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パンデミック【体験談】(2)「みんなの考え方が進化してきている」レストラン経営 北村太一さん

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イーストレイク

シアトルのイーストレイク地域を南北に走る Eastlake Avenue も閑散とした状態が続く

ワシントン州では3月上旬から段階的に社会的距離を維持する対策が導入され、3月23日に全面的な自宅待機命令が出されています。日々の生活はどのように変化しているのでしょうか。

第2回は、シアトルでレストランを経営している北村太一さんにお話を伺いました。北村さんは16歳で渡米し、大学を卒業後、26歳で最初のレストランを開店。現在は2010年にシアトルのイーストレイクに開店した 『Sushi Kappo Tamura 田むら』を経営しています。

– 自宅待機命令で、生活はどのように変わりましたか?

イーストレイク

テイクアウトの寿司が人気

自宅待機命令が出るかもしれないという状況になってからテーブルとテーブルの間隔を広くして、キャパシティを30%ぐらい落としていましたが、自宅待機命令が出てからは、レストランは店内での食事は許されず、テイクアウトか宅配、ドライブスルーでのみ営業できる状況が続いています。売り上げの面では50%落ちました。29人いたところを10人に減らしてまわしていて、収入は減っているのに店での仕事量は増えています。僕のスタッフは独身が多く、家庭がある人は共働きなので、路頭に迷っている人はいないと思いますが、電話をして様子を聞いたりしています。

でも、先が見えませんね。またお客さんを店の中に入れて営業していいということになっても、社会的距離を維持する必要があるでしょうから、今までと同じ席数ではやっていけないでしょう。

自宅では、妻はフルタイムで朝6時から遅くまで長時間仕事をしています。僕が一日家にいる場合は、朝昼晩、僕がご飯を作っています。一番のチャレンジは、やはり今8歳になる子どもの勉強です。ワシントン州では学年末まで休校なので、これから夏までこの家庭学習をしないといけないということですよね。僕の場合は自宅を日本語環境にできるので、日本語を話すのは問題ありません。でも、僕ら夫婦は教育のプロではないので、どうアプローチしていいのかわからない部分があります。夫婦の間で意見が一致しない場合もありますし。1カ月たって少し慣れてきましたが、最初は親の方が自分たちにプレッシャーをかけているような部分がありました。

– お子さんの学校も閉鎖となって、自宅ではどのように過ごしていますか?

美味しいものを食べるようにしています。天気もいいので、アウトドアで料理をする季節が始まっています。先週も金曜日は焼き鳥、土曜日は焼き肉・・・ だから家でも料理をすることが増えて大変です。料理が仕事の僕もレパートリーがそろそろなくなりそう(笑)。

でも、ソーシャルメディアには料理の情報があふれているので、とてもポジティブですね。みなさんやたらパンを焼いていますし(笑)。

– お子さんは勉強したりしていますか?

最初は1時間ごとに何をするか決めてスケジュールを組みました。でも、その時間割にあくまでも沿おうとするよりも、1時間が終わってもそのまま続けたほうが流れ的に理解度が深まることが多々あります。

先日も地理をやっていて、地球儀を見ながらこの国の首都はここでとか話していたのですが、ワシントン州の州都はオリンピアで、オリンピアには州政府があって、それが州のいろいろなルールを決めるところで、州知事の名前はインスリー、そういうところから広がって、社会の勉強につながっていきます。自宅でやるなら、それが可能ですよね。地理の話から、トルコの首都はどこ?ブラジルの首都はどこ?ブラジルにはアマゾンがあって、という話になっていったりします。

学校の勉強以外では KUMON やこどもチャレンジをやっていますが、これは自分でやるくせがついています。こどもチャレンジは難しいので親がそばについてますが、自分も復習になっています(笑)。

もともとテレビは見る習慣がなくて、エンターテイメントのために週に1~2回、家族ですわってアニメを見るぐらいです。コンピュータも使っていませんし、以前から紙と本ですね。

– 家にいる時間が長くなって、ストレスはたまりませんか?

