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「今は日本企業にとって千載一遇のチャンス」 江藤哲郎さん Japan Seattle AI Innovation Meetup 主宰

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Photo by Naonori Kohira

1986年にマイクロソフト日本法人の設立に携わったことを皮切りに、シアトルのテクノロジーの可能性に目をつけ、現在ではベンチャー・キャピタリストとして最先端のスタートアップへの投資も行っている、江藤哲郎さん。

2016年から主催しているAIミートアップへの参加者は延べ3,000人を超え、シアトル企業12社が日本に拠点を開設するなど、素晴らしい成果を上げています。

「今は日本企業にとって千載一遇のチャンス」と語る江藤さんに、シアトルのスタートアップシーンの魅力やトレンド、日本企業への期待について、お話を聞きました。

もくじ

Japan Seattle AI Innovation Meetup とは?

Japan Seattle AI Innovation Meetup

AIを筆頭とするシアトルのイノベーションを日本企業に紹介する Japan Seattle AI Innovation Meetup。

2019年までシアトルで対面式のイベントを14回開催し、約100社延べ300名以上の日本企業が参加し、その成果としてシアトルのスタートアップ9社及び中堅・大手3社が日本に拠点を開設するなど数々の提携事例を生み出しています。2020年以降はオンライン開催で、各回250名以上が参加しています。

コロナ禍前に在シアトル日本国総領事公邸で開催されたイベントの様子は、山田洋一郎総領事(当時)の見聞禄でご覧いただけます。

Japan Seattle AI Innovation Meetup 主宰 江藤哲郎さんQ&A

Photo by Naonori Kohira

– 2016年にAIミートアップを始められて、7年が経ちました。江藤さんがシアトルで活動を続ける理由は何ですか?

シアトルはグローバル企業発祥の地です。マイクロソフト、アマゾン、エクスペディアなど、世界中の誰もが知っているような企業が、ここシアトルでスタートアップからグローバル企業になりました。

アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスは、もともとニューヨークでヘッジファンドをやっていました。1995年にこれからインターネットの波が来るという話を耳にした彼は、ファンドを辞めて、夫婦で車を運転して西に向かい、シリコンバレーではなく、シアトル郊外の街ベルビューに購入した自宅のガレージで起業しました。

ベゾスが起業する際、IT エンジニアとロジスティクスの両方が必要だったのですが、この強みを両方持っている土地は、実はアメリカの中でも少ないのです。また、シリコンバレーやニューヨークに比べて、シアトルは起業コストが安いです。IT エンジニアをマイクロソフトからスカウトし、ロジスティクスのプロをCostco(コストコ)からスカウトし、Amazon.com が生まれました。

シアトルでは、アマゾンやマイクロソフトなどのIT企業や、小売業のコストコなどのグローバルブランドが日本に進出して成功している事例を見ているので、「日本でも成功できないわけがない」と思っている起業家がとても多いのも事実です。

– シアトルのスタートアップシーンの魅力は、どんなところですか?

シアトルは、アメリカの主要都市の中でも「日本と仕事したい」と思っているスタートアップがとても多いです。テクノロジー全般では、もちろんシリコンバレーが最も強いし、人材、お金、サクセスストーリーも集中しています。しかし、重要なポイントは、彼らが日本を向いているかということ。シリコンバレーは、そうではない。その点、シアトルは日本に対して親しみやリスペクトを持っている人が多いので、(日本企業との協業において)成長が見込めると思います。

それからもう一つは、ビジネスモデルの違いがあります。シリコンバレーでは、B to C (Business to Consumer)や C to C (Consumer to Consumer)のソーシャルやシェアリングのビジネスモデルが中心で、ユーザーをタダで数千万人集めて、資金調達をして、売上がなくてもユニコーンになって、注目を浴びる。こういったスタートアップは、日本の強みである製造業などのパートナーを必要としていないので、話がかみ合わない部分がかなり大きいです。

一方、シアトルは B to B(Business to Business)が盛んな街であり、インダストリー向けなのです。ワシントン大学も特に医学や物理の分野が強く、7名のノーベル賞受賞者を輩出しています。また、ボーイングやパッカー(PACCAR)を代表とする大型産業機器の企業も多く、部品を作ってパートナー企業に売る、というスタートアップが多いです。ですので、シリコンバレーに比べて、日本にビジネスしに行きたい、日本企業と組みたいというスタートアップが圧倒的に多いです。

Japan Seattle AI Innovation Meetup

– AIミートアップからどんな成果が生まれましたか?

ミートアップに参加したワシントン州のイノベーターたちで、日本に拠点ができた会社が12社あります。

(上記の図の)上部の9社がスタートアップと呼べるサイズの会社で、下部の3社は結構大きな会社です。彼らはミートアップに参加して、日本企業の顧客を見つけて、日本に支社を開設したり、日本の大企業を卸売業者として選定したりという形で日本進出を果たしています。

前回江藤さんにお話を聞かせていただいた2018年から5年経ちました。この5年間でシアトルのスタートアップ・エコシステムにどのような変化がありましたか?

