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第19回 日常の中で起こる差別・マイクロアグレッションとその影響

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アメリカに住んでいると、日本では感じなかったような差別を経験したり目撃する機会があるのではないでしょうか。コロナ禍のピーク時はアジア系に対する暴力が深刻化し、日本人の方々の不安が募りましたが、実際に差別をされて嫌な思いをした時は、どうされていますか?知らず知らずのうちに、差別をしてしまったことはありますか?差別を目撃した時、どう対応しますか?また、人種差別や性差別について、家族や友人、同僚や上司などと、どのように話し合っていますか?

もくじ

差別経験

昨今、アメリカのテレビや雑誌、インターネットで、有色人種や同性愛カップルを起用した広告が増えていることにお気づきでしょうか?

人種差別は長い年月にわたり問題となっていますが、2020年に起こったジョージ・フロイドさんの殺害事件以来、社会構造的差別について理解を深めるための議論や活動が一層、盛んになりました。

こうした社会の変化を受け、さらに多様性を可視化するため、白人や男女のカップルだけでなく、有色人種や同性愛カップルを起用することが増えているのです。

しかし、同時に、人種差別に関する話題が一部の白人を余計に刺激する残念な結果を招いてしまっているのも事実です。

差別の原因は、相手やある集団に対して理解が少ないにも関わらず、個人や社会が作った先入観や偏見・固定概念などによって起こり得る意識的なものです。差別には、言葉によるものと態度によるもの、またその両方があります。

これまでに日本人の方から伺った差別体験をいくつか挙げてみます。

  • 「レストランでの店員の対応が露骨に乱暴だった」
  • 「仲間はずれにされた」
  • 「自分だけに話しかけてこなかった」
  • 「しっかり英語で話しているのに、”言っていることがわからない” と取り合ってもらえなかった」
  • 「ジロジロ見られる」
  • 「性の対象とされる(女性)」
  • 「学校の先生の態度や評価が明らかに否定的」
  • 「ホテルのフロントデスクや店頭で、後から来た白人を優先された」

マイクロアグレッションとは

相手が無意識にとった言動に違和感を感じた時や、次のように思われた時には、「マイクロアグレッション」を経験されているのかもしません。

  • 「きっと自分が何か気に触ることをしてしまった(言ってしまった)んだろう」
  • 「相手に悪気はないのだろう」
  • 「気にしすぎなのかもしれない」
  • 「自分の思い込みや勘違いかもしれない」
  • 「文化が違うんだから仕方ない」

マイクロアグレッションとは、50年ほど前にアメリカで生まれた比較的新しい概念で、無意識に差別をしている時や、潜在的な差別の気持ちが知らず知らずのうちに言動となり現れることを意味します。

アメリカで生まれ育った人であってもあまり気にかけたことがない人がまだたくさんいますが、好意で言ったことでも、言われた相手が傷いたり不快に思ったりした場合、マイクロアグレッションと見なされてしまいます。

差別とマイクロアグレッションをはっきり区別するのが難しいこともありますが、マイクロアグレッションの例として次のようなものがあります。どのような先入観・固定概念・価値観・潜在的な差別意識などが隠れているか、考えてみてください。

  • 「違う文化のことを知りたいから/日本語を勉強したいから、友達になろう!」
  • 「ハーフって、かわいいね」
  • 知らない人から「ニーハオ」と話しかけられる。
  • 「結婚して10年も経つんだね。子どもは何人いるの?」
  • 違う言語のアクセントのある英語を話す人に、ゆっくりはっきりと話す。
  • 「それってすごくゲイっぽいよね」
  • 「クリスマツリーはもう出した?」
  • 「何のお仕事をしてるの?」
  • 「え? 運転しないの?」
  • 「移民の友達はたくさんいるの?」
  • 「他にも日系アメリカ人の友達がいるから紹介するよ」
  • 「恋人ができたの!」と言った友達に、「おめでとう!彼は何歳?」と尋ねる。
  • (初めて自宅に遊びに来た子どもの友達に)「あなたはお父さん似?お母さん似?」と尋ねる。
  • 良くない言葉を使った後、「Excuse my French!」
  • (高齢者に)「タイピングのスピードが速いですね!」

