日本の病院では、長い待ち時間の後にやっと診察室に呼ばれても、忙しい医師とあまり言葉を交わすことなく、あっという間に診療が終わるといった話をよく耳にします。
米国でも医師は忙しいですが、一般的に診療時間は日本よりは長く、患者とのコミュニケーションも重視されています。言葉の壁を心配する人もいると思いますが、米国の多くの医療機関では、患者は自己負担なしで通訳サービスを利用できます。
病院での通訳サービス
いくらすぐれた医療技術があっても、医師が患者の状況を把握できず、また、患者が治療内容を十分に理解できないなどの問題があると、効果的な治療を受けられないどころか、患者が危険にさらされることもあります。このため、医療者と患者とのコミュニケーションは、双方にとってとても重要です。
移民の多い米国では、約2500万人が英語の運用能力が十分でない(LEP:Limited English Proficiency)状況にあると言われています。1964年の公民権法および、オバマ政権時代にできた医療保健制度改革法で人種や国籍などによる差別を禁じていることから、メディケア(公的な高齢者医療保険)などで、連邦政府から資金を得ている医療機関は通訳を提供することが義務づけられています。これは、英語運用力が不十分な患者が、不利益を被らないようにするためです。トランプ大統領は「英語を米国の言語とする」という大統領令を出しましたが、医療通訳の提供は連邦法に基づいているので、連邦議会が法を変更しない限り影響は受けません。
ワシントン州保健福祉局(DSHS)公認の医療通訳士によれば、病院の予約を取る際に通訳を希望しておけば、特に初回の診察では対面通訳が一般的だそう。事前に通訳を希望せず、診療の場で通訳が必要とされた場合は、電話やタブレットによる音声またはビデオ通話による通訳もありますが、初診時に州公認の医療通訳士が同席してくれると心強いですよね。
医師とのコミュニケーション 医療通訳を使うコツ
米国で暮らす日本人はすでに経験ずみと思いますが、米国では伝えたいことはすべて言葉にする必要があります。相手への忖度は不要ですが、逆に口に出さずに意を汲んでもらうことは期待できません。自分が不安に思っていること、希望することはすべて伝え、相手の言うことがわからない場合は、遠慮なく、わかるまで説明してもらうことが大切です。
また、米国では医師と患者の関係は対等で、医師が患者にとって最良と判断する検査や治療を提案しますが、決めるのは患者です。医師からの提案に疑問があったり、納得できなかったりしたら、その検査は何のために必要なのか、あるいは別の治療法はないかなどの説明を求めて、自分が納得できる医療サービスを受けたいものです。
英語に不安がある場合は、躊躇せずに医療通訳を活用しましょう。ただし、医療通訳の役割は医師と患者の言葉を忠実に橋渡しすることであって、相談相手ではないので、患者自身が通訳を介して医師に聞きたいこと、伝えたいことを明確にしておく必要があります。
また、例えば女性に特有、あるいは男性に特有な疾患の場合は、患者と同性の通訳の方が話しやすいでしょう。音声やビデオ通話では、時には医療が専門でない通訳が対応する場合もあるようなので、通訳が内容をよく理解しない場合は、遠慮せずにその旨を医師に伝えて通訳を変更してもらうべきと、医療通訳士はアドバイスしています。
なお、病院に手配してもらわず、自分で個人的に通訳を雇った場合は、すべて自己負担になるので注意が必要です。
患者ポータルも活用しよう
米国では多くの場合、それぞれの医療機関がオンライン上で提供する患者用のポータル(Patient Portal)を通して、患者が自分の診療記録や検査結果を直接見ることができます。
耳から聞くとわからない単語でも、書いてあれば調べられるので、理解が深まります。診察室で聞きそびれた疑問や処方箋についての質問なども、ポータルを通してメッセージを送れば、担当医や担当医付きの看護師などから返事をもらえるので安心です。
米国は医療保険の掛け金も、実際に医療サービスを使った時の費用も、日本とは比較にならないほど高額です。「医療サービスを買う」という表現は、日本人には馴染みにくいですが、米国で納得のいく医療を受けるには、自分が必要とする医療サービスを自ら調べ、選択し、利用可能な制度は積極的に利用する賢い消費者になる必要があるのです。(終)
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