DNA検査のパイオニアとして、世界中から注目を浴びているバイオテクノロジー企業 Genelex Corporation に勤務されている城田さんにお話を伺いました。
※この記事は2004年4月に掲載されたものです。
城田 邦仁(しろた くにひと)
1994年 夏休みの短期留学で渡米
1995年 シアトル・セントラル・コミュニティ・カレッジ入学
1999年 シティ・ユニバーシティ編入
2001年 シティ・ユニバーシティ卒業
同年 Genelex Corporation 入社
渡米
渡米のきっかけを教えてください。
幼い頃から英語に対する憧れが強く、成長するにつれ「母国語以外の言葉で話すことができれば」と思うようになったのが、渡米のきっかけでしょうか。幼い頃から話し好きということもあるかもしれませんが、日本語を話す人とだけでなく、英語を話す人とも幅広く話してみたいと思っていたのです。でも、中学から高校にかけての英語のクラスは好きではなく、成績も落第点ばかりでした。そこで、留学する前にある程度は英語を話せるようになると同時に心の準備もしておきたいと思い、高校卒業後に英語の専門学校に行きながら準備を開始。留学先をシアトルに決めたのは、夏休みの短期語学留学でアメリカ各地を周った時、生活環境や距離の面で西海岸の方が日本に近く、なじみやすいと感じたからです。シアトルは今でも大都市とは言えませんが、当時のシアトルは私の想像よりはるかにこじんまりしていたので驚きました。でも、「ここに長期間にわたって住むぞ」と心に決めてきたこともあり、どんどん慣れていかなくてはと覚悟しました。
最初の学校はいかがでしたか?
最初に入学したシアトル・セントラル・コミュニティ・カレッジでは、いろいろな人の考えを学び、いろいろなことを言える環境を与えられたと思います。アメリカ人の学生の中にも日本人をはじめとする外国人に慣れている人がたくさんいましたので、すぐに受け入れてもらうことができました。コミュニティ・カレッジという性格上、学校で友人を作るつもりのない人もたくさんいると思いますが、アメリカ人の学生と一緒にクラスを受ける正規の学生になってからは、留学生だからということで他の人と違う扱いを受けていると感じたことはありませんでした。
しかし、どれだけ自分が勉強しても、思うように自分を表現することがなかなかできなかったことが苦しかったですね。表現力の無さから、授業中での発言でも流されてしまったり、自分が言いたいこととまったく違う内容を「彼が言いたいのは」と勝手に代弁されたりしたこともありました。でも、州・国・市・地域によってもさまざまな文化や特徴があるアメリカ、それもシアトルのようにさらに多種の人種・国籍の人が共存している地域で、国対国ではなく、人間対人間として、自分が話している相手とのコミュニケーションを充実させるためには、国というレベルでコミュニケーションをすることを脱する必要がありました。
一方、日常生活ではわからないことをわからないままに放置したことで、いろいろ痛い目にあいました。例えば、電気代やケーブルテレビのアカウントを開いた時も、内容を理解していないのに面倒くさいのを理由にすべての質問に “Yes” と言ったため、非常に高額の請求が来たこともあります。ちゃんと理解していればいろいろなサービス・プランがあったのかもしれませんが、非常に損していましたね。ですから、ある時点から「聞き流すのではなく、きちんと聞いて理解していくこと」を実行していくようになりました。この努力は今の仕事に反映されていると思います。
シティ・ユニバーシティで学ばれたことを教えてください。
コミュニティ・カレッジを終えてコンピュータ・システムを専攻するためにシティ・ユニバーシティに編入した段階では、「コンピュータを使って何かしようとする前に、もっと勉強したい」と思っていました。この専攻を選んだのは、プログラミングやネットワーキングなど、コンピュータを使って行うさまざまな分野を勉強することで、臨機応変に社会に対応できるようにと考えて選びました。特定の分野をマスターするのは、社会に出てからでも遅くはないとも思っていたのです。コミュニティ・カレッジでは自分がやりたいことを明確にできないまま、好きな科目をとりすぎたために卒業が大幅に遅れてしまい、日本やアメリカの友人が社会人となって自分との差が広がるのに非常に不安を感じましたが、シティ・ユニバーシティでは当然ながら目標をしっかりと定め、きっちりスケジュールを組んでクラスをこなしました。
インターンシップ
卒業前にはインターンシップをされましたか?