エコシステムが変化した点で一番大きいのは、資金調達です。シアトルは元々エンジェル投資や起業したての人が数百万円程度を友だちや家族から集める friends & family round は盛んなのですが、シリコンバレーに比べると、ベンチャーキャピタル(VC)の数や規模は特に小さいのです。

そこで、資金調達を助けたいと思い、VC ファンドを作る準備をしていたのですが、ちょうどエンジェル投資をしていた SWAN が初めてのVCファンドである SWAN ベンチャーグループを作ることになり、設立に参加しました。今、SWAN ベンチャーグループとして、7社のスタートアップに投資しています。

こちらの Geekwire の『The 10 biggest funding rounds for Pacific Northwest startups in 2022』 にあるグラフの通り、コロナ禍での金融緩和の影響を大きく受け、特に2021年は米国北西部でも資金の調達額が爆発的に増えました。2022年に入って経済が不透明になると、調達額は大きく減りましたが、それでもコロナ禍前の2019年に比べたら多くなっています。それだけシアトルのスタートアップが有望ということだと思います。

– 協業を希望する日本企業の変化は?

Japan Seattle AI Innovation Meetup

2016年に開始し、2020年のパンデミックで Zoom 開催に切り替わった AI ミートアップには、この7年間で延べ3,000人が参加しました。Zoom 開催のミートアップには毎回250名程度の人が登録し、日本企業がシアトルへの関心度を高めていることが伺えます。

やはりコロナ禍のピーク時は協業のディールが減ってしまったのですが、つい先週行ったミートアップに参加した日本企業の方が、ピッチしたシアトル企業に会いに来られました。日本企業のシアトルに対する認知度やビジネスしたいという意欲の高まりを感じます。

日本企業からは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、ヘルスケアとクリーンテック、この三つの分野が最近注目されています。タッチレスなどの技術は日本企業のニーズが高いですし、感染症や高齢化対策において、ヘルスケアのイノベーションを重視しています。また、ロシアのウクライナ侵攻なども、クリーンテック分野に拍車をかけるファクターになっています。

– 2023年、今一番注目しているテクノロジーは?

Web3(ウェブスリー)のテクノロジーは世の中を変えると思います。シアトルには世界初の NFT 美術館があり、ブロックチェーンも盛んなことから、Web3はシアトルの地にあったイノベーションだと考えて、その動向を追っています。

あともう一つ大きな流れになるかもしれないのが、ジェネレーティブ AI(生成型の人工知能)です。Chat GPT を開発している OpenAI にマイクロソフトが100億ドルの投資を発表しており、これはゲームチェンジャーになると思います。Chat GPT をバックエンドに使ってサービスを提供するようなスタートアップも出てきています。

– 日本企業に期待することは?

日本企業にとって、今は千載一遇のチャンスだと思います。

なぜかというと、トランプ政権以降、米中対立が深刻化してきたことがあります。一時期、アメリカのスタートアップの多くは中国を向いていました。中国の方が市場が大きいですし、成長性もあるからです。しかし、ここ数年、中国での知的所有権や人権問題も浮上してきて、全米の起業家たちは危機感を持つようになりました。一方、日本とアメリカは同盟国のため、AI やロボティクスなど軍事転用可能なテックが流出してしまうというような心配がありません。また、ルールも価値観もアメリカと近いので、日本の相対的なポジションが良くなりました。

日本国内でもスタートアップ育成に力を入れていますが、日本で「起業して世界に出ていく」と考えるスタートアップはまだまだ少数派です。地政学的な観点からも、今は日本企業にとって、アメリカの一番おいしいところを持っていける千載一遇のチャンスだと思います。日本企業は内部留保が500兆円もあり、日本の GDP とほぼ同額を貯金していることになります。個人の貯蓄額はその数倍ほどあります。個人の蓄えはある程度必要かもしれませんが、企業はそのお金を使ってアメリカに投資すべきだと思います。アメリカのスタートアップと組んで、ビジネスの提携や実際にユーザーになることも、どんどんやるべきです。

– 今後の予定は?

シアトルのスタートアップを日本に連れていき、日本企業と会わせる Washington State Tech Mission to Japan を4年ぶりに復活させる予定です。このテックミッションは、2017年から2019まで実施していましたが、コロナ禍で止まってしまいました。でも、今年の6月にシアトルのスタートアップ5~6社と、東京や大阪を巡る予定です。

AIミートアップに関しては、Zoom開催も続けつつも、対面のイベントも増やしていく予定です。その第一弾として、この秋に4年ぶりに対面のミートアップをシアトルで開催するつもりです。

– ありがとうございました。

江藤哲郎 略歴
Japan Seattle AI Innovation Meetup 主催者
米国ワシントン州政府商務省日本代表
SWAN Venture Group パートナー
日経BP刊 『AI ゲームチェンジャーシリコンバレーの次はシアトルだ』 共著者
慶応義塾大学商学部卒業。アスキー、マイクロソフト、電通に勤務。2013年に電通が英イージスを買収した際のグローバルIT統合責任者。2016年よりAIスタートアップを日本企業と繋げる Japan Seattle AI Innovation Meetup を主催。2019年 SWAN Venture Group パートナー。2020年ワシントン州政府商務省日本代表兼任。
【お問い合わせ】 info @ innovation-finders.com | LinkedIn

掲載:2023年2月 聞き手:大阿久裕子 写真提供:Japan Seattle AI Innovation Meetup

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