米国とカナダの通商交渉は8月21日に決裂し、米国は22日、カナダ産品に50%の追加関税を発動しました。ホワイトハウスは、酒類や乳製品、自動車分野でのカナダの不公正な扱いへの対応だと主張しています。これに対し、カナダのカーニー首相は「戦争状態だ」と述べ、9月8日から同水準の報復関税を課す方針を示しました。米国とカナダは700マイル近い国境を分け合うワシントン州にとって、隣り合う最大級の貿易相手です。
カナダとの通商 何が起きているのか
トランプ大統領は7月20日、1930年関税法(Tariff Act of 1930)の338条にもとづき、カナダからの輸入品に50%の追加関税を課す大統領令に署名しました。発動は一度先送りされましたが、8月22日に発効し、カナダからの乳製品や電子機器、木材製品など約200億ドル相当の品目が対象となっています。
これに対しカナダ政府は8月25日、鉄鋼や乳製品、家電、農業機械など約700品目・200億ドル相当の米国製品に対抗関税を課すと正式発表しました。税率は15%・25%・50%の3段階で、適用は9月8日から。対象となる品目のリストはカナダ政府の公式サイトで公開されています。
ワシントン州が受ける打撃
シアトル・タイムズの報道によると、ワシントン州商務省のデータでは、2026年上半期の対カナダ輸出額は約40億ドルで、州全体の輸出額370億ドルの11%を占め、中国(46億ドル)に次ぐ規模となっています。品目別では、産業機械が約9億ドル、紙・板紙が4億6,000万ドル、水産物が3億2,500万ドル、木材製品が2億1,100万ドルにのぼります(2025年実績)。州の主力輸出品である航空機関連は、今のところカナダの対抗関税の対象には含まれていません。一方、ワシントン州のカナダからの輸入額は2026年上半期で約85億ドルにのぼり、その半分以上を石油などのエネルギー製品が占めているといいます。
シアトルのNPR系放送局KUOWの取材にウエスタン・ワシントン大学のトラウトマン所長は、森林製品や農産品が早期に打撃を受ける分野だと説明しています。輸入面では天然ガスの9割以上をカナダに依存しており、ワシントン州国際貿易協議会(WCIT)によると、直近1年間の追加関税負担は鉄鋼・アルミニウムだけで9,400万ドルにのぼりました。同協議会のオットー・パンク会長は「猶予があることを望んでいたが、こうなってしまった」と話しています。シカゴ連銀の分析では、影響はカナダの対米輸出全体の約5%にとどまるとしており、ワシントン大学のジェイン氏も「大きくはないかもしれない」と見ています。
シカゴ地区連邦準備銀行の分析では、今回の米国の関税はカナダの対米輸出全体の約5%に影響するとされており、ワシントン大学フォスタービジネススクールのアプルバ・ジェイン氏(サプライチェーン専門家)は、州への影響は「多少はあるが、それほど大きくはないかもしれない」と述べています。
「レイク・オンタリオ」を「レイク・アメリカ」に改名?
米加関税戦争が激化するさなかの27日、トランプ大統領はレイク・オンタリオの名称を「レイク・アメリカ」に変更する大統領令に署名しました。
米加対立のさなか、トランプ大統領は8月27日、レイク・オンタリオを「レイク・アメリカ」に改名する大統領令に署名しました。この名称は先住民ワイアンドット族の言葉「オンタリ・イオ」(美しく大きな湖の意)に由来し、両国の建国以前から400年以上使われているもの(モホーク族=Mohawkの言葉に由来するとの説もあります)。カナダで最も人口の多いオンタリオ州も、この湖の名にちなんでつけられました。
カナダのカーニー首相はX(旧Twitter)への投稿で、この由来と歴史の長さに触れ、「カナダはこれからも、レイク・オンタリオと呼び続ける」との考えを示しました。
この改名については、米国内からも異論が出ています。ニューヨーク州のセネカ族(Seneca Nation)代表J・コンラッド・セネカ氏は8月28日、今回の改名は1794年の「カナンデーグア条約」に反するとして、撤回を求める声明を発表しました。同条約は米国と先住民の間で結ばれた最古級の和平条約の一つで、ジョージ・ワシントン初代大統領がハウデノサウニー連邦(イロコイ連邦)の指導者らと署名し、条約文にはセネカ族の領域が「レイク・オンタリオから始まる」と明記されているといいます。
なお、内務省は30日以内に地名情報システム上の表記を改めることが求められていますが、米国が他国に名称の使用を強制することはできないため、今回の措置は米国連邦政府内での呼称にとどまります。同様の手法は2025年1月、メキシコ湾(Gulf of Mexico)を「ガルフ・オブ・アメリカ」(Gulf of America)と改名した際にも取られました。
編集部が8月29日、米国内で各地図アプリを確認したところ、Google Mapsでは同日までに「レイク・アメリカ」に表示が切り替わっていることが確認できました(8月28日時点では「レイク・オンタリオ」表示)。一方、Apple MapとBing Mapは8月29日時点でも「レイク・オンタリオ」のままとなっています。Googleはこの件についての詳細な説明を公式サイトに掲載しています。
今後の焦点
カナダの対抗関税は9月8日に発効します。ワシントン州にとっては輸出産業への影響に加え、カナダからの往来がどこまで戻るかも今後の目安になりそうです。
- 米国政府:カナダに対する追加関税発表
- カナダ政府:報復関税の発動発表
- カナダ政府:関税の対象となる米国製品リスト
- カナダ首相:米国との通商交渉についての記者会見(8月22日)

