MENU

シアトルのバラードロックス|住宅街にある全米一の水門と鮭の里帰り

  • URLをコピーしました!

シアトルのバラードの住宅街の一角にある「バラード・ロックス」(正式名称:Hiram M. Chittenden Locks)は、1917年にアメリカ陸軍工兵隊(USACE)によって完成した歴史ある水門です。こじんまりとした施設ながら、年間約5万隻が通過する全米一交通量の多い水門として知られ、漁船やヨット、観光ツアーの船が日々ここを行き来しています。

公式サイトによると、バラード・ロックスは華やかな観光地ではないものの、年間100万人以上が訪れる人気スポットとなっています。また、ここは鮭の里帰りを支える場所でもあります。夏から秋にかけてフィッシュラダーをのぼるサーモンの姿は風物詩となっています。

目次

バラードロックスが建設された理由

チッテンデン水門

20世紀初頭、シアトルは急速に成長し、港湾都市としての地位を高めつつありました。しかし、レイク・ワシントンやレイク・ユニオンとピュージェット・サウンドは直接つながっておらず、レイク・ワシントンやレイク・ユニオンからは海に出られないという問題がありました。

そこで、湖を海と結び、産業・輸送を発展させる目的で建設されたのがバラードロックスです。1911年に着工し、1916年に最初の船が通過し、1917年から運用が始まりました。Port of Seattle によると、建設の狙いは以下の点に整理できます:

  • 産業発展:湖に面した地域に製材業や造船業などの産業を発展させるため、海と湖を結ぶ必要があった。
  • 港湾アクセス:レイク・ワシントンやレイク・ユニオンにある港を直接太平洋航路につなぎ、物流を効率化する。
  • 水管理:湖の水位を安定させ、周辺地域の洪水リスクを減らすとともに、航行を安定化させる。
  • 地域経済の統合:シアトルを西海岸の主要な貿易都市として位置づけるためのインフラ整備。

結果として、バラードロックスはシアトルの経済と港湾開発に大きな影響を与え、今日に至るまで重要な役割を担い続けています。現在はアメリカの史跡として登録され、アメリカ土木学会から「国内歴史土木工学ランドマーク」にも指定されています。

正式名称は Hiram M. Chittenden Locks ですが、地元では「バラード・ロックス」や単に「The Locks」と呼ばれています。この場合の Locks は「閘門」(こうもん)という意味。

構造と仕組み

バラード・ロックスの仕組みは、20分ほど見学すると理解できます。主な役割は3つに分けられます。

  1. 水位の維持:レイク・ワシントンとレイク・ユニオンの水位を海抜20〜22フィート(約6.1〜6.7m)に保ちます。
  2. 塩水の侵入防止:ピュージェット湾から淡水湖への塩水遡上を防ぎ、淡水生態系を守ります。
  3. 船舶の通航支援:水位差のある海と湖の間で船を安全に移動させます。
左:湖から海へ行く場合
右:海から湖へ行く場合

バラードロックスには大小二つの閘門があり、船舶の種類や数に応じて使い分けられています。

  • 小型閘門:約30×150フィート(8.5×45.7m)、小型船舶向け
  • 大型閘門:最大825フィート×80フィート(約251.5×24.4m)、大型船舶や観光船が利用
  • 放水堰(Spillway):6基のゲートで水位を調整
  • 塩水バリア(Saltwater drain):塩分濃度を抑えるための排水システムを備え、淡水環境を維持

このような仕組みにより、カヤックから観光船まで、いろいろな船舶が通れるようになっています。

サーモンの里帰りを支えるフィッシュ・ラダー

チッテンデン水門 フィッシュ・ラダー(Fish Ladder)

バラード・ロックスにはフィッシュラダー(fish ladder)が併設されており、海から産卵のために40~50マイル(約64〜80km)も遡上して生まれ故郷のシーダー・リバーやサマミッシュ・リバー、イサクア・クリークなどといった川へ戻るサーモンが通れるようになっています。パンデミック中にリニューアルされた観察窓からは、海から淡水域へ力強く泳ぎのぼる姿を間近で見ることができます。

  • 紅鮭(Sockeye/ソッカイ):6月中旬〜7月中旬にピーク。数が年々減少しており、その数には大きなばらつきがある。最近の年間平均は約25,000尾で、6月中旬から7月中旬にピークを迎える。
  • キング(Chinook/チヌーク):8月にピーク。年間平均約15,000匹。
  • 銀鮭(Coho/コーホー):9月にピーク。年間平均約25,000匹。

