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第50回 5分間のエメラルド・シティ:スターバックスへの想い (2)

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著者プロフィール:神尾季世子
弁護士として、雇用法を土台としたコンサルティング・ビジネスに携わる。ライターとしても、雇用法、移民法、憲法、遺産相続など幅広い分野において執筆。代表作は GLOBAL CRITICAL RACE FEMINISM: AN INTERNATIONAL READER (2000, New York University Press)に収録された。フィッシュ・アンド・リチャードソン、モリソン・フォースターなど日米の国際法律事務所で訴訟関連プロジェクトに関わる。連絡先は、info@kamiolaw.com。当コラムのタイトルにある「プロセ(Pro Se)」は、ラテン語で “on behalf of oneself” という意味であり、弁護士を雇わずに個人の力で訴訟を起こす原告を指す専門用語。「自力で道を拓く」という私的解釈により著者の好む言葉である。

コミュニティが一体となって盛り上げる二年に一度の大イベント・山王祭

コミュニティが一体となって盛り上げる二年に一度の大イベント・山王祭

水無月の風が吹き抜ける。光を浴び緑が映える皇居のお壕沿いの道に、紫陽花が華を添える。「ワッショイ、ワッショイ。」水無月の千代田の空の下、活気みなぎる掛け声が響く。紫の半纏も板についたシアトルっ子の娘が、級友に混じって声を張り上げ、真剣な面持ちで山車を引いている。のぼりが立ち、お囃子が流れる街は、ほんのりと夏化粧をほどこしたようでもあり、その華やぎが見る者の心を浮き立たせる。江戸三大祭のひとつとして名を馳せる山王祭。また、この季節にめぐり会えた。「冷やし中華、始めました。」馴染みの店に貼られた短冊が、ささやかに放つメッセージ。息子と娘は、プールバッグを揚々と掲げて登校を始めた。校内での水泳授業とは、アメリカでは体験できない贅沢でもある。そう、この季節が再び到来したのだ。

仰ぎ見る空に、シアトルの初夏を想う。あれから、一年が流れたのだ。アメリカ出張の一環として舞い戻った第二の故郷。東京都心のビル街で展開する目まぐるしい日々の中、ふとした瞬間に脳裏を横切る光景があった。ベインブリッジ島から戻るフェリーのデッキで見つめたダウンタウンの夜景や、週末ごとに家族でピクニックに興じた湖畔の公園。そんな思い出が前ぶれもなく顔を覗かせては、私を切なくさせた。知らず知らずのうちに恋しさを募らせていたのだろう、昨年の初夏に降り立ったシータック空港は、両手を拡げて私を歓迎してくれたようにさえ思えた。その直後、私はスターバックス本社へと向かった。受付で登録を済ませ、面談相手であるコンプライアンス業務担当者・スティーブ(仮名)を待つ間、東京から彼に出した手紙の文面を思い返した。「シアトルのスターバックス。東京のスターバックス。どちらも、同じようなメニュー、同じようなインテリア。見た目は殆ど変わらない。でも一歩踏み込んでみると、あまりにも違いが大きい。これって、日米の文化の違いを反映しているのでしょうか?」見知らぬ日本人から届いた手紙の抽象的な文章に、スティーブは首を傾げただろう。その反面、「面白そうな奴だな」と興味を惹く契機にはなったかもしれない。グローバル・コンプライアンスの仕事に携わっていた私にとり、7年間(後に記録を更新して8年となった)連続で倫理的な世界企業に選出されるという快挙を誇るスターバックスは、一種のお手本でもあった。だが、それ以上に個人的関心も深く、米国出張中にどうしても訪ねたい企業の一社だった。だからこそ、こちらからの唐突ともいえる面談の依頼に快い返事が届いた朝、東京のオフィスの PC の前で、私は小躍りしたものだ。

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