差別やマイクロアグレッションを受けたら

差別やマイクロアグレッションを受けても、「嫌な思いはしたけれど、それに対して自分は何もしなかった(何も言わなかった)」という方が多いのではないでしょうか。その理由として、次のようなことが挙げられます。

  • 「言いたいことはあったけれど、言い方がわからない」など、差別に関連する言葉選びや英語の問題がある
  • 何か言っても否定されるかもしれないし、その場が嫌な空気になるのが面倒
  • 相手に「敏感すぎる」「大袈裟だ」「弱い」などと思われるかもしれない
  • 今の関係に歪みが入ることが不安
  • 相手が逆ギレしたら怖い
  • (上司や義理の両親など)上下関係があるので、立場的に言いづらい
  • 「自分さえ我慢すれば」「相手に悪気はないのだから」「これくらい、何でもない」と問題を矮小化する
  • その時点では、差別やマイクロアグレッションだと気づかなかった

差別やマイクロアグレッションを受け続けると、心や体の健康に悪い影響を及ぼすことは、近年、多くの論文で発表されています。

でも、相手のしている差別行為を指摘することや、自分がどんな風に差別されたかを言葉にして表現するのは難しいことですし、とても勇気がいることです。

その場ですぐに伝える方が効果的な場合もあれば、しばらく時間を置いてから伝える方が効果的な場合もあります。

どちらにしても、相手が意図的に差別しているのか、無意識に差別しているのかに関わらず、差別している人やその発言を放置したり容認したりするのは、差別行為を間接的に支持し、擁護することになってしまいます。

今後の対策

差別やマイクロアグレッションを行った人への対応

  • 被害者であっても、傍観者であっても、まずは、「あれ?」と思う気持ちや不快感、モヤモヤする気持ちなどを軽視したり否定したりすることなく、しっかりと受け止めましょう。
  • ひとりで考えるよりも、差別やマイクロアグレッションに対する理解や自己認識のある人に経験や体験を話しましょう。
  • 日本の基準だけで価値観やコミュニケーション方法などを決めつけず、遠回しな言い方や言葉不足は勘違いを生み出すという可能性も視野に入れましょう。
  • 差別をした人に、あなたが見たことや、感じたことを伝えましょう。
  • その時、「あなたはこういう風に私を差別したよ」とか、「あれはマイクロアグレッションだと思うよ」などと相手を会話の中心にすると、相手はとっさに自己防衛機能を働かせるので、逆効果になります。相手の自覚を促すことが目的で、過ちを責めることが目的ではありません。
  • 「相手に謝ってもらいたい」という人もいるようですが、そのような人のほとんどが、「心無い謝罪は逆効果だ」と思っているようです。謝罪願望の奥には、「相手に自分のことを理解してもらえたと感じたい」という意味があるようなので、「相手に何かをしてもらいたい」と思った時は、「自分がどう感じたいのか」に焦点を当てる方が効果的です。(例えば、「心をスッキリさせたい」など)
  • コミュニケーションは、まず相手に心の準備をする時間を与えると効果的です。例えば、「今の話の内容のことで気になったことがあるんだけど、今話してもいい?それとも後にしようか?」と相手に選択権を与えることで、相手は「自分が今と決めたのだから、きちんと聞かなければ」という責任感を持つこととなります。
  • 「言いづらいんだけど、お互いの今と将来のために言うね」など、差別をされた側から差別をした側へ差別の話をすることは容易ではないことを伝えましょう。
  • そして、「私はこう感じたよ」とか、「以前にもこういうことがあったんだけど」と、自分の体験や気持ちのみを「伝える」目的で話してみてください。
  • 気持ちや考えがうまくまとまらない時は、「あれ?ちょっと今何か感じたんだけど、今のは何だったのかな?」と相手に問いかけることも効果的です。
  • 自分の失敗談や、自分も無意識に人を傷つけてしまっている可能性があること、また、自分が差別やマイクロアグレッションを行ってしまった時は相手に指摘してほしいとお願いしましょう。(共同支援者です)
  • 私たちは、相手が理解するかしないかをコントロールすることはできません。「伝えることができた」ことに満足し、相手の理解や謝罪などは期待しないことが原則です。相手が気づくことが目的であって、相手が何をどう気づいたかを問いただすことが目的ではありません。

