新型コロナウイルスのパンデミックに関連する規制が緩和されつつある一方、緊迫した世界情勢や物価の急騰などによる不安定な日々が続いています。
一般的に、過去の嫌な出来事にとらわれがちになるとうつ症状を感じやすく、近い将来を含め今後の事を心配しがちになると不安症状を感じやすくなると言われています。
日本人の場合は、それらの症状を身体の不調として自覚されることが多くあります。頭痛や胃腸の不調、睡眠不足、疲労感などはその一例で、それがきっかけでクリニックやカウンセリングセンターを訪れる機会があるかもしれません。
パンデミックの影響
昨年、うつ病と診断された人や、うつ症状を訴える人の割合が、パンデミック前と比べ、日本では約2倍、アメリカでは3倍以上に増えたとの報告があります(参照:OECD)。
ワシントン州では、「不安障害」と「うつ病」、もしくはどちらかの症状を訴えた人は18歳以上で約33%で(参照:KFF)、うつ症状を訴えた12歳から17歳の子どもの数は、大人の約2倍とされています(参照:SAMHSA)。うつ症状があっても調査に参加しなかったり、ケアを受けなかったりした方もいることから、調査結果を鵜呑みにしないよう注意しなければなりません。
じっくりと時間をかけたアセスメントや説明を受けることなく、知らない間に全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)やうつ病(Major Depressive Disorder)と診断された方もいらっしゃるようなので、注意していただきたいと思います。
専門家に納得行くまで相談を
心の健康も、身体の健康同様、診断の方法・結果・今後のカウンセリングの方向性や療法など、納得のいくまで専門家と相談することが重要です。
また、セカンドオピニオンを求める方もいますが、他の医療検査と異なり、心の健康は科学的な判断が困難です。
そのため、ご本人と専門家の見解によって、診断名が異なることがあります。専門家がなぜその診断結果に至ったのかをしっかりと説明できるなら問題ありません。それよりも、たとえばうつ病と診断されたことによって、さらにうつ状態が酷くなる場合や、逆に気分が楽になる場合など、診断名が私たちの心に及ぼす影響は異なります。
また、不安障害やうつ病と診断されると、「一生続くのでは」「良くなるのは一時的なものではないか」と心配し、その心配が原因で心のバランスを崩してしまうことがあるようです。
以前、私のクリニックに、中学生のころにお母さまを亡くされた時にうつ病と診断されたため、いつ再発するか心配しながら暮らしているという方が来られました。お話を伺ってみると、それから20年以上の間、数日落ち込むことはあっても、うつ病ほどの症状はなかったものの、どこまで精神状態が落ちていくのかという恐怖が消えなくなり、今度は不安障害と診断されたとのことでした。
その後、カウンセリングを通して、中学生の頃の症状はうつ病ではなく、哀悼の時期であったことと、家族関係に関しての理解を深めたことで、自己肯定感が高まり、うつ病に対する恐怖や不安な気持ちが軽減されました。
診断名はどのように記録され、利用されるのか
医療保険を利用すると自己負担額が低くなるというメリットがありますが、診療報酬請求が可能な枠内での診断名が必要となります。心の健康に関わる場合はメンタルヘルスに関する診断名が必要です。
ですが、診察費の支払いに関わる自己負担額は知っていても、診断名などの情報がどのように利用されるかを知らない方が多いのではないでしょうか。
診断名は個人の医療記録に残り、場合によっては専門家同士で情報が共有されたり、現在または将来の雇用主からその記録の提出を求められたり、また、将来の生命保険の加入などに影響が出る可能性があります。
専門家の中には、システムを誤解し、医療保険会社からの払い戻しを確実にするためにと、実際は深刻性の低い気分障害(Mood Disorder) や急性ストレス障害 (Acute Stress Disorder) 、もしくは適応障害(Adjustment Disorder)により該当する場合であっても、不安障害やうつ病を診断名としてしまうこともあるようです。
でも、ワシントン州では、医療保険を利用しない場合には、診断名をつけることは義務付けられていません。
自分でもできることを取り入れていこう
不安な気持ちやうつのような症状は、誰もが経験することです。専門家の指示に頼るばかりではなく、専門家と一緒に対応しながら、自分でできることも取り入れていきましょう。
また、不安障害やうつ病は、原因を理解し、現在の状態をしっかりと把握することで軽減することが多くあります。不安な考えや気持ちを切り替えることは簡単ではありません。がんばって何とか気持ちを切り替えようとするとうまくいかず、「やっぱり自分はダメなんだ」と、一層重い気持ちになります。
そこで、まず、今この瞬間に身体が何を感じ取っているかを把握してみましょう。その部分の感覚を切り替えると、次第に考えや気持ちが変化していきます。
例えば、苦手な人から文句を言われて落ち込んだ時には、身体のどの部分が反応しているのか、大体の感覚をつかんでみてください。正確である必要はありません。「肩が重いなあ」と感じたら、ストレッチをしたり、温めたりするなど、まずは肩が軽くなる方法を試してみてください。「その人とまた明日会うと思うと、胃が重い」という時には、ゆっくりさすったり、白湯を飲んだりするなど、胃の痛みをほぐすことを優先させてみてください。
身体の不快感が和らぐことで、心のゆとりができます。そうすると、悩みや心配事を客観視することができるようになり、より良い判断に結びつけられるようになっていきます。
佐野圭子 Ph.D., LMHC, NCC, SAS
メンタルヘルス&キャリアカウンセリング
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