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「DXを通じて、住宅の脱炭素化を実現」 EDEN共同創業者・濱村百合さん

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EDEN共同創業者チーム
右から二人目が濱村百合さん

「冷房いらずの、過ごしやすい夏」が代名詞のシアトルですが、ここ数年猛暑日が増え、冷房(AC)を購入する家庭が増えています。2013年に冷房を設置している世帯は31%でしたが、2021年には53%と、全体の半分以上を占めるようになりました。(米国勢調査局:The 2021 American Housing Survey)。

日本で一般的に「エアコン」と呼ばれる、冷媒ガスの流れを切り替え、冷房・暖房ができるヒートポンプ式の冷暖房設備が、近年、環境により良い冷暖房設備としてアメリカで注目されています。ヒートポンプの使用エネルギー量は、天然ガスや石油を使用するファーネス式の暖房とエアコンの二つのシステムが必要な従来型の3分の1から4分の1ほどで、光熱費を大幅に節約することができるからです。2022年には、全米のヒートポンプ式の販売数がファーネス式を上回りました。

この流れに注目し、2021年にシアトルに移住し、ヒートポンプの導入を後押しするスタートアップ『EDEN』を共同創業した濱村百合さんにお話を聞きました。

『EDEN』共同創業者 濱村百合さん Q&A

濱村百合さん

– EDENとは?

E-Den Home Electification(EDEN)は、2021年にシアトルで創業したスタートアップで、冷暖房設備の設置を行うコントラクターの営業プロセスのDXを通じて、既存住宅の脱炭素化を進めています。

独自のソフトウェア『Instant Quote』は、公開されている全米の住宅や気候に関するデータ及び家主からのデータを使って、環境に優しいヒートポンプの冷暖房設備の見積もりを自動化し、光熱費、環境へのインパクトや税控除額の予測もオンラインで提供しています。

– 起業したきっかけは?

私が小中学生だった時に京都議定書が採択されたのですが、環境問題のインパクトは大きいにも関わらず、米国の不参加など、政府レベルではなかなか物事が進んでいかないことに衝撃感じていました。日本国内においても、批准にあたり「乾いた雑巾を絞るようなもの」というように言われ、「日本企業はこれ以上、CO2を削減することはできない」と考えられていました。後から振り返るとそんなことはなかったわけですが、環境問題の解決には民間の力とイノベーションが必要なのではないかとの思いが強くなっていきました。

大学卒業後、金融庁、そして投資ファンドでキャリアを積みながら、将来は何か環境に関わることがしたいと思い、機を伺っていました。環境分野のスタートアップで成功するスタートアップは少なく、この分野での起業は難しいのではないかとためらっていた私を変えたのは、現在の創業チームとの出会いでした。ベンは夫の高校と大学の同級生で、彼も同じく環境分野で起業したいと考えていたのです。不動産テック企業のRedfinのエンジニアだったCEOベン、再生可能エネルギー開発を行ってきたジョシュ、投資ファンドで投資と経営支援を行ってきた私、そして、環境スタートアップの熟練起業家エイプリル。この4人の異なる経験を合わせれば何かできるという自信が生まれ、2021年に起業を決めました。

屋外に設置されたヒートポンプ式の冷暖房設備

– 起業して変えたいと思ったことは?

起業して変えたいと思ったことは大きく二つあります。一つ目は環境へのインパクトです。米国において、住宅からのCO2排出量は全体の17%を占めています。事業者向けにCO2の排出規制を行うような業界とは異なり、全米約8,000万世帯はそれぞれ個別にどの家電を買うか決断するため、変化を起こすのがとても難しい世界です。そこで、ヒートポンプという、日本の技術で作られた脱炭素化を可能にする素晴らしいテクノロジーを全米の家に導入し、住宅部門の脱炭素化を進めていきたいのです。

二つ目は、住宅における冷暖房設備の交換プロセスをオンライン化し、便利なものに変えることです。冷暖房設備を含む、いわゆるホームサービス業界では、住宅所有者とコントラクターの間の情報量に大きな差があります。今ある設備を入れ替えるのにかかる費用は、訪問見積もりをしてもらわないとわかりませんし、他にどのようなオプションがあるのかを知らずに決断しなければならないという不安もあると思います。米国の冷暖房設備の交換頻度は15〜20年に一度の大きな決断になります。住宅の所有者にとって、財政面、快適さ、そして環境へのインパクトなど、すべてにおいて最適なオプションがどれなのかをもっとわかりやすくしたいのです。

