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「新型コロナウイルスとの共存 ~ 感染力の強い変異株の亜種に備える」 バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

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バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

救急・消防など第一対応者に対してバージニア・メイソン病院が
感謝のメッセージを掲げてから2年半

新型コロナウイルスのパンデミック宣言が出されてから約2年半が過ぎました。シアトルのバージニア・メイソン病院で感染症科指導医として勤務している千原晋吾さんに前回お話を伺った2022年3月は、デルタ変異株による感染者の急増がピークを過ぎて減少に転じ、屋内のマスク着用規定が緩和された直後でしたが、その時から「新たな変異株が出ても不思議ではない」「患者数が少ない間に、次の変異株に備える必要がある」と警鐘を鳴らしていました。現在、オミクロン変異株とその亜種による新たな感染が広がっている状況について、千原さんにお話を伺いました。

– 2020年3月にパンデミック宣言が出されてから約2年半が経過した今、米国各地でまた感染者が増えていると報じられています。ワシントン州も例外ではなく、ワシントン州保健局によると、ワシントン州内の7日間平均感染者数は3月30日~4月5日の186人を境に、じわじわと増加しています。この状況を、どのように見られていますか。

COVID-19 の感染者数が高い状態が続いていると思います。現在、自宅検査キットを使って診断する人が増え、その人たちは必ずしも報告数に含まれないため、実際には報告数よりもかなり多くの人が感染しているはずです。それでも、報告数が春よりも増えていますし、入院患者数も増えてきています。春のころはワシントン州で1日25人程度だった新規入院患者数が、現在は1日110人以上になっています。オミクロンが始まってすぐのピーク(新規入院患者数が1日300人以上)と比べると少ないですが、個々人の感染や再感染の確率が高くなっていることは確かです。

– 上記の状況(感染者が再び増加している)は、何が原因と考えられていますか。

ウイルスが変異したため、ワクチンを受けていたり、以前感染したりしていても、十分な免疫がなく、感染や再感染の確率が増えていると考えます。また、オミクロン株の系統の一つ「BA.5」などは、さらに感染力が高くなっていると考えられています。

ワクチンは重症化や死亡の予防に役立ちますが、必ずしも感染を予防するわけではありません。また、ワクチンの効果は時間とともに薄れていきます。ブースター接種の資格対象の人は、なるべく早く打つことをお勧めします。

– 現時点で、公式発表される数字の中で、どの数字に注意しておくべきでしょうか。また、その理由は何でしょうか。

私は医療従事者なので、入院率と死亡率に注目しています。

入院率は、COVID の患者だけでなく、心臓発作や脳卒中、外傷など、COVID に関連しない医療問題をケアする病院の対応力にも影響を及ぼすからです。

– 最初の2回のワクチン接種(プライマリ・シリーズ)と、ブースター接種1回目と2回目の効果の持続期間は、現時点ではどのように考えられていますか。

オミクロン株の系統の「BA.1」「BA.2」の最新データを見ると、前回のワクチン接種から120日を過ぎると免疫が低下するため、CDC が推奨するブースター接種を受けることが重要です。ブースター接種を受けることで、症状が現れる感染や入院を防ぐことができます。

参考文献:Effectiveness of 2, 3, and 4 COVID-19 mRNA Vaccine Doses Among Immunocompetent Adults During Periods when SARS-CoV-2 Omicron BA.1 and BA.2/BA.2.12.1 Sublineages Predominated — VISION Network, 10 States, December 2021–June 2022 | MMWR (cdc.gov)

– 現時点での感染対策は、どのようなことをしておくべきでしょうか。例えば、症状の有無に関係なく、国内外を飛行機や車で旅行した後、小規模でも他の世帯が集まるパーティーやイベントに参加した後は、PCR検査を受けたり、自宅検査をしたりするべきでしょうか。

今は夏なので、なるべく屋外で集まるようにするのはよいと思います。また、パーティーやイベントの前と後や、何か症状があれば、PCR 検査を受けても良いですし、自宅検査をするのも良いと思います。

屋内で集まる場合には、窓やドアを開け、なるべく換気しましょう。私は公共交通機関を使うときやスーパーで買い物をするときなど、不特定多数の人と接する機会があるときは、今でもN-95 やKN-95 マスクをするようにしています。

私の場合、医師なので、病気の方や高齢者を診ることが多く、周りの人を守るためでもあります。この時期、気をつけていても感染してしまうことはあると思いますが、若くて健康でも Long COVID (コロナの後遺症)になって不快な症状が長く続くこともありますから、なるべく感染する確率を下げる努力をしています。そのために大事なことは、部屋の換気と質の高いマスクになります。

– 出張やバケーションで他国に行く時に調べておくべきこと、しておくべき準備などは、どのようなことがありますか。

国によって状況やルールが異なるので、他国の感染状況やルール、隔離方法を詳しく調べる必要があると思います。私なら、ワクチン接種証明書、質の良いマスク、検査キットなどを持っていくと思います。

– アメリカでの隔離は、ワシントン州保健局が推奨しているこの方法で良いでしょうか。

ワシントン州保健局が推奨している方法で良いと思います。

– アメリカで現時点で認可されているコロナの治療法については、こちらの FDA(食品医薬品局)のページの情報が適切でしょうか。コロナの症状が出て、改善しない場合、こうした治療をかかりつけ医に問い合わせることを勧めますか?

