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「新型コロナウイルスとの共存 ~ 患者数が少ない間に、次の変異株に備える」 バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

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バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

救急・消防など第一対応者に対してバージニア・メイソン病院が
感謝のメッセージを掲げてから2年

新型コロナウイルスのパンデミック宣言が出されてから2年。アメリカでは2021年12月に始まったデルタ変異株による感染者の急増がピークを過ぎて減少に転じ、ワシントン州知事は2月末に「屋内のマスク着用規定を3月12日から緩和する」と発表しました。新型コロナウイルス感染症による入院率の低下、重症化や入院を防ぐワクチン接種率の向上、マスクや検査へのアクセス拡大にもとづいた判断とのことですが、私たちは現状をどのように理解し、どのような対策を続ける必要があるのでしょうか。シアトルのバージニア・メイソン病院で感染症科指導医として勤務している千原晋吾さんに、再びお話を伺いました。

– ワシントン州知事が発表した屋内でのマスク着用規定解除について、千原先生はどのようにお考えでしょうか。

感染率・入院率・死亡率がこのまま減少していくのであれば、屋内でのマスク着用規定を解除しても大丈夫だと思います。

雨の多い季節が終わるのも近いので、外で過ごす時間も増えるでしょう。

でも、自分が新型コロナウイルスに感染して体調を崩した時や新型コロナウイルスに感染した人を看病をする時は、マスクを着用することが大切です。 今後は、自分のリスクレベル、周囲の人のリスク、地域の感染レベルなどを考慮する必要があります(参考:CDC「Know Your COVID-19 Community Level」。

重症化するリスクの高い人と一緒にいる時や、自分が重症化するリスクが高い場合は、状況に応じてマスクの着用を検討してください。(参考:CDC「People with Certain Medical Conditions」)

また、個人の判断でマスクを着用し続けても問題はありません。

– 感染率がまた上昇に転じたら、マスクを着用するのがいいでしょうか。

はい、そう思います。若くて健康な人なら、感染しても無症状かもしれません。でも、マスクをすることで、免疫不全の人や免疫力が低下していて、死亡する確率の高い人への感染を防ぐことができます。

また、Long COVID(新型コロナウイルス感染後の後遺症)についてはわかっていないことも多く、若い人でも長期間にわたり、後遺症に悩まされる可能性があります。このため、若い人もワクチン接種を行い、感染率が高くなった時にはマスクを着用し、感染の確率を抑えることは大切だと思います。

– パンデミックからエンデミックへの移行はどのように起きるのでしょうか。

パンデミックからエンデミックへの移行があることを期待しています。パンデミックとエンデミックの大きな違いは、予測可能性という側面だと思います。

感染症の地域社会での広がりが予想される患者数の範囲内である場合、エンデミックと言われます。感染症の地域社会での広がりが予想される患者数の範囲を超えている場合、エピデミックとなります。そして、パンデミックとは、そのエピデミックが、複数の国や大陸で流行することを言います。(参考:CDC「Lesson 1: Introduction to Epidemiology」)

例えば、2009年のH1N1インフルエンザ(豚インフルエンザ)のパンデミックは、2009年1月に始まり、WHOは2010年8月に終息の宣言をしました。その後、H1N1インフルエンザはエンデミックになったわけですが、新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前まで、毎年、世界中の多くの人が罹患し、亡くなっています。(参考:CDC「2009 H1N1 Pandemic (H1N1pdm09 virus)」)

米国では新型コロナウイルスの新規感染者数は減少し続けていますが、日本も含め、まだ多くの国で新規感染者数が多い状態が続いています。

このため、私はこのパンデミックの状態はしばらく続くのではないかと思います。新型コロナウイルスのパンデミックがいつ終わるというはっきりとした指標があるわけではないのですが、「新型コロナウイルスの死亡率が、非常に深刻な季節性インフルエンザのシーズンと同じくらいまで下がったら、エンデミックの状態になる」と言う専門家もいます。(参考:Getting to and Sustaining the Next Normal: A Roadmap for Living with COVID

– エンデミックをさらに進めるには、どういうことをする・どういうことになる必要があるのでしょうか。

エンデミックをさらに進めるには、病院に負担がかからないよう、この感染症をコントロールが可能なものにする必要があると思います。もうひとつは、世界的な問題として取り組まなければならない点です。どんなウイルスも複製される時に変異する可能性があるので、世界中でワクチン接種を奨励し続けることが重要です。そうすれば、感染者が少なくなり、ウイルスが変異する可能性も低くなります。

とはいえ、専門家の予測では、今後、最良のシナリオで年間1万5000から3万人が死亡するとされています。最悪のシナリオでの死亡者は、その10倍です。(参考:Getting to and Sustaining the Next Normal: A Roadmap for Living with COVID

– その他に現時点で知っておいたほうがいいことは。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新しい病気です。コントロールできていると思うたびに、別の変異株が出現し、また患者が急増してきました。ですが、科学が進歩し、治療法も新しくなっています。今年の後半に新たな変異株が出ても不思議ではありませんが、患者数が少ない時期は、私たちは一息つくべきでしょう。

でも、そろそろ次の変異株に備える時です。PPE を備蓄し、検査やワクチン接種、治療薬の入手に問題がないことを改めて確認する必要があります。さらに、建物を換気の良い(エアフローのある)構造に変えたり、HEPA フィルター付きの空気清浄機を使用するなど、室内の空気の質を最適化する必要もあります。

パンデミックは良い方向に向かっているものの、まだ終息していません。私たちは、個人のリスクと身近な人のリスク、自分の住む地域の感染率を考慮に入れながら、まだこの先もしばらく生活していくことになるでしょう。

– ありがとうございました。

千原晋吾さん(ちはら・しんご)
バージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医
日本、プエルトリコ、ニュージャージー州で幼少時代を過ごし、山梨医科大学に入学。卒業後、横須賀海軍病院インターン、飯塚病院初期研修、コネチカット大学プライマリ・ケア内科プログラムのレジデント及びチーフ・レジデント、ラッシュ大学・John H Stroger Jr Hospital of Cook County 感染症科フェロー、ユタ大学臨床微生物学フェロー、獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教室講師。2011年に再々渡米し、南イリノイ大学感染症科講師を務めた後、2014年3月よりバージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医。2016年7月のインタビュー記事はこちら

掲載:2022年3月

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