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ソプラノ歌手・佐藤康子さん 「蝶々さんが苦しみながらも成長する過程をしっかり表現したい」

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1904年にミラノ・スカラ座で初演され、その美しいメロディで人気を博し、プッチーニの代表作の一つとなった 『Madame Butterfly(蝶々夫人)』。この8月、シアトル・オペラが5年ぶりに上演するこの作品に、イタリアを拠点に日本やヨーロッパの舞台で活躍するソプラノ歌手の佐藤康子さんが主役で出演します。今回の出演で初めてアメリカの地を踏むという佐藤さんに、シアトル公演にかける想いなどについて伺いました。

佐藤康子さん

– シアトル・オペラでの出演はどのようにして決まったのですか?これまでシアトルにいらっしゃったことは?

シアトル・オペラ出演は、私のイタリアのエージェントのほうに依頼がありまして決定いたしました。私の活動はヨーロッパ、日本が主な拠点でしたので、シアトルのみならずアメリカの地を踏むのが初めてのため、大変興奮いたしております。

– 佐藤さんは、『蝶々夫人』の蝶々さんの役では日本はもとよりイタリア、その他の国々でも歌ってらっしゃいます。蝶々さんやこの作品への個人的な思いを教えてください。

この蝶々夫人の役への私の思い入れは格別です。といいますのも、随所に日本の音楽がちりばめられ、それがプッチーニの手により、西洋の音楽と絶妙に絡み合い、素晴らしい化学変化が起こっている音楽だと感じられるからです。ただ日本のポピュラーな音楽を引用して強引に使ったのではなく、プッチーニの音楽の中で美しい刺繍のようにその姿を垣間見せるのです。私には本当に美しい音楽に思われます。

蝶々夫人は日本の大学で勉強したときから、今までずっと研究を続けている役でして、蝶々夫人の初演版と決定版を比較しながらプッチーニの理想の蝶々さん像を探るといった論文も書きました。そのため、この役のこととなりますと何時間も話し続けて皆さんを辟易させてしまうことと思います。

またこれは私の個人的な印象なのですが、蝶々さんの言動などをひとつひとつ見ますと、どうも日本人本来の振る舞いといいますより、外国から見た「日本人はこう動くであろう」という理想というか決めつけといいますか、そういった外国人の想像が蝶々さんにあてがわれているような気がします。そこには日本への憧れと、尊敬、また特異なものを見る好奇の目、理解できぬ異質なものをみるような侮蔑と色々なものが混ざっていると感じられるのです。その中からどう実際の日本人に近く見てもらえるようにするかは、私の舞台上の動きなどにかかってくると思うので、がんばって大和撫子らしくふるまってみたいと思います!

– 今回がシアトル・オペラ初出演となりますが、観客にはどのような「蝶々さん」を伝えたいとお考えですか。

どのような蝶々さんをお見せしたいか、私はあどけない少女の姿で幕を開けた蝶々さんが、オペラが進むに従ってどう成長していくのか、その過程をしっかり表現したいと思います。

回りの日本人に拒絶され、八方塞がりになり苦しんで行く過程で逆に彼女の精神は覚醒していく、その姿を皆様にお伝えしたいです。

– イタリアで長く生活されていると伺いましたが、本番が終わった後やオフの日はどのように過ごしてらっしゃいますか。シアトルで楽しみにされていることはありますか。住んでいない場所で公演する場合、出演予定のない日はどのように過ごされますか。

本番が終わったあとは大抵アドレナリン大放出のためか眠れないので、ベッドの上でごろごろしながら朝を迎えます。オフの日はできるだけその街の観光名所など回りたいと思うのですが、なかなか公演に気をとられて観光に集中することができません。前にアテネの街に1ヶ月滞在した時も、半日だけパルテノン神殿を見ることができましたが、それだけしか観光できませんでした!ただ、その街その街のスーパーマーケットを回るのが大好きです!

– お名前のスペルを Yasuko ではなく Yasko とスペルされていることにはどのような理由が?

私の名前を Yasko と書くのには訳があります。Yasuko とパスポートに記載されている方法で書くと、イタリアの方は必ずヤスーコと発音されるのです。そしてヤスーコは、どうも南イタリアであまりよろしくない言葉を連想させてしまうらしい、と南イタリア出身の友達に教えてもらいました。そこで試しに U を取って書いてみましたら、日本語の発音に近い感じで正しくヤスコと発音してもらえまして、それから Yasko と書かせていただくことに決めました。

– シアトルに住む日本人へのメッセージをお願いします。

シアトルにたくさん日本の方がお住まいということは前から存じておりました。私の父の勤めていた会社の支店もシアトルにあることで勝手に親近感を持たせていただいております。皆様が楽しんでいただけるような舞台になるよう精一杯務めますので、たくさんの方においでいただけたら幸いです。

– ありがとうございました。

佐藤康子略歴:
千葉県我孫子市出身。東京藝術大学音楽学部首席卒業。学部在籍中に、安宅賞、松田トシ賞、アカンサス音楽賞を受賞。同大学院修士課程オペラ研究科卒業。同大学博士課程修了。声種はソプラノ・リリコで、モーツァルトからヴェリズモまで幅広く歌う。特にプッチーニのオペラ、『ラ・ボエーム』 のミミ、『蝶々夫人』 タイトルロールが当たり役となり、特に蝶々夫人は2008年にスペインでデビュー後、イタリアなどヨーロッパ各地や日本で出演を重ねている。2016年12月には初めてのソロリサイタルも開催した。公式サイトはこちら

シアトル・オペラ 『Madame Butterfly』 公演
日程:8/5、6、9、12、13、16、18、19
佐藤さんの出演日:8/6、12、16、19

『Madame Butterfly(蝶々夫人)』作品紹介:
舞台は1890年代、明治時代の長崎。没落藩士の娘で15歳の蝶々さんと戯れに結婚した米国海軍中尉のピンカートンは、「きっと帰る」と言い残し、本国アメリカに帰国してしまう。純情な蝶々さんはこの結婚は真実の愛によるものと信じ、ピンカートンとの間に生まれた息子を育てながら再会を待ちわびるが、3年後、裏切られたことを知る。そして、大切な息子を夫とアメリカ人の本妻に託し、元士族の誇りを守るために父の形見の短刀で自死するのだった。

掲載:2017年7月



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