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「エスプレッソは、私の芸術の形」シアトルの伝説的ロースターカフェ 『Espresso Vivace』創業者デビット・ショマーさん

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デビット・ショマー

コーヒー豆の品質・焙煎・鮮度、エスプレッソの淹れ方など、あらゆる面でトップクラスのロースターカフェ『Espresso Vivace』の創業者デビッド・シュマーさん。1988年の創業以来ずっと、シアトルのコーヒー業界をけん引し、「アメリカのコーヒーの首都」として成長するのを支えてきた人の一人です。1994年に教材として発売したラテ・アートのビデオは大評判を呼び、その2年後に出版した著書『Espresso Coffee: Professional Techniques』はバリスタのバイブル的存在となり、今でも世界各地から教えを受けたい人が訪れる伝説的存在でもあります。パンデミックの最中には改訂版『Espresso Perfection: Preparing Caffe Espresso As A Culinary Art』やオンデマンドの指導ビデオも公開し、後進の育成に余念がありません。前回のインタビューから19年が過ぎた2023年、改めて貴重なお話を伺うことができました。

– デビッドさんは、30年以上も前にコーヒーのビジネスを始め、米国でラテアートを広め、コーヒー業界をけん引してこられました。エスプレッソ・ヴィヴァーチェは、エスプレッソのメッカとして知られています。

コーヒーと共に35年の歳月が流れました。ラテアートというよりは、ニュージーランドや台湾に至るまで、世界中で認められている芸術(アート)としてのエスプレッソを広めるために、本や記事、映像などを提供し、機械の改良を手伝ったことが主な貢献です。1995年に出版した私の最初の著書『Espresso Coffee: Professional Techniques』が世界的に広まったことで、世界各地の人たちが私が業界のために行おうとした教育について知ることになりました。

以前は、人前で話したり、ショーに参加していましたが、子どもができてプライオリティが変わり、飛行機やタクシーに乗る機会が減り、コンベンションで話すことも少なくなり、そのような活動をすることに疲れを感じるようになりました。

– コーヒーにこだわるようになったきっかけは何でしょう。

香りですね。4歳の時、すばらしい香りをかいだのが、そもそもの始まりです。かつてシアトルの North 45th Street にあったフード・ジャイアントというスーパーマーケットで母が大きな赤い機械を使って挽いていたコーヒー豆の香りに想像力をかき立てられ、「コーヒーはミステリアスで大人のもの」という印象が残りました。実際、大人になってコーヒーを飲んでみたら、もちろん、ひどいものでした!空軍で出していたコーヒーだったのでね(笑)。

その後、焙煎したコーヒーの香りをそのままカップに閉じ込めることができるエスプレッソのシステムについて知りました。でも、それを実現するにはかなりの技術力が必要でした。

ワシントン大学で文化人類学学士号、コーニッシュ芸術大学でフルート演奏の学士号を取得した後、フルートの演奏活動もしましたが、ボーイング社で計測学(metrologist)の専門家として働くようになりました。技術屋として改良を重ね、コーヒーが私の音楽になりました。

エスプレッソは、追求すればするほどわくわくさせられます。今でもそれは変わりません。私は毎日、エスプレッソを見る喜びと、コーヒー豆を挽くことのミステリーに直面しています。エスプレッソは、私の芸術の形なのです。人生を通じて美しいものに携わることができる私はラッキーです。

– シアトルでヴィヴァーチェのコーヒーの人気が高まったのは、なぜだと思いますか。

シアトルには、インディペンデント・スピリットのようなものがあります。自分たちの好きなものが何なのか、誰かに教えてもらいたいとはあまり思いませんし、東海岸と違い、流行を追うわけでもありません。私たちがシアトルでやっているのは、自分で自分が好きなものを見つけて、自分を喜ばせることなのです。

私は、より良いものを認識し、それを目指したわけです。大きな企業のようにあれこれやって、お金を取って、変なスタンダードを広めるようなことはしません。私はいつも、少しですが、アウトローなんです。ヴィヴァーチェのコーヒーは、甘みとコクが際立っていますが、皆さんが自分でその味を確かめて気に入ってくれ、街中に広がっていきました。

デビット・ショマー

– 今、デビッドさんがコーヒーでワクワクすることは何でしょう?

もちろん、より良いものを作ることです。物事を改善すること ー それはどんどん難しくなっています。私は最後の3%の段階に直面しているので、そこから改善するのはとても難しいことなのです。

でも、今の主な仕事は人を育てること。一週間のほとんどの時間を、訓練に費やしています。ロースターやバリスタも一人ひとりが個性的なので、常に新鮮で、教えるのが楽しみです。4月18日は創業記念日で、この仕事を始めて35年になります。でも、常に新鮮なんですよ。自分の情熱を伝え、教え、共有するためのスキルが身に付いているのかもしれません。だから、常に改善し、教えることで、ワクワクが生まれます。

– バリスタは何人いるのですか?

