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アメリカでの避妊(バース・コントロール)基礎知識(2)緊急避妊(Emergency contraception)

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去る2022年6月、米連邦最高裁は、アメリカで女性の人工妊娠中絶権は合憲としてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示しました。これを受けて、アメリカでは女性が中絶する権利が合衆国憲法で保障されなくなり、一部の州は中絶を厳しく制限しています。そのため、適切な避妊が以前よりもさらに重要になっています。

昨年10月、シアトルのワシントン大学の図書館にも、イブプロフェン、妊娠検査、そして緊急避妊薬(アフターピル)が揃った自動販売機が設置されました。緊急避妊薬は安価($12〜13)で、簡単に多くの人が利用できるようになっています。

日本でも、2023年6月に、厚生労働省が緊急避妊薬(アフターピル)を一定の要件を満たす薬局で夏ごろから試験的に処方箋なしで販売をすることを認めました。

このようなニュースもあることから、今回のコラムでは緊急避妊法について詳しくご説明します。

もくじ

主な緊急避妊法

緊急避妊法は、主に、Morning after pill (アフターピル)と子宮内避妊具(IUD)の2種類があります。

どちらを選ぶかは、緊急避妊とその後の避妊目的、有効性、値段(保険適応)、簡易性、副作用などによって異なります。

Morning after pill(アフターピル)

Morning after pill(アフターピル)は、避妊をしていない性行為をした後に使える手段です。

避妊をしていない性行為をした後に使える手段です。通常使用している避妊方法が失敗した場合(例えば、コンドームが破れた、ピルを飲み忘れた、リングを取り替えるのを忘れたなど)に利用できます。アフターピルは30年以上の歴史があり、安全性は確立されています。長期的な副作用が起こることはなく、将来の妊娠に影響を及ぼすこともありません。アフターピルは主に2種類あり、どちらのアフターピルでも妊娠を防ぐことができますが、すでに妊娠している場合は効果はありません。なお、すでに妊娠していた場合に飲んでも、胎児や妊娠に危険を及ぼすことはありません。

使用方法:性行為があった後、精子は体内で5日間に渡り排卵を待つことになります。その間に排卵すると、妊娠することがあるため、アフターピルを服用し、排卵を遅らせたり、排卵を防ぐことで避妊効果をもたらします。そのため、性行為後、なるべく早く飲んだ方が避妊効果が高くなります。生理の周期やアフターピルをどれくらい早く飲んだかによって避妊効果が変わってきますが、平均的な避妊確率は約98%です。飲む前に排卵した場合、避妊効果はありません。

アフターピルは何回でも利用することができますが、他の避妊方法に比べて費用が高く、効果も低いので、普段使用する避妊方法としては勧められていません。

アフターピルには、次の2種類があります。

1)  Levonorgestrel(レボノルゲストレル: Plan B One Step R、Take Action、My Way、Option 2、Preventeza、AfterPill、My Choice、Aftera、EContra など、商品名はたくさんあります)は、市販の薬局で処方箋なしで入手できます。ワシントン大学のキャンパスにもPlanBの自動販売機が最近設置されました。性行為後なるべく早く飲んだ方が避妊効果が高く、最高72時間以内に飲むことが推奨されています。もともとピル、パッチ、リングなどの避妊薬を使っていた場合、または新たに使いたい場合、levonorgestrel を飲んでからすぐに利用することができますが、その後の7日間に避妊する必要がある場合は、コンドームなど避妊具も使う必要があります。

2)  Ulipristal acetate(Ella): Ulipristal acetateは性行為の後120時間以内に飲むことが推奨されています。その間に効果が低下することはありますが、levonorgestrelより若干効果が高く、処方箋が必要です。もともとピル、パッチ、リングやなどの避妊薬を使っていた場合や新たに使いたい場合、Ellaを飲んでから少なくとも5日間は使用しないで下さい。Ellaと一緒に使うとEllaの効果が下がることがあります。また、もともとピル、パッチ、リングなどの避妊薬を使用していた場合は、Ulipristal acetateの効果が下がることがあるのでlevonorgestrelを使った方がよいかもしれません。次の生理まで避妊が必要な場合は、コンドームを使用する必要があります。

なお、アフターピルは体重によって効果が低下することもあるので注意が必要です。Ulipristal acetate は体重195lb(88kg)以上、Levonorgestrelは165lb (75kg)以上だと効果が下がるという報告がありますが、それでも妊娠を防ぐ確率は94〜97%です。

アフターピルの副作用には、頭痛、腹痛、倦怠感(だるさ)、めまい、嘔気、乳房の痛みなどがありますが、だいたい軽症で長続きしません。次の生理がややずれる(早まったり、遅れる)ことがあります。また、生理と生理の間の時期に軽度の不正性出血が起こることがあります。

生理が予定より1週間遅れた場合や妊娠を疑う症状が起こった場合、念のために妊娠検査をすることが勧めらています。

授乳中に levonorgestrel か IUD を利用した場合、通常通り、授乳することができます。Ulipristal acetateを利用した場合、飲んだ24時間以内は搾乳して廃棄する必要があります。

子宮内避妊具 IUD(intrauterine device)

子宮内避妊具(IUD)は、子宮内に簡単に挿入でき、長期的に避妊する方法です。妊娠を防ぐのに最も優れており、性行為後120時間以内に挿入されれば、避妊確率は99.5%以上です。

プロジェステロン系ホルモンを含むもの(Mirena, Liletta)と、ホルモンを含まない銅の成分を含むもの(Paraguard)と、2種類あります。

緊急避妊として挿入されたIUDは、そのまま避妊目的に長期的に使用することができます。

MirenaやLiletta のIUDは生理を軽減させる作用がありますが、Paraguard は副作用で生理痛や出血量が増したりすることがあります。どちらの副作用も挿入後1年以内には軽減される場合が多いです。

IUD は外来で家庭医や産婦人科などに挿入してもらいます。専用の器具を使用しますが、その際に痛みを感じる場合があるので、挿入前に痛み止めのイブプロフェンを飲むことを勧められるかもしれません。処置はだいたい大体30分で完了します。少し出血があるかもしれませんが、数日でおさまります。

抜く時も外来で処置を受ける必要があります。特別な器具を使用して簡単に抜くことができ、痛みはほとんどありません。

次回のコラム「アメリカでの避妊(バース・コントロール)基礎知識(3)」では、IUDを含む他の長期避妊法について詳しくお伝えします。

執筆:西連寺智子先生(さいれんじ・ともこ)
University of Washington Department of Family Medicine, Associate Professor
Family doctor at UW Primary Care at Northgate Clinic and Northwest Hospital
米国マサチューセッツ州で幼少時代を過ごし、12歳で日本に帰国。国際基督大学卒業後、岡山大学に学士編入。卒業後、福岡県にある飯塚病院での2年間にわたる初期研修を経て、ピッツバーグ大学メディカルセンターで家庭医のレジデンシーとチーフレジデントを行う。同大学で医学教育修士課程とファカルティデベロップメントフェローシップを終え、現在はワシントン大学医学部(University of Washingon School of Medicine)で家庭医療の准教授として医学生の指導を行いながら、UW Medicine のノースゲート・クリニックと Northwest Hospital で家庭医として勤務している。

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や医療アドバイスではありません。読者個人の具体的な状況に関するご質問は、直接ご相談ください。

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