MENU

第9回 シアトルの路地

  • URLをコピーしました!

筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

9_1

Post Alley の入り口

Pike Place Market にある Post Alley はレストランやカフェが軒を並べ、一年中観光客で賑わい、ヨーロッパを思わせる魅力的な路地。しかし、一歩この界隈から出てシアトルのダウンタウンを歩くと気が付くのが、忘れられたように暗い裏路地の存在だ。都市の歴史が長い日本やヨーロッパで路地と言えば、建物の間に自然派生し、主に歩行者によって利用される通路を指す。また、京都の裏小路のように、鉢植えや物置またはお地蔵さんまでところ狭しと連なる、交流の場もしくは地域のコミュニティのような場所であろう。かたや米国の歴史を鑑みてみると、路地(Alley)は明らかにユーティリティの場所であったようだ。都市部の路地は主に建物が並ぶ表通りに対し、石炭や石油等の燃料をそれぞれの建物に運び入れるための配達専用の通路であった。また、住宅地域にある路地は主に個々の住宅のガレージへのアクセス、またはごみ回収のための通路として計画された。ただし、1950年以降モーターライゼーションの波と共にさらに大きなのガレージの入口とアクセスを必要としたため、細い路地は次第に姿を消し、建物の全面に複数のガレージ扉があるいわゆる郊外型住宅にとって変わられてしまった。

9_2

Pioneer Square 付近の路地、奥に配達のトラックが見える

一般的に言ってダウンタウン・シアトルの路地は、もともと単なる配達用のアクセスとして計画されたため、表通りに比べると日当たりが悪く、人通りが少なくて長い間人目につかない存在であった。最近になって Gehl Architects や Jones and Jones 等のいくつかの活動グループと市が共同して、ダウンタウン・シアトルをより歩行者優先の街にする計画が始まった。その一環として街区の路地を活性化する提案が提出され、実践され始めている。去年の3月には Nord Alley (South Jackson と South Main street)に飲料水のペットボトル1000個を再利用して、地上から5メートルの空中に長さ20メートルの大きな彫刻が吊り下げられた。これはシアトル市が奨励している Alley Art と言われるプロジェクトの一つで、これらの芸術活動を通してシアトル市は一般の人が路地の存在を再認識し、歩行または生活空間として利用することを期待しているようだ。

9_3

Capitol Hill 付近、住宅街の路地、リサイクルの箱が整然と並んでいる

シアトルの住宅街の大半には路地があり、路地はほとんど例外無く2つの宅地に挟まれている。それぞれの宅地は裏庭の一部を路地のために市に供出し、路地は一街区の端から端まで貫かれている。このタイプの街区を歩いて見ると気が付くことは、ガレージが路地に面しており、表通りにはほとんどガレージのアクセスがなく、表通りの街並みが均一であることだ。それは市のゾーニング法によって建物の位置が表通りから一定の距離以上離れいなければならないことも理由の一つだが、よく観察してみるとほとんどの家の部屋のレイアウトが似ていることもあるだろう。表通りから玄関を通って家に入るとまずあるのは客を接待する居間であり、食堂を抜けて一番奥にあるのは間違いなくキッチンである。つまりガレージから一番近いところにキッチンの勝手口があるわけだ。

9_4

我が家の前の路地、右手奥が我が家

実は我が家も同様に路地に面してキッチン、ファミリー・ルーム、裏庭と車寄せがある。おもしろいことに我が家が面している路地は一街区は貫通しておらず、隣一軒までが路地を共有し、その奥は全く路地がない。いわゆる袋小路の状態なので、この路地を共有する近隣の住民以外はまず侵入して来ないので治安が良く、我が家の日常の交通の90%はこの路地を通して行われる。またこの路地に面したお隣さんとの連帯感は強く、夏はバーベキューを一緒にしたり、路地の一部を共同菜園にして収穫をシェアしたり、立ち話に花が咲くことが多い。路地は我が家にとって近隣とのコミュニティを提供する大切な場所のようだ。

(2011年1月)

  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