先輩たちが就職活動に苦労しているのを見て、「自分も社会に出る前に経験を積んでおく必要がある」と思いました。やはり学生と社会人は大きく違うでしょうし、特にアメリカという外国で働くことから、より念入りに準備しておきたかったのです。そこで、大学4年生になった時、知人が勤務していた某ドットコム企業でインターンシップを始めました。知人のおかげで面接に行ったときには既にインターンシップが決まっており、人のつながりの大切さを実感しました。上司の部長もとてもよい人で、「インターンだからこそ、ソフトウェア開発がどのようにして行われているのかを見るべきだ」と、開発会議にも出席させてくれるなど、学ぶ機会を与えてくれたと思います。シティ・ユニバーシティは社会人のための大学ですので、一般の大学と比べると非常に実社会に沿った内容の教育をしていますが、単位を取得するための勉強と、実際に多額のお金が関わる実際のビジネスとの大きな違いを目の当たりにしました。
どのような内容のインターンシップだったのですか?
その会社では、品質管理と、ショッピング・カートと製品管理データベースのテスターを担当しました。ほんの半年でしたが、開発担当者とテスターはチームとして動きますので、相手を尊重しつつ、自分のしなければならないことをうまく伝える技術を学んだと思います。発見したバグの報告の仕方などからも、コミュニケーションの重要さを実感しました。IT関連事業は人件費が非常に高いので、1分でも1秒でも時間を無駄にすることはできません。ですから、だらだらと仕事をするのではなく、実際に仕事にとりかかって人件費がかかり始める前に、「プロジェクトは何で、自分の役割は何なのか」を各自がいかに短時間で把握するかが重要です。また、「言った」「言わない」という状況に陥るのを避けるため、仕事を始める前の時点で誤解がないようきちんと相互確認をしておく必要もありますね。
現在の仕事
今の会社に就職したきっかけを教えてください。
在学時にオプショナル・プラクティカル・トレーニング・パーミッション(以下、OPT)を申請し、卒業後すぐにコンピュータ関連会社のテクニカル・サポートとして採用が決定。それからしばらくは楽しく働いていたのですが、数ヵ月後には「自分の本当にやりたいのはこれなのか」と考える段階が来てしまいました。そして、OPTの期間を「自分が勉強してきたことを生かせる場所を見つける時間」と考えると、自分が本当にやりたいのは、コンピュータの組み立てや修理といった仕事ではなく、コンピュータをツールとして使いながら何かをやり遂げる仕事であることがわかったのです。その会社ではOPT終了後に就労ビザを取得してくれることになっていましたので、「就労ビザのためにテクニカル・サポートとして働き続けるか、それとも本当に自分がやりたい仕事で就労ビザも取得してくれる会社を探すか」と、非常に悩みました。しかし、「高い学費を払って一生懸命勉強したんだから、やはりそれを生かせるものを探そう」と決心し、それを知人に話したところ、今の会社が社内システムの開発・管理担当者を探していると教えてもらうことができたのです。すぐにレジュメを送り、数日後には社長との電話面接で、「社会の中で人とコンピュータがいかにつながって成長していくかに興味がある。あなたの会社でその成長を助ける仕事をしたい」と語っていました。それで非常に好感を持ってもらったようで、1週間以内に面接をしていただき、その場で採用が決まりました。
Genelex は世界各地から注目されていますが、業務の内容を教えてください。
簡単に言うと、我社は移民局・裁判所・病院・警察などが必要とするDNA検査を行っています。例えば、家族だと主張して移民を希望している外国人たちが本当に家族なのか確認したり、病院で子供のすり替えを防ぐためにあらかじめDNA検査をしておいたりすることもあります。一般的にあまり知られていませんが、栄養や薬がどのように体に吸収されているのかもDNA検査で判断できます。人間の体には体内に入った薬を吸収する化学的な道がありますが、この検査では処方された薬が自分にどれだけあっているのかがわかります。自分の体に吸収されない薬を飲み続けていても効果はありませんし、体内に蓄積された薬が体に悪影響を与える場合もあるわけですから、この検査はとても役に立つと言えるでしょう。また、栄養の消化検査では、ビタミンや栄養分の消化は遺伝で決まるというコンセプトに基づき、「あなたは遺伝的にこの部分が劣っていますから、こういう食品を摂りなさい」と、遺伝的な面から栄養の摂取をアドバイスするもの。また、骨髄移植の後に移植がどれだけうまくいっているかなどもDNA検査で判断することができます。
米国内はもちろん、世界各地にはDNA検査を行っている言っても、実際の検査は検査所に外注しているところがほとんど。しかし、我社は研究から検査まで一貫して行っていますので、この業界のパイオニアでもあります。
さまざまな検査の中で、一般的に最も需要があるのはなんでしょうか。
親子鑑定と身元鑑定が多いですね。特に2001年9月11日の同時テロ事件以来、この2つの検査の需要が急激に伸びています。アメリカでは義理の父母という関係も多いので、血のつながりを確認したいと希望される方もたくさんおられますね。親子鑑定では、親子の両方が生存中である場合から、片方が生存中で片方が亡くなっている場合、両方が亡くなっている場合など、いろいろあります。また、遺伝的な観点から、自分の人種を判断する人種鑑定(Ethnicity Test)も需要があります。生物学的には親がいて子があるのですが、先日テレビで我社が紹介された際に1つの例として紹介された女性は、自分がネイティブ・アメリカンだと思っていたのに、人種鑑定によるとネイティブ・アメリカンの遺伝子はまったく入っておらず、実は90%ヨーロッパ人でした。しかし、人間は90%以上は同じDNAを共有していることを考えると、人種というものを越えた何かを感じますね。
城田さんはその中でどういった業務をされているのですか?
