
「その人らしく生きるのを助けるのが医療」をモットーに、日米の医療のさまざまな違いをわかりやすく解説します。
私の祖母は、脳梗塞で闘病し、18年間にわたり入退院を繰り返しました。徐々に体力がなくなり、食事も摂れなくなり、点滴と鼻からのチューブ栄養のみになりましたが、寝たきりでも意識がはっきりしていた祖母は、「早く楽になりたい」と常日頃言っていました。あのとき日本に Physician Orders for Life Sustaining Treatment(POLST)があったら、祖母は希望する形で終末期を迎えることができただろうと今では思います。
Physician Orders for Life Sustaining Treatment(POLST)とは
アメリカでは、延命治療の意思決定を事前に自分で決めることができます。Physician Orders for Life Sustaining Treatment(POLST)とは、その意思を実際の治療に反映させるための書類です。これは法的に認められたもので、ワシントン州では、Department Of Health(DOH)と Washington State Medical Association(WSMA)が管理しています。
POLST の書類は、担当の医師、ARNP、PA からもらうことができますが、個人で WSMA から取り寄せることも可能です。あるいは、医療施設に入院、入所した際に、POLST の書類を書くこともできます。
書式では、心肺蘇生をするか、どこまでの医療介入をするか、などの実際の延命治療について記入していきます。それらを記入した後、担当の医師、ARNP、PA が署名します。POLST の書類は、患者の最も重要な書類として医師処方箋と共に保管されます。患者が他の医療施設に移るときは、POLST の原本も一緒に移送され、元の医療施設にはその複製が記録として保管されます。
なお、POLST は、病状や生活状況が変化した時だけではなく、いつでも内容を見直して変更することができます。POLST を記入した後は、定期的に見直すことをおすすめします。
POLST の内容
POLST は A、B、C、D の4つのパートから成ります。項目 C 以外は、選択肢をチェックする書式になっています。
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呼吸停止の場合の心肺蘇生
- CPR(Attempt Resuscitation):心肺蘇生をする
- DNAR(Do Not Attempt Resuscitation):心肺蘇生をしない
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医療介入
- Comfort Measures Only :疼痛のコントロール、痛みの緩和、安楽
- Limited Additional Interventions :Comfort Measures と病院での集中治療をできるだけ避けた医療介入、人工呼吸器装着をしない
- Full Treatment:人工呼吸器装着を含む高度な集中治療をする
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署名
- 医師または ARNP、PA の署名
- 本人または法的代理人の署名
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緊急ではない医療介入の希望
- Antibiotics :抗生物質を使用する/しない
- Medically Assisted Nutrition :チューブを使用し栄養剤を投与する/しない
- Additional Orders:その他希望する医療介入(透析、輸血、ペースメーカーなど)
POLST を記入する前は必ず医療者の説明を納得がいくまで受けましょう。第一言語が英語ではない場合、通訳をつけることも可能です。
いざというとき、自分自身や家族は迷ったり不安になるでしょう。POLST を通し、自分の終末期の治療について考え、形にしておくことは、そのときのあらゆる指標になると思います。
掲載:2014年8月 情報提供:youcocare 看護師 岡本 優子さん
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