期間中に訪れたニューヨークでの出会いです。父の同僚の娘さんが長年アメリカで暮らしていたので、青年海外協力隊を目指していることについて話しました。看護師であっても、医療行為だけでなく、トイレを作ったり、手洗い場を作ったり、衛生環境を整えることも仕事内容に含まれることを知って、途上国の方たちを助けたい気持ちはあるけれど、そういう環境を本当に乗り越えられるのか、とても不安になったからです。その話をしたときに、「人を助ける前に、自分でわざわざ高い壁を作らなくていいんじゃない?」と言われました。
その人が言いたかったのは、無理に自分が苦しくなるような環境に身を置かなくても、もっと身近な場所で人を助けることもできるんじゃないか、ということでした。
さらに、その出会いのあと、アメリカで自分の好きな仕事をしている人たちに出会う機会が多くありました。当時はボーイフレンドだった今の夫もその一人で、「自分の仕事が好きで、幸せだ」と言っているのを見て、小学校から今まで看護師一筋だった私が本当にやりたいことはなんだろうと考え始めました。
コロナ禍の日本で出会ったキャンドル
オペア期間が終わって日本に帰国したのは、ちょうどコロナ禍の時期。看護師として働きながら、応援ナースとして人手が足りない現場に行っていました。
コロナに感染している可能性がある方々を担当していたこともあり、できるだけ家にこもる生活をしていたのですが、そのときに手軽にできる趣味を探していて出会ったのがキャンドルでした。最初は「気軽に始められるから」という理由でしたが、作っているうちに時間を忘れて夢中になっていました。
正直、なぜそこまで惹かれたのかは自分でも不思議です。ただ、作っている時間は無我夢中になれました。一度オンラインで基礎的なコースを受けて、芯の使い方やキャンドルの基本を学んだあとは、自分でいろいろ試しながら続けていきました。手先は器用なほうだと思っています。少しの違いで仕上がりが変わるので、その試行錯誤が楽しかったのかもしれません。
そして、結婚を機に渡米した後、キャンドル作りに集中し始めて、2023年末ごろに起業しました。
ちなみに、『CANDLE MOMO』には、ピーポー(コーギー)の可愛いフォルムはもちろん、ボタニカルな世界観を象徴する桃の花、遊び心のあるフードモチーフへと繋がる果実としての桃、といった私の好きを追求したキャンドル制作のコンセプトが詰まっています。
「大人かわいい」を大切にした商品づくり

商品作りで大切にしているのは、「かわいすぎないかわいさ」です。アメリカでも“Kawaii”という言葉は知られていますが、たいていピンクで、少し子どもっぽい印象のものが多いと感じます。
一方、日本に行くと、大人が持っても自然で心地よい、かわいい商品がたくさんある。私が目指したいのは、そういう感覚です。そして、卵のキャンドルのように、シンプルだけど少し面白い。誰がもらっても楽しめて、飾っても違和感がない。年齢や性別を問わず受け入れられる「大人かわいい」を、キャンドルで表現したいと思っています。
見た目だけでは終わらせない、実用性へのこだわり

そして、見た目がかわいいだけではなく、「ちゃんと使えるキャンドル」であることも、とても大切にしています。灯したときに溢れ出たり、危険になったりしないよう、燃え方は必ず何度も何度もテストします。最近テストしているのは、カヌレ型のキャンドルで、長時間燃やしても形が保てるかを検証していますよ。
キャンドルは火を使うものだからこそ、安全性と実用性を軽視したくありません。飾って楽しむ時間も、灯して過ごす時間も、どちらも安心して楽しんでもらえるように。そこは、作り手として譲れない部分です。
サステナブルな素材と、シアトルという街

さらに、エコであることも、大切にしています。キャンドルの素材には、大豆由来のワックスや蜜蝋を使い、梱包材や箱もリサイクル可能なものを選んでいるのには、そういう理由もあります。
2024年にはイサクアの恒例イベント『Salmon Days』に初出展し、「Judge’s Choice」をいただきました。評価されたのは、ボタニカルキャンドルのサステナブルな設計や、卵キャンドルのアイデアです。
シアトルは、スモールビジネスを応援してくれる人が多い街です。「プレゼントはローカルのものを買う」と話してくれる人たちの存在が、私の背中を押してくれています。
日常の中から生まれるキャンドルのアイデア

アイデアは特別なところから生まれるわけではありません。目玉焼きを作っているとき、「中が黄色いなら、とろっと溶けたら楽しいな」と思ったり、インスタグラムでケーキを見て「これがキャンドルだったら可愛いかも」と感じたり。日常の中で感じた小さなひらめきを、そのまま形にしています。
季節のイベントや街の空気もヒントになります。バレンタイン前に並ぶ赤いハートを見ると、「キャンドルにしたらどうなるだろう」と自然に考えてしまう。気づけば、何でもキャンドルに変換して考える癖がついてしまいました(笑)。夢中になれるものに出会えて本当によかったですし、夜遅くまで夢中でキャンドルを作っているのを応援してくれる夫にも感謝しています。家族のサポートは大切ですね。
また、「もったいなくて使えない」というコメントを、お客様からよくいただきます。でも、ぜひ火を灯した状態のものも楽しんでいただきたいので、今後は、「火を灯すとさらに楽しめる」というキャンドルにも、さらに力を入れていきたいと考えています。

キャンドル作りに興味を持ってくださる方が多くて、プライベートのワークショップの申し込みが増えています。今後はオンライン講座やワークショップも広げていけたらと思っていますし、将来的には実店舗も持ってみたいです。そして、もっといろいろなキャンドルを作って、たくさんの人に喜んでもらえたら嬉しいです。
井上穂菜美さん(いのうえ・ほなみ)略歴
CANDLE MOMO 経営・キャンドル作家
幼い頃からの夢だった看護師となった後、英語の勉強を目的にオペアとして2年間アメリカに滞在。日本に帰国後は看護師として働く中で、キャンドル作りに出会う。結婚を機にシアトル近郊へ移住し、2023年末ごろに起業。現在は、オリジナルのキャンドル商品を一つひとつ手作りし、オンラインで販売している。
公式サイト:www.candlemomo.com

