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第50回 弁護士に業務を依頼する際に知っておくべきこと

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今回は、弁護士に法律問題等に関する質問や業務依頼をする際に知っておくべき手続き上の内容についてご説明します。

まず、人間関係や企業関係に問題があると、多くの方が法的に問題を解決しようと試みます。特に、契約相手による契約不履行や契約妨害で損害が出た、暴力や暴言によって精神的に打撃を受けた、嫌がらせをされたために職をなくした、などという問題の解決や相談は弁護士にするものという認識があります。さらに、弁護士によるアドバイスを受け、契約作成および交渉を行うことで訴訟(法的)問題を避けるために弁護士に業務を依頼することもあります。また、弁護士を通して法的手続きを要求される案件もあります。

問題を避けるため、または法的手続きのために弁護士からアドバイスを受けたり書類の作成を依頼する場合は、”transactional” と呼ばれる、合法的に経済活動や生活をするために、または訴訟を避けるために受けるサービスです。それに対し、問題がすでに起きており、それを解決するために弁護士に業務を依頼する場合は、弁護士はまずその案件が法的問題なのか、法的問題であっても訴訟をする価値がクライアントにあるのかどうかなどのアセスメントをした上で、案件を受けるかどうか決定します。

さて、最初に弁護士としてしなければならないことは、案件とクライアントに対立する要素がないかどうかのアセスメントです。これを “conflict check” と言います。例えば、A 社と業務を行っているにも関わらず、A 社に対して訴訟をかけようとしているクライアントからの依頼を同時に受けることは弁護士協会倫理規定上、禁じられています。

次に、上記の “conflict check” で問題がなければ、弁護士と業務契約書(fee agreement または engagement agreementといいます)を交わします。その契約書には、弁護士料やその支払い方法等が明記されているはずです。弁護士は通常、事務所の普通口座と、 IOLTAという信託口座の二種類を所有しており、業務開始以前に頭金または依頼金として弁護士がある一定の支払いを求める場合、業務が開始して弁護士が業務料を請求するまでは、 例外を除いて、この信託口座に振り込むことになります。業務内容や業務時間について、特に時間単位で弁護士に業務を依頼する場合は、弁護士としては定期的にクライアントに請求書(invoice)を提出し、その請求額に基づいてクライアントが支払います。

弁護士料については、通常、1)時間単位、2)均一(定額)料金、3)成功報酬、のいずれかで業務が行われます。ほとんどの弁護士は時間単位で業務を行いますが、案件内容によっては定額料金や成功報酬で業務を行います。時間単位で業務を行う弁護士は通常、案件の依頼を受けた時点から弁護士がクライアントのために費やした時間に従って業務料を請求します。

たとえば、案件内容のアセスメントのための資料のレビューや電話会議、または電子メールでのやりとり(案件に関するもの)も業務に含めるのが基本です。次に、定額料金で案件を請け負う弁護士は、多くは移民法や特許法を専門にしています。定額料金の場合は通常、最初に案件にかかる弁護士料を一括払いし、その後は経費のみの支払いになります。成功報酬の場合は、たいがい個人のクライアントが弁護士料を支払う能力がないものの、その個人に対して多くの損害と損失があったとみなされる案件などにあります。これには、解雇された被雇用者が違法解雇または雇用者の違法行為を訴える場合や、詐欺によって大金がだまし取られた場合は、成功報酬で業務がなされることがよくあります。その場合、原告となるクライアントの陳述の信頼性に基づいて訴訟の成功確率を判断した上で、成功したら相手が受け取る賠償金の3割ほど(弁護士や案件によっては報酬の割合が相違します)の報酬を弁護士料として支払う仕組みになっています。従って、損害額が低いと弁護士が成功報酬で業務を請け負う可能性が低くなります。

さらに、弁護士との業務契約書が交わされた時点で、弁護士と依頼主間の秘匿特権(attorney-client privilege)が成立します。つまり、クライアントが情報を外部に漏らしたり、クライアントが犯行為等を弁護士に告白するなどの例外を除いては、弁護士とクライアントの間で交わされた情報はすべて極秘として扱われます。この弁護士依頼者間の秘匿特権は、クライアントと弁護士の信頼とコミュニケーションを促進し、良い結果を生み出すためにも必要です。

こうした手続きは、弁護士協会の Rules of Professional Conduct(職業倫理規定)で細かく定義・解説されており、この規定を守らずにクライアントと業務をした弁護士は問題になります。ちなみに例としては、弁護士の業務の進め方が気に入らないとか、結果がクライアントの望むものでなかったなどについては通常、倫理規定違反として扱われませんが、弁護士が業務契約書を交わさなかったり請求書を送付しなかったり、不当な請求をしたりした場合は倫理規定違反として扱われます。クライアントとしては、弁護士が規定違反をしていると確信したら、弁護士協会に連絡を取り、弁護士協会の規定に従って抗議することもできます。通常、よほどひどいことがなければ、または抗議の内容が倫理規定違反の範囲だと認められない場合は却下されますが、弁護士協会としてはいったんクライアントから抗議の連絡(ドキュメント等の詳しい抗議内容や弁護士との問題点を添付したもの)を受けたら調査する義務があります。クライアントの権利は弁護士協会を通しても守られているのです。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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