自分が差別やマイクロアグレッションをしてしまったら

失敗や過ちを認めるのは容易ではないかもしれません。また、褒めるつもりで言ったことを、相手はそれをマイクロアグレッションと感じてしまうことがあるかもしれません。例えば、アメリカで生まれ育った日系2世のアメリカ人に、つい「日本語が上手だね」と言ってしまったことがあるかもしれません。また、日本語では「She/He/They」などの主語を省略することが多いので、知らずに間違った代名詞をお友達や同僚に使ってしまったことがあるかもしれません。

差別やマイクロアグレッションに「絶対に関与しない」というのは、残念ながら不可能かもしれません。差別やマイクロアグレッションをしないようにと、失敗を恐れていると、無口になったり、自分を戒めて緊張したりしてしまいます。

失敗を避けることよりも、失敗は成功への一歩ととらえ、自分にあった「失敗対処法」を持つ方が効果的です。ご参考までに、私自身が失敗をしたときに利用した例文をご紹介します。何かが起こった時に考えようとしても、感情が邪魔してしまい、客観的に考えることが難しくなってしまうので、平常な状態の時に自分の性格やスタイルにあった対処法を前もって考えておくといいでしょう。

  • 差別発言に気がついた時
    つい言い訳や反論をしたくなるかもしれませんが、相手の気持ちを尊重しましょう。「ごめんね、今言ったことは良くなかった。傷つけてしまったり、嫌な思いをさせてしまったかもしれない。本当にごめんね。どうしてあんな風に言ってしまったのか、きちんと考えるね。」
    「今の発言はだめっだったんじゃないかな。どんな風に受け取った?私の価値観だけで言ってしまったんじゃないかな。」
  • 自分が行ったマイクロアグレッションを相手や周囲の人が指摘した場合
    多くの人は差別を指摘することに抵抗を感じます。誰かに指摘された場合には、その人があなたのことを信頼してくれているからこその言動です。
    「全く気付いていなかった。指摘してくれてありがとう。どうしてそう言ったのか、気がつかなかったのか、今夜じっくり振り返ってみる。自分でももっと気を付けるけど、もしもまた何か気がついたら知らせてもらえる?」
  • 自分が行ったマイクロアグレッションに、後で気が付いた時
    遅すぎるということは、まったくありません。
    「先週、〇〇と言ってしまって、申し訳ありませんでした。後になって~と~に気がついて、随分反省しました。お気を悪くされたのではないでしょうか。」
  • 同僚が他人に行っていた差別やマイクロアグレッションをわざと見逃していた時
    「今の関係を保ちたくて言えなかったんだけど、話してもいい?◯◯さんに対しての言動が少し気になっていたんだけど、何か理由があるの?」

差別やマイクロアグレッションの被害者や加害者への対応

お友達や家族が被害にあったという話を聞いた時には、次のことに注意をしながら支援をお願いします。

  1. 自分を信頼して、話しづらいことを打ち明けてくれたことについての言葉での認識(例えば、「話してくれてありがとう」)
  2. 誰もが加害者・被害者になり得ることと、自分は「支援者」であることを伝え、当事者に寄り添う気持ちで接する。
  3. 否定したり、沈黙したり、軽く流してしまったりせず、相手の立場になってしっかりと話を聴き、その出来事や考えや気持ちなどへの理解を深める。
  4. 差別の被害者が「自分が悪かった」とか「気にしすぎかな」「勘違いかも」などの発言をした場合には、どのような状態であれ、差別やマイクロアグレッションは受けた人やその人の家族など、周囲の人までをも傷つけるものなので、これ以上の繰り返しや広がりがないように、「一緒に」自己認識を高めながら対処していくよう支援する。