私の仕事には2種類あります。1つは基本的にコンピュータに関連することなら何でも。もう1つは検査用のサンプルを弊社のコンピュータ・システムを使用して検査の準備・業務の分析と改善・書類作成などです。
まずコンピュータ関連の仕事の例では、我社が現在の所在地に移転してきた時には、コンピュータ20台が使用する社内ネットワークの構築を1人で行ったことがあります。ネットワークの構築自体は簡単かもしれませんが、それを会社の立場に立って構築・管理をすることはまた別で、シティ・ユニバーシティで徹底して学んだことが役立ったと思います。例えば「会社の移転に伴い、将来性も考えた社内ネットワークを構築する」というケースを想定し、何人のユーザがどういった目的で各自のコンピュータを使うのか、そのためにはどういうコンピュータが必要か、さらに建物が築何年なのか、古ければ新しいケーブルをいれる必要があるかなどを一から勉強していましたので、それをそのまま生かすことができました。会社という立場で見ると、各社員がどういった理由で何時間コンピュータを使うのかを把握する必要がありますが、その観点では人間さえもオブジェクトのように見えておもしろかったですね。社内の他の職務を勉強するのにも役立ちました。しかし、学校と大きく違うのは、私が失敗すれば会社の業務に支障が出る上、私自身も職を失う可能性があるということ。学校のプロジェクトなら「これをやってみよう」と冒険できますが、会社であれば完全に成功させる必要があり、不安な要素があれば「うまくいけばこうなります。しかし、うまくいかなければこうなります」と、自分の責任を示した上での提案が必要になりますね。学校では常に新しいテクノロジーを追求できますが、会社ではコストと時間を考え、どれが必要でどれが必要でないかきちんと認識しなければなりません。変化を起こすということでどれだけの責任と仕事が伴うのかをひしひしと感じます。最初は胃が痛くなっていました(笑)。
会社のシステム管理者として、最も大変なことはなんでしょう?
社員にもいろいろなタイプがいます。それぞれ自分の仕事が最も重要ですから、他のチームや社員の仕事はまったく関係ありません。また、彼女たちにとってみればコンピュータは仕事をするための道具であり、「仕事さえできればコンピュータのことは知らなくていい」という感覚がどうしても見受けられるのです。しかし、いくら自分のコンピュータでも好き勝手なことをすれば会社全体の業務にも支障が出てきますので、それを説明して理解してもらうのが大変ですね。例えば、インターネットからアプリケーションを勝手にダウンロードしてインストールしてしまったり、他のデータとつながっている重要なデータを勝手に削除してしまったりと、常に問題が発生します。もちろん、そういったことを未然に防ぐシステムを私が作るわけですが、問題解決能力がとても必要になりますね。そのためには、人の話をよく聞かないといけません。コンピュータに問題が発生した場合、コンピュータを知らない社員は「壊れた」と言うだけで、「実際に壊れているのか」「壊れているなら、どうして壊れたのか」ということにまったく興味が行っていません。でも、直す立場からすると、そういう事態になる前に社員が何をしていたのかを知るのが大切。社員はたいてい覚えていないのですが、話をしながら引き出していかなければなりません。
もう1つのお仕事について教えてください。
そういったシステム管理以外には、サンプルを検査用に準備すること、プログラムを使って業務のクオリティを分析し、改善していく仕事があります。DNA検査は検査自体も重要ですが、その検査に関わってくるものも非常に大切。問題があれば、なぜそれが起こったのか、そしてそれを解決するにはどうしたらいいのか提案し、実際に問題を解決しなければなりません。専門とはまったく違う分野とは言え、業務全体を理解しないとコンピュータのシステムやプログラムの構築・管理ができませんので、私にとっては大切な仕事と言えます。
最近になって自分にアシスタントがつき、今まで自分1人でこなしていたサンプルを検査用に準備する仕事を2人で担当することになりました。そうなると、2人で1つのチームとして動くことになります。これまでは自分が学ぶだけでよかったのですが、他人に教える立場にもなることで、その違いにとても驚いています。
まったく違う種類の仕事を同時に担当することは大変ではないでしょうか?
