みなさんは、メリル・リンチという名前を耳にしたことがありますか?そう、あの牛がトレード・マークの、世界でも指折りの証券会社です。今月は、そのメリル・リンチでファイナンシャル・コンサルタントとして勤務されている小林めぐみさんに、お話を伺いました。
※この記事は2000年3月に掲載されたものです。
小林 めぐみ (こばやし・めぐみ)
1984年 アメリカへ留学。
1988年 ウェスタン・ワシントン・ユニバーシティ卒業。日本帰国。
1990年 結婚。再びシアトルへ。
1996年 Merrill Lynch入社。現在に至る。
初めてアメリカへ
小林さんがアメリカに来られたのは、いつ頃、どのような目的だったのですか?
1984年に留学で来ました。まず、コミュニティー・カレッジに1年間通い、それから Western Washington University で、苦手だった政治と経済をわざわざ専攻しました。理由は・・・負けず嫌いの性格なので、チャレンジが好きだったから、と言えるでしょうか(笑)。
大学卒業後、すぐにメリル・リンチに入社されたのですか?
卒業後は一旦日本に帰りました。その2年後、結婚してまたシアトルへ。そして、アークティック・アラスカという水産関係の会社に入社しました。当時の仕事は、日本から漁にやって来る漁師さん達の通訳やお世話でした。その後、その会社がタイソン・シーフーズという会社に買収され、今度はセールス部門で、すり身の販売などを担当。その時の仕事を通して、自分は営業に向いている、と思ったのです。それも、人間同士の信頼関係の上に成り立って、目に見えない商品、つまり、人生設計のようなファイナンシャル・プランを扱うような営業ですね。そこで、このタイソン・シーフーズを辞めて、就職活動を始め、第1希望だったメリル・リンチの門を叩いたのです。なぜメリル・リンチが第1希望になったかというと、お客様に感謝される仕事を求めていた私にとって、お客様の資産運用を受け持つ立場から、総合的に、そしてパーソナルにお客様とおつきあいできるという、証券会社ならではのサービスを提供していたからです。そして、証券会社の中では世界のトップランクにあること、そして、それを支えるアナリストの質が高いということも、非常に魅力的でした。
証券会社へ
入社試験、そして入社後は、どんな感じでしたか?
まず、簡単な算数のテストと、パーソナリティ・テストを受けました。そこで、「なぜこの仕事をしたいのか」と聞かれ、「人のためになる仕事をしたいから」と答えたのが、今でも記憶に残っています。入社後3年間は、毎週1度、朝の6時半からトレーニング。そこで、外国人である私は、英語の練習をさせられました。営業は、普通以上にきちんとした英語を話すことが要求されます。そこで、まずこの会社の名前をきちんと発音するのに苦労したんですよ(笑)。 “Merrill” というのは、RやLが並んでいて、発音しにくいですよね。そういうわけで、この早朝トレーニングでは、全員の前でウォール・ストリート・ジャーナルのトップ紙面を毎回朗読しました。最初はこれが屈辱に感じられて仕方ありませんでしたが、負けず嫌いの性格ですから密かに練習を続け、もう朗読しなくても大丈夫、と言われた時は、嬉しかったですね。
お仕事の内容
ファイナンシャル・コンサルタントのお仕事は、どのようなものか教えてください。
私は、個人で投資をなさる方を対象にしたサービスを提供する、プライベート・クライエント・グループ(Private Client Group)に所属しています。私たちのグループの仕事は、お客様が資産目標に到達する為の、総合的なアドバイスをさしあげることです。たとえば、株を購入する場合、どのような銘柄を、どういったコンビネーションで購入するのか、といったことから、生活の保証の為なら、どのような保険に加入すると良いのか、など、税金のことも考慮にいれながら、トータル・ケアを目指しています。
最近では、個人でもインターネットで株を自由に売買できるようになりましたが、コンサルタントとファイナンシャル・プランニングをするメリットとはなんでしょうか。
