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第97回 ワシントン州会社法改正による投資家への影響

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今回は2016年1月より一部改定となったワシントン州株式会社法(RCW 23B)において、投資家に大きく影響する部分の概要をご説明します。(2016年1月執行の有限会社法改定の概要については第92回のコラムをご覧ください。)

歴史的に、多くの州の株式会社法では、企業の営利を守るため、役員や投資家が企業に投資したり役員として管理する場合、それらの投資家がConflict of Interest(利益相反)となる活動をしていないか、または受託者義務(Fiduciary Duty)と忠実義務(Duty of Loyalty)に反していないかを法的視点から事前に確認します。これを企業機会原理(Corporate Opportunity Doctrine)といいます。

その一貫で、企業秘密がそれらの投資家活動によって開示されないようにするため、Confidentiality Agreement(機密契約書)への署名を求め、他企業へビジネス情報が漏れないようにする方法もあります。もし投資家が利益相反活動をしたことによって企業に損害が発生し、受託者義務違反(Breach of Fiduciary Duty)、忠実義務違反(Breach of duty of loyalty)を犯したとみなされれば、企業・代表株主が投資家に対して Derivative Action(株主訴訟)等の法的手段に訴えることもあります。

このため、投資家が法的責任を問われることを恐れ、企業への投資を躊躇することが多くなってはワシントン州がビジネスの機会を失うことにつながりかねないため、ワシントン州への投資を増やしながら、投資家や役員の企業活動に対する権利侵害を防ごうと、今回の改訂がなされました。

今回のワシントン州株式会社法改定の大きな特徴は、6年前のデラウェア州法の改定に基づき、投資家・役員が他企業への投資や役員をしていた場合、企業がそれらの投資家に対して企業機会を放棄(Waiver of Corporate Opportunity)することを会社規定と役員の承認によって可能にしたことです(RCW23B08.720 (1)(a))。つまり、これまでは複数の企業への投資や管理の機会に制限がありましたが、企業が投資家に対して企業機会原理による法的責任を求める権利を放棄することで投資家の法的責任を緩和させ、それを会社規定の条項に設けることが可能になったのです(RCW 23B.02.020(5)(k))。従って、受託者義務違反(Breach of Fiduciary Duty)、忠実義務違反(Breach of duty of loyalty)の法的解釈と範囲が変更したということになります。

しかしながら、依然として、投資家・役員等に対する他の義務、例えば、投資家・役員が他企業間で結ばれている機密情報開示禁止契約違反や企業の知的財産を自己利益のために利用することは会社法上の指針に反するとされ、違法行為とみなされる可能性があるため、企業機会放棄の範囲、忠実義務・受託者義務範囲と利益相反活動の定義づけを、事前に投資家との契約書によって明確にしておく必要があります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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