2009年に第16回のコラムでワシントン州での事業所設立についての概要を説明しましたが、関連法や税規定に関してアップデート、変更や補足を必要とする部分があります。今回は、それらの変更・補足事項について簡単にご説明します。
雇用主としての責任
まず、税金に関しては、ワシントン州では企業に対する法人所得税はかからず、売り上げに対する州税(B&O)がかかることに変更はありません。また、各市に対しても別途納税することが求められています。各業界における税率は下記のリンクをご覧ください。
- 州税率:Business & occupation tax classifications | Washington Department of Revenue
- 市税率:botaxrates2a2b4349b78160ed9eadff0000bbe4eb.pdf | wacities.org
なお、納税の際、新規採用者や小規模企業に対する税額控除などが考慮されることがあります。
1. 企業の形態の選択肢
企業の形態の選択肢は、一般的に下記の通りで変更はありません。
- S-Corporation
- C-Corporation
- LLC
- Partnership
- Non-Profit Corporation
まず、S-Corporation での事業は事業主が永住権または市民権の保持者である必要があるため、外国人(永住権や市民権を所有しない人)がワシントン州で企業を設立する場合の選択肢は C-Corporation、LLC、Partnership に限られます。
なお、S-Corporation と LLC はパススルーと呼ばれる納税形態となり、事業主・経営者個人に直接課税されます。ただし、S-Corp の場合は事業主の給料と企業利益の区別をして納税することが可能で、FICA と呼ばれる事業主に対する個人税の削減をすることによって、LLC 以上に節税をすることが可能です。
一方、C-Corporation は企業拡大を狙った投資家を引き付け、企業の私物化や奪取を避ける組織を整えることはできますが、事業主と企業の両方に課税される二重課税の形態となります。
2. 起業者の氏名とその人数、株の種類と数(Corporation の場合)を決定
3. 法人設立定款(Articles of Incorporation)と企業定款細目規定(BylawsまたはOperating Agreement)の作成と提出
これらはワシントン州の州務長官事務所(Washington Secretary of State)に提出します。(RCW 23 Article 2またはRCW 25.15 Article 2)
なお、ワシントン州では Articles of Incorporation の提出のみを義務づけられ、Bylaws(Corporationの場合)または Operating Agreement(LLCの場合)の提出はオプションとなっています。Bylaws または Operating Agreement は企業登録後に初回株主総会・会合を開いた後に作成することが可能です。ただし、LLC や Non-Profit Corporation を除く企業は、起業後120日以内に企業定款細目規定作成することが求められています。(RCW 23.95.255)これらの提出はオンラインでもできます。これを提出して受理されると、ワシントン州が UBI 番号(Unified Business Identifier:ビジネス鑑定番号〉を発行します。
なお、事業主・起業者がワシントン州に居住していない場合、Virtual Office を利用していたり自宅で仕事をしているため「会社の住所」がない場合は、弁護士事務所または登録代理人専門企業と契約して登録代理人(Registered Agent)を選択する必要があります。(RCW 23.95またはRCW 25.15)これにより、政府からの連絡や訴訟関連の送達等はすべて登録代理人が受け取ることになります。
4. EIN 番号の取得
Employer Identification Number(EIN)は Federal Tax Identification Number とも呼ばれ、IRS(米国国税庁)に申請して取得します。州とは別に連邦政府に提出する税金関係書類で必要な情報です。
5. 銀行口座の開設
利用したい銀行で企業の口座(business account)を開設します。その際、前述の UBI、EIN、Articles of Incorporation、Bylaws(Operating Agreement)の提出を求められます(これは法的義務ではなく、各銀行の規定によって求められる提出物は異なります)。銀行のサービスはそれぞれの銀行で異なりますので、詳細は銀行の公式サイトをご参照ください。
6. 州と市にビジネスライセンス取得のための申込書を提出
企業登録と営業活動により納税の義務が発生するため、上記の企業登録と別途に市と州にビジネス・ライセンスを申請します。ビジネス・ライセンスは、州と市に提出する税金関係書類に必要な書類です。申込書は下記のリンクをご覧ください。
Business License Application (wa.gov)
以上のすべてをクリアすると企業の登録が済んだことになりますが、会社の設立には他にも考慮しなければならない書類などがありますので、個別のケースについては弁護士にご相談ください。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com
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