屋内に設置されたヒートポンプ式の冷暖房設備

私たちは過去一年間にわたり、シアトル地域の冷暖房コントラクターと共に合計約9,000万円のヒートポンプを販売してきましたが、その経験を通じてコントラクター側にも大きな問題があることに気づきました。冷暖房設備のコントラクターは、基本的には従業員2人から10人の小さな会社がほとんどです。現状、彼らの営業プロセスは非常にアナログで、新しい施工案件を受注するには、家庭を訪問し、実際に設備を見ないと見積もりが出せません。平均的に4件見積もりを出して、1件受注できるというような、打率0.25というのが業界水準なので、非常に時間がかかります。このアナログなプロセスを効率化して、受注率を向上させ、彼らの生活も改善したいと思っています。

– 今までで最大のチャレンジは?

コントラクターの業務プロセスのデジタル化が最も大変なことの一つです。いわゆるコントラクター業界は、一件一件の特殊性が高くデジタル化が難しく、その結果として、訪問見積もりなど人ベースのプロセスが続いています。営業、施工、マーケティング、経理など、小さな会社は日々の仕事に忙殺されてしまい、業務の効率化について充分に考える時間もありません。

もともとコントラクター向けのオンライン・プラットフォームは、あるコントラクターの「こういうものがあったらいいな」という発想から作られ、その方がアーリーアダプターとなって導入を進めています。現在プロダクトの大幅改造中ですが、まず彼らに成果を上げてもらい、「売り上げを伸ばせた」というようなサクセスストーリーを積み上げていきたいと思っています。

– 使用するヒートポンプのブランドはどのようなものがありますか?

ダイキン、三菱電機、Bosch、American Standard、Greeなど、幅広いですが、日本メーカーのものはとても人気です。取り扱うブランドはコントラクターそれぞれで決まっていますので、お住まいの地域と、どのコントラクターを採用するかによって、ブランドの選択肢が変わってきます。シアトル大都市圏にお住まいで見積りにご興味のある方は、弊社サイトからオンラインで見積りをお申し込みいただけます

屋外にヒートポンプ式の冷暖房設備を設置したお客様

– 会社で一番自慢のポイントは?

日本語で言う「三方よし」を実現できていることです。売り手であるコントラクター、買い手である住宅所有者、そして気候変動対策という大きな社会問題の緩和に対しても貢献しています。

これまで40軒ほどヒートポンプの施工をファシリテートしてきましたが、簡単でスムーズなプロセスや価格の透明性で、とても高い評価を得ています。また、これはガソリン車40台をEVに切り替えたのと同じCO2削減効果があります。アメリカにおける住宅の脱炭素化を、実際に目に見える形で実現できていることが会社として最も誇りに思っているところです。

– シアトルのスタートアップコミュニティの特徴は?

シアトルは、環境技術に極めてフレンドリーな街だと思います。技術やスタートアップでは全米屈指の街で、環境への関心がとても高いですね。お客さんとしてのアーリーアダプター、さまざまなアドバイザーや投資家の方が集まっているので、非常にありがたい環境だと思っています。

春から夏にかけてはほぼ毎週末ハイキングをしている濱村さん

– 休日の過ごし方は?

春から夏にかけてはほぼ毎週末ハイキング、冬はスキーを楽しんでいます。今はシアトルの東側のエリアに住んでいるのですが、運転すれば30分未満、遠いところでも2時間以内の圏内にハイキングトレイルがたくさんあり、美しい湖もあります。自然が本当にすぐ近くにあるのが素晴らしいですね。

– 今後の事業展開の予定は?

今はワシントン州とテキサス州の二つの州で、限定的な事業展開をしていますが、今後はコントラクターとのパートナーシップを全米で広げていきたいと思っています。

家一軒あたりのインパクトはガソリン車一台に過ぎなくても、全米に拡大するとガソリン車8,000万台相当のCO2を削減できる可能性があります。これを一つ一つ実現していきたいです。

– ありがとうございました。

EDEN Homes

共同創業者:ベン・フィリップス、 濱村百合、ジョシュ・カプリン、エイプリル・オルダーダイス

社員数:7名 ※2023年7月時点

本社:シアトル

創業年:2021年
公式サイト: www.e-denhomes.com

聞き手:大阿久裕子 写真提供:Eden/濱村百合

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