企業が他社との契約を結ぶ際には契約を締結しますが、特にサービスの提供を目的とした取引の際の契約書には、作業指示書を別途作成して添付することがよく見受けられます。
契約書本体の内容は法律的な言い回しで構成されるのに対し、このような作業指示書は、契約書に基づいて行われる個別の業務の内容に関し、より具体的な内容について記載しています。契約書本体の内容については、法律的な言い回しが絡んでいることもあって、変更する際には専門家(弁護士)に依頼して慎重に検討することを要しますが、作業指示書の内容は単純で誤解の余地のないようなものであれば、業務の詳細の変更に応じて当事者双方の同意によって時間や弁護士料をかけずに適宜変更することがあります。
作業指示書に記載される事項には、例えば、業務時間、支払先、支払方法、支払時期、作業員や監督者の氏名、資格、作業場所のような契約書の業務を実際に行うに当たっての詳細、成果物やサービスの範囲、仕様、水準といった契約書の業務として要求されていることの具体的な中身、また納期や進捗の報告時期、スケジューリングの内容といったものがあります。契約の内容を現場で働く従業員が実行するにあたっては、契約書本体よりもむしろ作業指示書をよりどころとするのが通常なので、単純、明確かつ契約当事者同士でも解釈しやすい記載にすることが重要です。
しかしながら、本体契約書内で作業指示書の記載内容に関して契約書の一部を構成するものとして言及されている限り、作業指示書そのものも契約書の一部として見なされ、拘束力があるため、注意が必要です。 契約書の一部を構成している作業指示書の内容について、相手方当事者の了解なく一方的に変更し、変更後の内容に従って契約の業務を実行しても、内容そのものが契約書本体に影響し、相手方当事者がこれを認めないのであれば、それは契約違反となります。
例を挙げると、業務時間の変更に際し、以前は午前9時から午後5時までであったのに対し、これを作業指示書で午前9時から午後7時までの業務に変更したにもかかわらず、休憩時間、食事時間、さらに残業時間料金も支払わずに業務時間の変更を有効にした場合は、契約違反はもちろん、違法行為と見なされます。これに対し、支払先、支払方法、支払期限等を作業指示書で変更しても、この事項に関する特別な法的規制はないため、作業指示書の変更は容易にできます。
従って、作業指示書の記載事項の変更については、変更しようとする部分は契約書の一部として拘束力を持っているか確認するとともに、変更の内容が適法なものとすることも事前に確認する必要があります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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