そうですね、優先順位を決めることが最も難しいです。そんな時は、まず上司に確認することにしています。自分が「これが最も重要だ」と思っても、上司の視点から見れば違うこともありますし、確認しなかったことで誤解が生じ、「なぜそうしたのか」と問題になることはできるだけ避けなければなりません。わからなくなって仕事を止めてしまったり、自分の勝手な考えで進めてしまったりするのではなく、やはりチームとしてコミュニケーションを取ることが必要です。また、同じ状況が再び発生した時のために、最初に記録をしておき、2回目からはそういった記録を元に自分で問題解決できるようにすることが重要ですよね。自分に何かあっても、他の人がすぐに代わりを務めることができるようにするのが自分のゴールです。そのため、会社ではメモ魔と呼ばれています(笑)。上司がしきりに、”Don’t rely on your memory” (記憶に頼るな)と言います。日本では記憶力が重要視されていたので、最初は理解できませんでしたが、自分を含め多数の人がいかに無意識に都合よく記憶を変えてしまうかを実体験するにつれ、上司から教わったように記憶の不十分で後悔することを避けるべく常に業務データとともに自分の記憶のバックアップと言う意味でメモをしっかり取り始めました。特にバイオテクノロジーで使用するデータベースは数字が命。自分がこの数字が正しいと記憶していると主張しても、それを証明できるまではただの記憶にしか過ぎません。ですから、記憶すると同時に、きちんとバックアップも取ることが大切です。
高いコミュニケーション能力が必要とされますね。うまく仕事をするポイントはなんだと思いますか?
私の経験を通してですが、わからない時は「わからない」と言うことですね。そして、「わからないと言いづらい」と思う時は、その言いづらい思いも伝えることが重要です。また、私の場合は社内でバイオテクノロジーの非常に高度な専門用語が飛び交っていますが、言語をネックにしないよう個人で勉強することが重要だと思います。言葉がわからなければ、業務内容も把握できず、新しい製品を導入するにも社内システムの作りようがありません。また、英語を母国語としていないことがデメリットになると、「説明するのが面倒くさい」という気持ちが相手の中に生じてしまい、「たいしたことじゃないから」と話をしてもらえなくなり、新しいプロジェクトのチームにも入れてもらえない状況に陥るかもしれません。でも、そこで「コンセプトがわからないからわからないのだ。どうやったらわかるようになるのか教えてくれ」と突っ込んでいく必要があるのだと思います。また、コミュニケーションをより効果的にするために、自分の意見をサポートする情報を常に持っておくことも大事だと気づきました。例えば業務のある部分を改善するための変更を提案する時など、ただ「変更したい」と訴えるのではなく、その理由と手順などを、数字などのように明確な情報を盛り込んで説明することによって、上司の受け入れの速さも変わってくるということを実感しています。
今後の抱負を教えてください。
検査結果を計算し、クライアントに提出する書類を作成することも私の仕事ですが、法廷に提出するための書類であれば、最初に注文を受けたところから記録していかなければならず、それなりのシステムが必要とされます。会社の業務や各社員の仕事を学び、業務の流れに最も適した、かゆいところに手が届くようなシステムを構築していきたいですね。自分の仕事の内容だけでなく、自分の仕事がこの会社にどのように役立っているかを把握すれば、他の社員がやっている仕事やニーズも理解しやすくなると思います。今はそのシステム管理と改善に生きがいを感じています。
入社した時にDNA検査について教育されるのですが、DNA検査は注目を浴びているだけあって、親子であることが証明されてアメリカへの入国が許されたり、養育費の支払いが義務付けられたりと、その1枚の紙で誰かの人生が変わると思うと、本当に最善を尽くしたいと思います。「自分がDNA検査をするなら、ここにお願いしたい」と言われるほどの仕事をしたいですね。
【関連サイト】
Genelex Corporation
掲載:2004年4月