秋の味覚として親しまれる「サンマ(秋刀魚)」は、昔から食卓に欠かせない大衆魚です。冷凍品を含めて一年中流通していますが、やはり8月の漁解禁から秋にかけて出回る新鮮なサンマが格別です。美味しく味わうためには、内臓まで食べられるよう腹が裂けていないものを選び、尾ビレが黄色いものは脂がよく乗っている証拠とされています。さらに、鱗がしっかり残っているものほど鮮度が高く、鱗の硬い魚は鮮度の低下が遅いといわれています。
サンマは、日本から北米西岸に至る太平洋北部の亜寒帯海域に分布し、最大で体長40cmにも達します。1年で成熟し、数回の産卵を経て一生を終えます。餌となる動物プランクトンが豊富な潮境(暖流と寒流の境目)を回遊ルートとし、日本近海では季節ごとに大規模な回遊を繰り返しています。夏は餌を求めて北上し、8月にオホーツク海からサハリン冬岸に達した後、秋に南下を開始し、春には西日本まで達します。秋に三陸沖で漁獲される「下りサンマ」は、夜間に集魚灯で光に集まる習性を利用した「棒受け網漁法」が使われています。
戦後の日本では食料供給に大きく貢献したサンマですが、漁獲量は年々減少傾向にあります。かつて20万〜30万トンだった年間水揚げ量は、2022年には過去最低の18,000トンを記録。2023年は25,753トンとわずかに回復しましたが、ピーク時の10分の1以下にまで落ち込んでいます。2023年の都道府県別漁獲量では、北海道が12,585トン(シェア48.9%)でトップ、次いで岩手県3,180トン(12.3%)、宮城県2,548トン(9.9%)となっています。今年2025年の日本の上限漁獲量は95,000トンと設定されています。
一方、世界のサンマ漁獲量を見ると、2023年は台湾が50,268トンで第1位、中国が2位、日本は3位という結果でした。
筆者の思い出に残る昭和32年頃の秋の風景も、サンマとともに鮮やかに蘇ります。テレビがまだ普及していなかった時代、東京・足立区に住んでいた筆者は、放課後になると近所の遊び仲間と缶けり、かくれんぼ、めんこ、ベーゴマ、ビー玉、川魚釣り、竹馬乗りなどをして遊び、勉強や塾通いなどとはまったく無縁の日々を送っていました。秋の夕暮れになると、誰かの家からサンマを焼く香ばしい匂いが漂い、「マサオ、ご飯だよ!」という母親の呼ぶ声が聞こえ、その家のその晩のおかずはサンマだとわかったものでした。当時は都市ガスやプロパンガスもない時代で、家の外に置かれた七輪で炭火を絶やさないよう、うちわパタパタとあおぎながら、金網に挟んだサンマをひっくり返しつつ焼いていました。
「サンマは目黒に限る」とも言われますが、筆者にとっては「サンマは足立に限る」というほど、懐かしく温かい家族の記憶が詰まった秋の味覚なのです。
宇和島屋では、日本近海で秋に台湾漁船が漁獲した鮮度抜群の冷凍サンマを取り扱っています。
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