25人です。以前は50人ほど雇っていましたが、パンデミックのおかげで、より無駄のない効率的な経営ができるようになりました。収益が低く、チップも稼げないシフトは削減しました。これらは、「COVIDの贈り物」と呼んでいます。また、キャッシュレス化も進めました。そのおかげで、私たちが知らなかった、隠れたメリットにたくさん気づくことができました。

私の店では、通常、バリスタとして認められ、フロントで働くようになるまでに6ヶ月かかります。まず、その素養があるかどうかを見ます。その後、私が行うトレーニングでは、基礎的な部分をカバーします。完璧なショットの作り方、完璧なミルクの作り方、マシンの扱い方、清潔に保つ方法などですね。私の得意なことをやらせてもらっています。社内には、カスタマーサービス、ミルク、ラテアートのスペシャリストがいますから、トレーニングでは多くのサポートを受けられます。

パンデミックの間は、新しいトレーニングビデオを制作しました。基礎的なことは自分で学べるようにするためです。また、著書『Espresso Perfection: Preparing Caffe Espresso As A Culinary Art』を書き直しました。そして、オンラインセミナーを開催し、トレーニングビデオを30日間75ドルで閲覧できるようにしました。これから始める人は、ぜひこのトレーニングビデオを見て、練習に練習を重ねてください。そうすれば、数時間だけ私に会いに来るよりも、もっと良いバリスタになることができるはずです。

私たちは今、COVID-19のパンデミック(世界的流行)ではなく、エンデミック(特定の地域で流行が繰り返されること)の段階にいると思います。パンデミックの当初は少し休業しましたが、しばらくしてからテイクアウトのみで再開しました。ご高齢のお客様から「あなたの店の対策はとても良いから、安心して来れるわ」と、お褒めの言葉をいただきました。今はプラスチック製のシールドをカウンターに使っているだけで、スタッフは個人の選択でマスクをしています。

デビット・ショマー

– コーヒー業界において、創業当時と変わったことがあれば教えてください。

私は1990年に焙煎を始めました。コーヒー豆の糖分を引き出すポイントを見つけるのに、3週間くらいかかりました。精密な焙煎。読者の方にぜひ知ってもらいたいのですが、ヴィヴァーチェはとてもユニークな焙煎をしています。北イタリアのスタイルは、コーヒー豆の中で最もカラメル化した自然糖の度合いが高く、焙煎中にコーヒーが自らカラメル化した糖分を生成するため、自然な甘さになります。そのポイントを見極めるのは、簡単ではないでしょう。私たちには独自の焙煎理論があるので、今後も多店舗展開をすることはありません。

– 今年、または5年以内に計画している新しいことを教えてください。

少しありふれた話ですが、新しい焙煎機を購入します。ヴィヴァーチェで提供するエスプレッソは、100%信頼できるものでなければなりませんから、コンピュータ化された新しい焙煎機を導入し、さらにクオリティを高めていきます。でも、エスプレッソのクオリティを高めるために私が望んでいるスペックを満たすグラインダーは、まだ存在していません。

その他にあるとすれば・・・私には息子が二人いて、長男は今は一緒に働いてくれていますが、将来的にヴィヴァーチェを率いることには興味はないと思いますし、次男は自分で独立してやっていることがあります。人はそれぞれ自分でやりたいことをやらなくてはなりませんから、それでいいと思っています。ヴィヴァーチェには素晴らしい経営陣がいて、利益分配などを通じて、ある種の所有権を持っていますが、私は66歳になりましたから、70歳ぐらいになるまでに私の仕事を代わりにやってくれる人を見つけたい。75歳になるころにはリタイアしていたいですから(笑)。

米国にいる方で、ヴィヴァーチェまで来ることができない方は、オンラインで豆を購入すると、冷蔵庫に30日間保存できます。日本からこの記事を読んでくださっている方で、「ヴィヴァーチェのコーヒーを飲みたい」という方は、横浜にある『カフェ エリオット・アベニュー』に行ってみてください。日本でヴィヴァーチェのコーヒー豆を使っている唯一のカフェで、ぜひゆっくり味わっていただけたらと思います。

Espresso Vivace 創業者 デビッド・ショマー 略歴
ワシントン大学で文化人類学学士号、コーニッシュ芸術大学でフルート演奏の学士号を取得。米空軍で4年間にわたり電子較正と修理に携わった後、ボーイングで電子較正の専門家として勤務。1988年にエスプレッソ・ヴィヴァーチェを共同創業し、現在は品質管理、焙煎、トレーニングを担当し、毎日各店舗を訪問している。1994年に教材として発売したラテ・アートのビデオが大評判を呼び、その2年後に著書『Espresso Coffee: Professional Techniques』を出版。2021年に改訂版『Espresso Perfection: Preparing Caffe Espresso As A Culinary Art』を出版した他、オンデマンドの指導ビデオも公開して後進の育成に尽力している。
【公式サイト】 espressovivace.com

聞き手:オオノタクミ

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