子どもとの話し合い

社会正義(ソーシャル・ジャスティス)は、私たちの身近なところから始まります。周囲の人や社会的に弱い立場にある人を支援するのはとても素晴らしいことですが、まずは自分にはどのような差別意識が潜在しているのか、また、どのように、無意識に行っているかもしれないマイクロアグレッションに気がつくようになるのかを常に考えながら、周りの人と一緒に理解や意識を高めることが必須です。

差別についての体験や考え方は、親世代と就学中の子世代との間でも違いがあります。

親世代は「日本人」や「女性」といったアイデンティを個別に考えがちです。

一方、地域によって異なりますが、現代の子どもたちの特徴の一つとして、人種や性別などをグループ化したり差別したりするのではなく、人を一個人としてオープンに受け入れられるということがあります。また、個人のアイデンティティが複数組み合わさることによって起こる、差別や不利益を理解するための枠組み『インターセクショナリティ(intersectionality)』としてとらえることができるのも、現代の子どもたちに見られる特徴の一つです。

「お母さんはこんな人種差別を受けたんだよ」など、経験談を話すことはとても危険です。子どもは同じ(または似たような)人種の自分も同じような怖い目にあうのではないかと意識するようになってしまいます。

それよりも、差別についての理解や意見、体験、将来心配に思うことなどをじっくり話し合う方が、意識できる部分が増え、気付きやすくなるので効果的です。

例えば、次のような質問が効果的です。「わからない」という答えが返ってきたら、「一緒に考えてみようよ」と誘ってみてください。

  • 学校(や会社など)では差別についてどんなことを話すの?
  • マイクロアグレッションって知ってる?
  • ソーシャル・ジャスティスってどんなことだと思う?
  • どんなことが差別の対象になると思う?
  • どうして人は差別するんだと思う?
  • 今まで差別されたり、マイクロアグレッションを感じたりした?それはどんなことで?
  • 差別されてしまった時にはどう対応したい?
  • 周りで差別されている人はいる?そういう時、あなたはどうしてるの?
  • 差別やマイクロアグレッションをしてしまったことはある?どんな時?その後どうしたの?今ならどうしたい?

このように、差別やマイクロアグレッションをなくしていくためには、私たちひとりひとりが気付くことや自覚できるようにすることが必要です。

周囲に注目しがちな視点を自分に戻して、差別やマイクロアグレッションを見逃さないようにしましょう。

私たち心理カウンセラーは、クライアントさんのことを分析していると誤解されがちです。でも、実際はそうではありません。クライアントさんのお話を伺うときに、どれだけ自分の価値観や固定概念に囚われず、また、自分の無意識的な行動や言動などに気付くことができるかというトレーニングを何年もの間行います。自分のことを知らなければ、クライアントさんのお話を無意識に自分の偏見や固定概念を基に誤って理解してしまい、結果、クライアントさんに悪影響を与えたり傷つけてしまう可能性があるからです。他人理解よりも自己理解に重点が置かれており、そのトレーニングはプロになってからも一生続きます。社会での差別もまた、同じようなことだと理解しています。

佐野圭子 Ph.D, LMHC, NCC, SAS
メンタルヘルス&キャリアカウンセリング
CCC Counseling & Consulting
843 6th Street, Bremerton, WA 98337
電話:(360) 328-1233
【お問い合わせ】info@cccplace.com
【ウェブサイト】cccplace.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。読者個人の具体的な状況に関するご質問は、直接ご相談ください。

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