イーストレイク

愛犬との散歩は欠かせない

僕の場合、釣りに行けないのがストレスの一つではありますね(笑)。あとはエクササイズができない。水泳に行けない。そして、お客さんとのやり取りがないことが、さみしいですね。毎日会話がいっぱいだと疲れることもありますが、まったくないとさみしいもんです。

そして、レストランで外食ができないので、家で料理をしなくてはならないという義務感は生まれてきますね。毎朝何を作ろうかと悩むことが、小さなストレスにつながっているかもしれません。でも、よく考えたら、家族と一緒に美味しいご飯を作って食べるというのは幸せなことですよね。見方を変える努力をすれば、そんなストレスにはならないかなと。

あと、犬と一緒に毎日散歩しています。食料品の買い出しは親子で行っています。行かないほうがいいのかなとも思いますが・・・。マスクは必ずしています。帰ってきたら必ず手を洗いますが、それは前からやっていたことですね。

– 今後どうなっていくと思いますか。

北村太一さん

ローカル産のサーモンを持つ北村太一さん

新型コロナウイルスでこういう状況になって、みんなの考え方が進化してきているのを感じます。たとえば、何が自分の人生のプライオリティなんだろうとか、これをどうしたらポジティブに持っていけるかということですね。今はそれを考える時間もあるし、新しいビジネスチャンスも絶対に出てくるはずです。そんなふうに社会が変わっていくのが時間をかけて観察できるチャンスにしたいですね。

レストラン経営という面では、これが終わった後に向けて、オーガニックに進化していく方法を考えています。以前のやり方とまったく同じようにはできないでしょう。壮大な話になってきますが、例えば、たくさんの店を展開することが成功なんだという考えが、ついこの間までシアトルにもありました。でも、こうなってみて、それは本当の成功のスタイルなのか、この事態が終わったとしてもそのスタイルがまた戻ってくるのか、高級レストランはこれまでの規模で営業できるのか、そうすべきなのか、みんな考えているでしょう。これまで正しいと思ってやってきたことを考え直すチャンスもたくさんあると思います。

昨年からパイオニア・スクエアでフードホールを作るプロジェクトに関わっていますが、なぜそれがいいと見なされていたかというと、シアトルは野球やフットボール、サッカーなどのスポーツチームがあり、コンベンションやカンファレンスを呼び込んでプロモートして成長してきてすごく盛り上がっていたからです。だから空港の拡張や飛行機の増便をして、グローバライゼーションの真っただ中にいました。そして、大型クルーズ船で夏は常に何万人もが来るようになった。ダウンタウンのレストランビジネスはそれに依存していたわけです。それが100%戻ってくるでしょうか。クルーズは今、一番影響を受けていますね。なので、フードホールもやるべきなのか疑問があります。一個人としてはつらい。でも、人類のこれからを考えたら、やめたほうがいいこともあるでしょう。そして、それならどうやってビジネスを進化させていくかを考えなくてはならないと思っています。

でも、この状況になる前から、個人の生き方は変わってきていました。僕がシアトルに来た1990年代初期、大きな家、サマーハウス、大きな車が一家に数台、ボート、ジェットスキーがありという状態で、16歳の僕は「アメリカ、すげー!」と思いました。そんなふうにシアトルを含めたアメリカは一般的に "more is better" で、もっと開発して、もっと家を建てて、もっと飛行機を飛ばすのがいいんだという感じでやってきたわけです。だけど、今の若い世代が望むもの、それはなんだろう。20代前半とか、これから社会を背負っていく人が、今の事態をどう感じているのか知りたい。これからそういった会話を持ちたいと思います。

– おっしゃるとおり、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、すでにいろいろなことが変わってきています。個人としても企業としても街としても、あり方を考えさせられますね。今、やらなくてはならないことをやりながら、本当に大切なことは何なのか、本当に大切な仕事とは何なのか、考えている人が多いと思います。未曽有の事態で先が見えない部分が多く、簡単ではないですが、経営者としてはこれを乗り切って、さらに良い方向に持って行くチャンスに変えていけるように工夫しないといけませんね。ありがとうございました。

掲載:2020年4月 聞き手:オオノタクミ



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