訴訟の国と言われるアメリカでは、法的に問題があれば訴訟をすると思っておられる方は多いと思います。しかし、犯罪行為に対する刑事訴訟ではない、民事訴訟に関しては、訴訟をするかどうか選択する際に考慮するべきことがあります。
最初に考慮しなくてはならないのは、相手の不正行為に対して、どのような結果・損害賠償を得たいかということです。法的手段を通して相手にその不正行為に対する代償を求める際、弁護士を雇い、最終結果を得なくてはならないので、その過程でかかる弁護士と裁判所に支払う費用に対して得られる代償・賠償額の割合を考慮する必要があります。例えば、時間制報酬方式の弁護士が多い中、1万ドルの被害額と賠償請求額に対し、弁護士・裁判所費用料がそれをはるかに上回る5万ドルかかる可能性がある場合、割にあわなくなります(なお、損害賠償額が5千ドル以下の場合は、Pro Se と言って、弁護士をつけて裁判所に提訴することはできません)。
次に、不法行為をした相手に、正義を求めるために訴訟をすることも考えられますが、前述の弁護士費用や裁判所費用を考慮せずに、訴訟を起こす場合もあります。その際、不正行為の内容や度合いによっては、弁護士が時間制報酬方式でなく成功報酬方式で代理人を務めることもあります。例えば、被雇用者が雇用者の違法行為を訴える場合や、交通事故で負傷または後遺症が残った被害者が加害者を訴える場合は、原告の弁護士は成功報酬で業務をすることが多いです。また、仮に時間制報酬方式で弁護士に訴訟を依頼していた場合でも、発生した弁護士費用の支払いを裁判上相手方に対して要求することがあり、相手方の不正な行為の内容・度合いによっては、裁判所がこれを認めることもあります。ただし、裁判所がこのような弁護士費用の支払いを命じることはむしろ稀です。
最後に、不法行為をした相手に訴訟で闘うほどの経済力があるかどうかも、法的手段に訴えて勝訴を得るかどうかの判断に影響します。例えば、仮に裁判で勝訴しても、相手が破産寸前、または財産・資産が少なく、損害賠償を支払う能力がなければ、賠償額の徴収が不可能となることもあります。また、仮に損害賠償の支払い命令を受けても、被告が資産を移動させて支払いを避け、最終的にその損害賠償の支払い命令の実現自体に費用がかかることも少なくありません。ただし、敗訴した側が裁判所からの支払い命令を回避しようとすれば、Contempt(不服従罪)となり、裁判所から処罰を受けます。
いずれにしても、裁判手続きは非常に費用がかかるものです。権利と正義を主張することには犠牲や権利の放棄も伴うこともあると理解したうえで進めるべきでしょう。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
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