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第17回 友人との健康的な境界線(バウンダリー)の引き方

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パンデミックにおける規制が緩和されたタイミングで久々に会った人や、夏休みが明けてまた頻繁に会うことになりそうな人との人間関係、うまくいっていますか?

バウンダリー(boundary)という言葉を聞かれたことがあるかと思います。

これは対人関係に関わる境界線のことで、「人と対面で会う場合の実際の距離」や「周囲の人との心理的な距離」などがありますが、ここでは心理的なバウンダリーについてお話ししていきます。

もくじ

心理的なバウンダリーとは

自分にとって健全で心地良いバウンダリーを引くことができると人付き合いがスムーズになりますが、バウンダリーが曖昧なまま付き合いを続けていると、大きなストレスとなってしまいます。

自分の許容範囲を超えた付き合いや、他人からバウンダリーを侵害された場合には、「断りづらくて、ズルズルと・・・」とか、「心に土足で踏み込んで来られてしまう」と感じ、重い気持ちになり、人付き合いが億劫になってしまいます。

また、正当な理由があったとしても、バウンダリーを守りきれなかった時には自己嫌悪に陥る方も少なくありません。

例えば、次のような場面です。

  • 友人の誕生会に招待されたものの、それほど仲がいいわけでもなく、忙しい時期だったので、あまり乗り気ではなかった。直前になっても結局上手に断ることができず参加したが、楽しめなかっただけでなく、その日のために料理や買い物に時間とお金を費やし、疲れてしまった。
  • 同僚とコロナ対策・予防策や予防接種について意見が合わず、昼休みに一緒に食事をすることに抵抗がある。関係を壊したくないので、窮屈な昼休みをその同僚と過ごしているが、逃げ場がなく、今では会社に行くことさえ嫌になってきた。
  • 子育ての方針や価値観がまったく異なる友人一家との付き合いは、子どもへの影響が心配。でも、数少ない近所の友人なので、子どもたちが遊びに行きたい・来たいと言うと、ついついOKしてしまう。
  • 義父母がたびたび遊びに来て、子育てや夫婦のことなどに過剰に口出しをしてくるのを、黙って耐えている。ストレスのはけ口がなく、パートナーとの口論が増えてきた。
  • 都合良く利用されているような気がして、本当は少し距離を置いて付き合いたい人がいる。でも、毎回うまく「No」と言えず、ズルズルとした悪循環の友人関係に陥っている。

快適なバウンダリーの引き方

上記の例の中に、似たような経験があるでしょうか。では、どうすれば快適なバンダリーを引くことができるのか、見ていきましょう。

自分が快適だと思える人間関係での基本的な距離感を把握する。

Aさんは、アメリカに来たばかりの頃は不安感と孤独感が強く、頻繁に誘ってくれるアメリカ人の友人と常に一緒に行動を共にしていました。次第にアメリカの生活に慣れてくると、自分の時間がないことを不満に思うようになったのですが、「今まで助けてもらったのだから」という思いから、なかなか自分の要望や不満を言い出せず、口実を作ってその友人と距離を置くようになりました。

でも、その後、友人が理解したのか誤解したのかはわからないまま連絡が取れなくなってしまったのです。Aさんは、「最初から上手に距離をとりながら付き合っていれば、大切な友人を失わずにすんだのに・・・」と話してくれました。

適切な距離感を保ったり、バウンダリーをしっかり保つには、まず自分自身が快適だと思える相手との距離感を、「何となく」でも構わないので、予め把握することが必須です。

人間関係を分散する。

小学校低学年の子どもがいるBさんは、子ども同士のプレイデートをとても負担に感じていました。子どもの友達の母親(ママ友)が、子ども達の前で他人の悪口を言うことや子育ての方法に疑問を感じ、自分の子どもへの悪影響が心配だったのです。ですが、自分の考えで子どもの遊び相手を奪ってしまうことへの罪悪感から、「子どものため」と我慢して付き合っていました。

ある日、同級生のお母さんのCさんが、「学校のお友達」「学校以外のお友達」「ママのお友達」というように、いろいろな友達のグループを持つようにしていることで、心のバランスを保つことができるだけでなく、誰か一人に集中したり、しがらみを持ったりすることなくあっさりお付き合いができている、と言ったことに強く刺激を受けました。そこで、Bさんも早速、地域のイベントに参加したり、パートナーの同僚の家族などと出掛けたりする機会を増やしたところ、同級生のママ友にべったりする必要がなくなり、自然と距離を置いて付き合えるようになりました。