そうですね、コンサルタントは、”株の売買” という1つの行動に、さまざまな付加価値のついたサービスを提供できます。たとえば、株の購入に関しても、株の銘柄や、コンビネーションを考えなければなりません。コンサルタントなら、1つの急成長株を買うのではなく、お客様の財産を守り、かつ成長させながら、お客様のプランや目標にあった上手な組み合わせを考え、的確なアドバイスを致します。
小林さんの標準的な一日を教えてください。
朝は6時半頃出社します。私は朝型なので、これはちょうどいいスケジュールです(笑)。 そして、情報をターミナルから取り出し、ウォール・ストリート・ジャーナルを読みます。だいたい9時ぐらいから、お客様にコンタクトをとったり、コールド・コール(Cold Call)と呼ばれる、新規顧客開拓の電話をするなどの、営業活動を始めます。もちろん、お客様とのアポイントメントで出かけることもあります。
株式投資セミナーも開催
最近、日本人向けに、日本語による株式投資セミナーをされていると伺いましたが。
現在、2種類のセミナーを行っています。1つは、一般の方向けのセミナーです。これは営業活動の一環として、日米商工会議所のご協力により、株式とは、投資とは、というようなご説明も含む、教育的な面も持った内容になっています。投資に関する知識を深めていただくのはもちろんですが、日本人コミュニティに、私のようなファイナンシャル・コンサルタントがいるということを知っていただくだけでも嬉しいことだと思います。もう1つは、お客様を対象とした、より専門的なセミナーです。こちらは我社とお客様が知識や情報を共有し、資産の運用に関わる事を、さらに理解していただくことを目的としています。このようなセミナーを通して、たくさんの方にお会いすることができ、たくさんのことを学んでいます。厳しいですが、非常にやりがいのある仕事です。
小林さんのお仕事の大変な部分というのは何でしょうか。
一番難しいのは、ファイナンシャル・コンサルタントとして、お客様のご希望に、「NO」と言わなければならない時でしょうか。たとえば、急成長中の株を購入したい、とのご希望をいただいたとします。しかし、コンサルタントから見ると、急成長の陰には高いリスクが潜んでいることがあり、そのような時は、お客様のご希望であっても、お断りすることがあります。コンサルタントは、資産を守りつつ、上手に運用して増やしていくことが仕事ですから、このように難しいこともあります。
最後に、小林さんのされているようなお仕事に就きたいと思われる方に、アドバイスをお願いします!
私はもともと欲張りで(笑)、自分がやりたいことを追求するためのチャレンジには努力を惜しまないタイプです。ですから、就職活動の時も、アポイントメント無しで、マネジャーに会いたいのですがと、直接門を叩きました。 「マネジャーに会えたら、私の勝ち」 と思っていましたから、会わせてもらえた時は、とにかく自分を上手にアピールするだけ。やはり、どうせ仕事をするなら、満足感を得られる仕事、やって良かったと思える仕事をしたいですから、この仕事に就くために必死でした。アメリカの企業なら、やる気を行動で示すこともポイントなので、ほとんどの場合受け入れられるでしょう。この仕事では、自分がやったと思える満足感があります。また、それと同時に、チームで何かを成し遂げる喜びもあります。いくら個人主義のアメリカでも、大会社ではチームワークが必要。自分1人では大変なことも、チームなら楽に乗り越えられることもあります。また、会社は、社員が勉強し、成長していくことや、より良い労働環境を作り上げることへのサポートを惜しみません。これは、アメリカの会社と日本の会社の大きな違いではないかと思います。もっとたくさんの日本人の方に、私のような仕事に就いていただけると、日本人の方にとっても大変心強いかもしれません。自分のやりたいことへ向けて、努力を惜しまず、夢をかなえてください。
【関連サイト】
Merrill Lynch
Wall Street Journal
Western Washington University
掲載:2000年3月