このフィッシュラダーは、レイク・ワシントンやシーダー・リバー、サマミッシュ・リバーなどへ遡上する鮭にとって唯一の通路となっているので、先住民のマックルシュート族やスクアミッシュ族もモニタリングや漁業活動に関わっています。

レイク・ワシントンのサーモンの集計数は、ワシントン州魚類野生動物局の公式サイトで公開されています。

サーモンの遡上がピークを迎える時期は、アザラシやアシカも見ることができます。この地域にとって重要なサーモンを食べてしまうアザラシやアシカは問題ですが、完全な駆除は実現できていません。

観光と学びの場

ビジターセンター
ビジターセンターの展示

ビジター・センターでは、水門の歴史やサーモン保護の取り組みを学べます。電動の模型を操作すると、水門の仕組みがさらによくわかります。午後2時からは無料のウォーキングツアーも行われるので、始めて訪れる人にはおすすめです。

ロックスのもう一つの見どころは、小さな植物園
小さな庭園

敷地内の「Carl S. English Jr. Botanical Garden」では四季の花が楽しめます。

FAQ(よくある質問)

これはダムですか?

初めて訪れる人の中には、コンクリートの構造や水をせき止める姿からダムと誤解する方も少なくありません。ですが、バラード・ロックスは「ダム」ではなく「閘門(こうもん)式の水門」です。

  • ダム(Dam)は水を貯めることが主な目的で、水力発電や農業・都市用水の供給に利用されます。
  • 水門(Locks)は、水位の異なる水域を船舶が安全に行き来できるよう、水位を調整する仕組みです。

バラード・ロックスの役割は、レイク・ワシントンとレイク・ユニオンの水位を一定に保ち、ピュージェット・サウンドからの海水が淡水湖へ侵入するのを防ぎ、さらに船舶が水位差を越えて通航できるようにすることです。つまり、「貯水」ではなく「通航と水位調整」が目的なのです。

サーモンの遡上はいつ見られますか?

サーモンの遡上シーズンは毎年6月から9月です。紅鮭(Sockeye)は6月中旬〜7月中旬、キングサーモン(Chinook)は8月、シルバーサーモン(Coho)は9月にピークを迎えます

入場料はいくらですか?

バラードロックスとフィッシュラダー、植物園への入場は無料です。ビジターセンターや無料ウォーキングツアーも追加料金はかかりません。

駐車場はありますか?

敷地の外に有料駐車場があります。ただし、夏の週末やサーモンのピークシーズンはすぐに満車になるため、早めの来訪または公共交通の利用をおすすめします。

車を運転しない場合の行き方は?

シアトル中心部からMetroバス17番、29番、44番でアクセス可能です。バス停から徒歩数分で到着できます。または、ライドシェアも利用できます。

どのくらい時間を見ればいいですか?

水門の見学、フィッシュラダーの観察、植物園の散策を合わせて約1.5〜2時間が目安です。ゆったり過ごすなら半日観光としても楽しめます。

水門のツアーはありますか?

午後2時から無料のウォーキングツアーが行われています。ビジターセンターから始まって、所要時間は約1時間。 事前の申し込みは必要ありません。なお、8名以上のグループや、ご希望の時間やニーズに合わせたツアーをご希望の場合は、プライベートのグループツアーを申し込むことをお勧めします。

観光船ツアーも利用できますか?

はい。ウォーターフロントから出発する観光クルーズで、ロックスを通過し、実際に水位調整を体験できます。観光船については、下記をご覧ください。

アクセスと駐車場

  • アクセス:シアトル中心部から車で約15分。Metroバス17番・29番・44番でバラードへもアクセス可能
  • 駐車場:有料の駐車場あり。ただし夏の週末は混雑しやすい

観光客はもちろん、地元の人々も日常的に利用する施設のため、訪問時は少し余裕を持ったスケジュールがおすすめです。

Hiram M. Chittenden Locks
【住所】 3015 NW 54th Street, Seattle(地図
【公式サイト】 www.ballardlocks.org

まとめ

「シアトルのバラードロックス」は、住宅街の中にありながら全米一の交通量を誇る水門であり、同時に鮭の里帰りを支える大切な場所です。派手な観光施設ではありませんが、船舶の往来とサーモンの遡上という、シアトルらしい自然と暮らしが交差する光景を楽しめます。

  • URLをコピーしました!
目次