日本に「公園デビュー」という言葉があるように、アメリカでも子どもを通しての友人関係に家族が気を遣うことはよくあります。子どもの幼稚園や学校、習い事などで顔を合わさなければならないので、なるべく穏便に過ごそうと、自分の気持ちを押さえたり、無理をして付き合いを深めたりしようとすると、悪循環に陥ってストレスが蓄積してしまいます。

選択肢が多いと、どれが「一番」いいのか悩むことがありますが、選択肢がない場合には、その事柄に対してストレスや不満を感じやすくなるとされています。

例えば、「これを食べなさい」と差し出されたりんごを食べた場合は「りんごを食べなければいけない」と感じますが、「この中からどれでも一つ、好きなものを食べなさい」と言われて、自分でりんごを選んで食べた場合は満足感が異なるのがその一例です。人付き合いにおいても、「この人しかいない」とか、「また新しい友人関係を作るのは面倒」と思っていると、余計に今のお友達の悪い面が見えてしまったり、バウンダリーを侵害されてもつい我慢したりして、余計なストレスを感じる結果となりかねません。心のバランスを保ちやすくするためにも、普段の生活や友人関係に多くの選択肢を保つようにしてみてはいかがでしょうか。

他人と対等な関係で向き合い、率直なコミュニケーションを図るための「アサーティブ・コミュニケーション」の実践

アサーティブ・コミュニケーション(assertive communication)というコミュニケーション方法を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

これは、相手を尊重しながら、自分の考えを押し付けることなく率直に伝えるコミュニケーション方法で、日本語でも英語でもたくさんの事例や実践方法が無料で紹介されています。

日本の社会では、「空気を読む」「行間を読む」など、お互いに直接言わなくても理解したりしてもらったりすることが期待されます。でも、アメリカ社会では率直にコミュニケーションを取ることが期待されるので、アメリカ人は特にそうですが、日本人であっても、年齢や性別に関わらず、「直接言ってくれた方が助かる」とお話しになる方が多いように感じます。

例えば、このような事例があります。仕事を断れず抱え込んでいたDさんは、在宅勤務になったこともあり、毎日夜遅くまで残業していました。上司はそれを知らず、仕事とは関係のない趣味の誘いや取引先に対する愚痴を電話やメールでDさんに度々シェアしてきました。

「まだ仕事をしていると言うと評価が下がりそうだし、上司の誘いや相談事をないがしろにすると失礼にあたるし・・・」と思って我慢していたのですが、ついに体調を崩してしまい、上司に現状を打ち明けざるを得なくなりました。

体調を壊したことで伝える勇気が出たとはいえ、疲労とイライラで精神状態も不安定だったため、本当に言いたかったことの半分程しか言えず、「もっと早く伝えていれば、ストレスで具合が悪くなることもなかったし、上司にももう少し誠実で思いやりのある言い方ができたのに・・・」と悔やむことになりました。この上司にも問題があったわけですが、上下関係やパワーの違い、利害関係などがあると、率直なコミュニケーションに躊躇してしまうかもしれません。

でも、毎日のコミュニケーションでアサーティブ・コミュニケーションを少し意識をするだけで変化が現れやすいので、仕事の場だけでなく、家庭や交友関係でも積極的に取りいれていくことをおすすめします。

とはいえ、急に異なるコミュニケーション方法を実践するのは難しいかもしれませんので、まずは一番信頼できる人とのコミュニケーションから始めてください。その際、先に「今アサーティブ・コミュニケーションを練習しているから」と伝えておくと、相手が戸惑うことなく、理解と協力を得られやすくなります。

次のようなウェブサイトなどで紹介されているアサーティブ・コミュニケーションについての情報を参考にしていただくと共に、セラピーやカウンセリングでもアサーティブ・コミュニケーションに関わる相談をしてみてください。

佐野圭子 Ph.D., LMHC, NCC, SAS
メンタルヘルス&キャリアカウンセリング
CCC Counseling & Consulting
843 6th Street, Bremerton, WA 98337
電話:(360) 328-1233
【お問い合わせ】info@cccplace.com
【ウェブサイト】cccplace.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。読者個人の具体的な状況に関するご質問は、直接ご相談ください。

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