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第28回 家族休暇・妊婦(Family Responsibilities Discrimination)に対する差別について

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最近は景気の悪化に伴って、雇用者の被雇用者に対する要求が高まっています。特に仕事の成果が給料に見合わないと見込まれた場合は、被雇用者を解雇することによって事業を何とか維持するというケースが多く見られます。もし企業側(雇用者側)が解雇の正当な理由を証拠として残すことができれば何も恐れることはないのですが、雇用者は意外に、雇用法、特に差別に関する法律をよく理解せずに、経済の動向にあわせて特定の被雇用者を解雇の対象にする傾向があります。仮に雇用法を理解した上で解雇の方向へ向かっていても、その解雇の方法・過程をうまく行わないと、後で痛い目にあいます。今回は、家族休暇を理由に差別の対象になったケース、中でも67%の理由となっている妊娠・育児休暇が理由の解雇について、例を挙げながらご説明します。

まず、被雇用者が妊娠している場合、下記はすべて違法です。

  1. 妊娠を理由に採用を拒否すること
  2. 妊娠を理由に解雇すること
  3. 妊娠を理由に昇進させないこと
  4. 妊娠を理由に福祉厚生を与えないこと

米国では、連邦法・州法ともに1964年の公民憲法7章(Title VII of the Civil Rights Act of 1964)に従って、15人以上の従業員を持つ企業が妊娠中の女性従業員に対して差別(discrimination based on gender)することを禁じています。さらに、第2回のコラムの育児介護休業法(FMLA)でご説明した通り、特定の条件を満たしている対象従業員に対して特定の条件にあてはまる従業員の休職・休暇を拒否した場合は問題となります。また、条件によっては、身体障害者法(ADA)によっても妊婦の権利が守られます。違法行為と判断されるかどうかにおいて、雇用者は「妊娠していることを理由に解雇します」などと言ったり、またその意図をはっきり示す必要もありません。

例えば、従業員が15人いる中で妊娠中の被雇用者1人を理由もなく解雇した時点で、違法行為の可能性が十分にあるわけです。また、育児休暇中の女性従業員の代行として契約社員を採用し、育児休暇を終えた女性従業員を元の職場に迎えず、その契約社員を正社員に昇格した場合は、そのこと自体が違法になりえます。被雇用者としては、妊娠を理由に待遇が変わったと感じた時点で職場で起こった事項をできる限り詳しく記録に残し、業務評価にも注意して行動すべきです。また、直属の上司との問題や妊娠を理由に周りの態度が変わったようなことがあれば、企業の経営者や人事部にそのことを報告・相談することが必要です。なお、仮に妊娠していても業務成績が悪い場合は、被雇用者にとって有利な展開にはなりません。

最近の例として、2人の妊娠中の従業員がある病院を相手に訴訟を起こしました。そのうちの1人は妊娠していると雇用者に報告した2日後に解雇され、もう1人は採用面接中に雇用者が彼女が妊娠しているということを知って採用を拒否したと訴えたのです。陪審裁判の結果、裁判官はその病院に対し、この2人の減給分とそれに付随する利子合計2万3,775ドルの支払いを要求し、さらに9万5000ドルの懲罰的損害賠償額の支払いを求めました。

また、ある大手法律事務所に勤めていた弁護士は、妊娠中にその事務所のパートナーから「うちの事務所では、妊婦は絶対にパートナーにはなれない」とはっきり言ったため、他のパートナーにそのことを伝えたところ、「とにかく、母親になりたいのか、弁護士になりたいのか、決めなければいけない」と言われ、結局は解雇されました。その後、その女性弁護士はこの事務所を相手に訴訟を起こしました。この事務所は、彼女の業務成績が悪かったことを理由に解雇したと主張し続けましたが、証拠調査の結果、彼女の業務評価は他の弁護士と同等かそれ以上で、週末も事務所で働いたり、子供を寝かしつけた後も会議の電話に出たりしていたことが有利な証拠となり、陪審裁判の結果、女性弁護士が勝訴しました。

実際のところ過去10年間のみでも、家族休暇や妊娠を理由に差別を受けたことを理由に起こされた訴訟の件数は4倍に増えています。また、原告(差別を受けた側)の勝訴の確率もかなり高くなってきています。

雇用者の立場からすると、次の3点などの意見があると思います。

  1. 家庭と仕事を完璧に両立するのは無理だ
  2. 今後こうした潜在的問題を防ぐため、女性の採用を見合わせたい
  3. 新生児を育てている間も事業は絶え間なく動いているため、企業の事業を育児期間のために調整するのは難しい(新生児を抱えながら今までどおりの仕事ができるとは思えない)

特に従業員が2人目を妊娠した時点で家庭内での責任がかなり複雑化するため、上記の問題がはっきりと浮上します。しかし、50年前の米国で働いていた女性はほんの20%でしたが(そのうち約20%がシングルマザー)、現在は子供を持つ家庭の70%で大人全員が働いています(父親が子育てをしている家庭は含みません)。ということは、子供や家族が病気になった場合は夫婦のどちらかが休暇をとるなりして子供・家族の面倒を見ることになります。過去には母親が子育て専業、あるいは家族の介護をするために休職するケースがよくありましたが、最近は専業主夫もかなり増えている上、父親が働きながら家族生活に関わる傾向にあり、必ずしも女性だけがこの問題を抱えているとは限りません。男性でも家族のために育児介護休業法(FMLA)における特定の条件を満たせば休暇をとる権利があります。従って雇用者としては、法律を理解し、さまざまな落とし穴に気をつけて、従業員の採用・業務評価・昇格・解雇などを行う必要があるでしょう。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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