この FDA の情報が良いですね。COVID-19の外来治療については、選択肢はいくつかあります。それは、パクスロビド(Paxlovid)、モルヌピラビル(Molnupiravir)、モノクローナル抗体療法(monoclonal antibody therapy)です。

パクスロビドとモルヌプリビルは経口剤で、ファウチ博士とバイデン大統領は発病時にパクスロビドを服用しました。パクスロビドについては、症状が現れてから5日以内に治療を開始しなければならないので、あまり長くは待てません。65歳以上の患者さんや、心臓病などの基礎疾患をお持ちの方にも使用できます。また、妊娠中にも使用できる可能性があります。薬物間相互作用がある傾向があるので、確認する必要があります。また、すべての薬局で取り扱っているわけではないので、処方箋はパクスロビドを在庫している薬局に送る必要があります。最近、パクスロビドを服用している患者さんが服用を中止した後に症状が再発する「リバウンド」が見受けられます。これはファウチ博士の時にもありました。このような場合、患者さんはパクスロビドをもう一回投与することになります。

モルヌプリビルやモノクローナル抗体も選択肢の一つです。モルヌプリビルは薬物間相互作用は少ないですが、効果が低く、妊娠中は使用できません。

モノクローナル抗体療法については、静脈内投与が必要です。また、症状発現から7日以内に投与する必要があります。

なお、これらは、入院の必要のない患者さんが対象です。入院が必要な患者さんには、他の治療法があります。

患者さんは早期に主治医に連絡を取るべきです。家庭用の検査キットがあれば、すぐに結果を知ることができるので理想的です。

– オミクロンの変異株の亜種で、シニアや子ども、免疫力の低い人に特に見られると報告されている症状はありますか?

一般的な症状は、発熱、咽頭痛、鼻水、頭痛、筋肉痛、疲労感などで、初期型と比較すると、初期型の特徴であった味覚や嗅覚の喪失の報告数が少ない傾向があります。

子どもは、高齢者や免疫不全の患者さんに比べて、症状が軽い傾向があります。

– PCR 検査は、どういう場合なら効果的で、どういう場合は効果的でないのでしょうか。

PCR 検査は、抗原検査(antigen test)に比べて、感度の高い検査です。 残念ながら、研究室で検査をする必要があり、結果が出るまで最低でも24時間かかります。 抗原検査の利点は、感度は劣るものの、自宅で検査ができ、すぐに結果が出ることです。また、希望すれば毎日行うことも可能です。PCR 検査は感度が高いので、症状が治まっているにもかかわらず、陽性の結果が出続ける患者さんがいます。しかし、PCR が陽性であっても、症状が出てから10日以上経過すると、生きたウイルスを検出できないことを示す研究が数多くあるのです。従って、PCR 検査は、ウイルスが体内にあるかどうか(周囲を感染させる可能性があるかどうか)確認するための検査として使うべきではないと思います。CDC が検査に基づいた出勤再開の戦略を推奨した当初、この点が問題でした。

現在では、ほとんどの雇用主が、症状の有無、または症状が出た時、症状が改善した時に基づいた出勤戦略を採用しています。

– その他に、現時点で知っておくべきことがあれば、ぜひ教えてください。

現在使われているワクチンは、すべて最初のアルファ株に対して作られたワクチンです。幸い、重症化や死亡の予防に対してはオミクロン株にも効果があり、そのためワクチンを受けておくこと、資格対象であればブースターを受けておくことが大切になります。

ただ、変異株や変異株の亜種の出現で、ワクチンの効果が薄れてきているのも事実です。このため、この秋にはオミクロン株向けに開発されたワクチンが出る予定です。(現在臨床試験が行われています)。それでも、現在、ブースター接種を受ける資格があるのに受けていない方は、なるべく早い時期に受けることをお勧めします。

ブースターを今受けたとしても、オミクロン株向けのワクチンを秋に受けることはできます。冬にはまたコロナ感染が増えると考えられていますので、冬の前にオミクロン向けに開発されたワクチンを受けることが大切になります。

– ありがとうございました。

千原晋吾さん(ちはら・しんご)
バージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医
日本、プエルトリコ、ニュージャージー州で幼少時代を過ごし、山梨医科大学に入学。卒業後、横須賀海軍病院インターン、飯塚病院初期研修、コネチカット大学プライマリ・ケア内科プログラムのレジデント及びチーフ・レジデント、ラッシュ大学・John H Stroger Jr Hospital of Cook County 感染症科フェロー、ユタ大学臨床微生物学フェロー、獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教室講師。2011年に再々渡米し、南イリノイ大学感染症科講師を務めた後、2014年3月よりバージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医。2016年7月のインタビュー記事はこちら

掲載:2022年7月 更新:2022年8月2日「PCR 検査は、どういう場合なら効果的で、どういう場合は効果的でないのでしょうか。」のQ&Aを追加しました。

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