5月から6月は、アメリカの卒業シーズン。卒業生は房飾りのついた四角い角帽をかぶって式服に身を包み、家族や親戚、お世話になった方々などと卒業式に出席して、門出を祝います。
卒業生は事前に学校を通じて角帽と式服を購入したりレンタルしたりますが、アメリカの学校を卒業したことがない親だと「キャップとガウンが必要」と言われてもピンとこないかもしれません。アメリカで初めて卒業式を迎える学生も、「キャップとガウンの注文受付が始まりました」という連絡を受けて初めてその名称を知り、自分で購入するものだと理解する、というケースも少なくありません。この記事では、衣装の正式名称や着こなしのルール、タッセルの儀式の意味やスピーチの背景をまとめています。
角帽とガウン、その正式な名前と由来

卒業式の衣装は「cap and gown(キャップ・アンド・ガウン)」と総称されます。卒業前に購入またはレンタルするのが一般的で、学校によって色や素材が異なります。
cap(キャップ):角帽
角帽の正式名称は「mortarboard(モルタルボード)」または「academic cap(アカデミック・キャップ)」。14~15世紀のヨーロッパで学者やアーティストの間に広まり、オックスフォード大学やケンブリッジ大学での着用が現在の形の原型とされています。

キャップを飾るのも定番
かぶり方にもルールがあります。平らな部分を水平にし、房飾り(タッセル)を顔の右側に垂らすのが基本です。デコレーションするのも定番で、メッセージや絵を描いて個性を出す卒業生も多くいます。
gown(ガウン):式服
ガウンの正式名称は「academic dress(アカデミック・ドレス)」。学部や取得する学位によっては、ガウンの上に「hood(フード)」と呼ばれる布をつけることもあります。ガウンの下は特に決まりがなく、ドレスやスーツ、民族衣装など自由です。
タッセルを動かす瞬間が、卒業の合図

Image by Chantellen from Pixabay
卒業式のハイライトのひとつが「タッセルの儀式」です。式の最初、角帽についている房飾り(tassel/タッセル)は右側に垂らしています。卒業証書の授与が終わったタイミングで、アナウンスとともに全員で左側へ動かします。
このアナウンスは、”Graduates, please move your tassels from the right side to the left.”(卒業生の皆さん、タッセルを右から左に動かしてください)というようなものです。
この動作が「正式に卒業した」という合図です。小規模の学校なら学長がステージ上で一人一人のタッセルを動かすこともできますが、大人数の場合は全員で一斉に行のが普通です。何年もかけて単位を取り、試験を乗り越え、最後にたどり着くこの瞬間は忘れられないものになるかもしれません。
髪をぺたんこにしたくないからか、キャップを後頭部に垂直にあててピンで留める卒業生もいますが、これではこのタッセルの儀式ができません。
世代を超えて語り継がれる卒業式スピーチ
アメリカの卒業式では、著名人や大統領が「commencement speech(コメンスメント・スピーチ)」を行う伝統があります。「commencement」は「始まり」という意味で、卒業は人生の新たなステージへの出発点という考え方が込められています。
これらのスピーチは、社会的変化、個人的成長、回復力の重要性を強調し、モチベーションを与える深いメッセージが込められています。ここでは、今でも語り継がれているスピーチをご紹介します。
故スティーブ・ジョブズ
アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ。「点を繋げること(connecting the dots)」や「死を意識することが人生を充実させる」というメッセージは、卒業生だけでなく世界中の人々に届き、20年が経った今も繰り返し視聴されています。
バラク・オバマ前大統領
アメリカでは現職の大統領が大学の卒業式で演説を行うのが慣例となっています。演説の上手さで知られるバラク・オバマ前大統領も現職中に多くの大学で登壇し、パンデミックの最中にはオンラインで世界中の卒業生に向けて演説しました。この動画は、オバマ前大統領が現職として臨んだ最後の卒業式での演説です(米空軍アカデミー)。
エレン・デジェネレス
トークショーの司会者として知られるエレン・デジェネレスが2009年にトゥレーン大学で行ったスピーチ。「人生は予測できない、だからこそ面白い」というメッセージをユーモアを交えて語り、自分の道を信じて挑戦し続けることを卒業生に伝えました。
故ジョン・ルイス
公民権運動の活動家で政治家でもあった故ジョン・ルイスが2018年にボストン大学で行ったスピーチ。「良いトラブル(good trouble)を起こせ」という呼びかけは、正義と平等のために行動することの大切さを伝え、今も多くの場面で引用されています。
チャドウィック・ボーズマン
「ブラックパンサー」公開から3か月後の2018年6月、俳優チャドウィック・ボーズマンは母校ハワード大学の創立150周年の卒業式に登壇。実はその時点でがんと闘いながら、「仕事ではなく目的を見つけろ。目的はあなたという存在の本質だ」と卒業生に語りかけました。2020年に亡くなったあと、このスピーチの動画が改めて世界中で拡散され、今も語り継がれています。
テイラー・スウィフト
テイラー・スウィフトは2022年にヤンキースタジアムで行われたニューヨーク大学の卒業式に登壇し、名誉博士号を受け取ったうえでスピーチを行いました。「失敗は人生の最良の出来事につながった」「恥ずかしい瞬間とうまく共存することを学べ」というメッセージが世界中で話題になり、6万人以上がライブ配信を視聴しました。現役の最大級のポップスターが卒業式に登壇したという点でも異例の注目を集めました。
シアトル周辺では5~6月に卒業式が行われ、そのときは周辺のレストランの予約が埋まりやすくなるので、お祝いの席を考えているなら早めに動いておくのがおすすめです。
日本では「アメリカは秋学期始まり」というイメージが強いですが、地域によって異なります。東海岸などでは8月開始・5月終了の学校も多く、ワシントン州でも西部は9月~6月、東部は8月~5月が基本です。そのため卒業式の時期も5~6月と幅があります。

