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第22回 国際企業間紛争解決の手段について

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私の主な専門分野として国際企業間の契約交渉や新企業の設立を扱っていますが、最近はそれに伴って契約不履行や違反から生じる訴訟問題が多く見られます。今回はそうした国際企業間の問題解決策の手段として訴訟と調停の比較について簡単に説明をします。

まず、国際企業間で法的問題が起こった場合、どの国の法律が適用されるか、どこの国で訴訟を起こすか、またどのような方法で問題解決されるかは、たいがい執行済みの契約書に基づいて決定されます。もし何の契約書もない場合は、被告人の所在する国・州にて訴訟が起こされるだけではなく、被告人の希望する場所と法律で訴訟できないことが多くあります。これはビジネスをする上で大きなリスクと出費を伴いかねませんので、必ず契約書に基づいてビジネスをし、その契約書にはさらに
、1)裁判地、2)適用法律 を規定することが重要です。特に国際事業において厄介な問題は、言語や法体系を十分知らないまま法的問題が起こり、異国の裁判所に出頭して余計な出費と労力を無駄にしてしまうことです。特に中小企業の場合は訴訟の最中はビジネスにも影響を与えかねません。例えば米国法において最も厄介な法的手続きは証拠開示です。この手続きは日本の法律上義務付けられていないため、例えばアメリカに所在する日本企業がアメリカ企業に訴えられた場合、そうした法律体系の違いを理解していないと計算外の出費と労力を要します。

この訴訟による問題解決に対し、調停を通しての問題解決の最大の利点は、1)裁判所への申請を必要としないので比較的即座に問題解決ができる、2)証拠開示の範囲が限られているなど手続きが簡易なため費用も安く済む、3)法廷を通さないので一般大衆に問題が漏れにくいといったことなどが挙げられます。

調停を通して法的問題の解決を希望する場合は、異国の企業と取引をする際、契約書に調停に関する条項を加える必要があります。その条項とそれに関連する条項として重要な内容は、上記の
1)裁判地と 2)適用法律 に加え、3)調停者(仲裁人)の人数、4)使用言語、5〉証拠開示の権利と義務、6)賠償の方法、7〉調停団体です。ちなみに主な調停団体として、ICC(International
Chamber of Commerce)と AAA(American Arbitration Association)が挙げられます。また、裁判地や適用法律を選択する際、問題が起きた場合の証人や証拠収集においてどの国で裁判あるいは調停をするのがお互いビジネスにおいて効率が良いかということも考慮する必要があります。さらに、問題が起きた場合の賠償金額もあらかじめ考慮に入れ、被害が少ないとみなされる場合は調停を通すほうが速やかに安めの費用で問題が解決できるということも、紛争解決法を選択する際の鍵となります。

最後に、訴訟による問題解決の場合、その州においてライセンスを持っている弁護士のみしか法廷に出頭できませんが(法廷出頭弁護士の一人でもその州のライセンスを持っていればいいので、同行の弁護士はその州のライセンスを持っている必要はありません)、調停の場合は調停人がその州・国の弁護士ライセンスを持っている必要はありません。例えば、仮に調停地と法律がアメリカ・米国法であっても日本の弁護士が調停人になることも可能ですし、ニューヨーク州の弁護士がワシントン州で調停を行うこともできるわけです。こうした柔軟性のある調停方式による慣れない場所での調停でも、企業をよく知る弁護士をその弁護士の認可地にこだわらず選択できるので、国際紛争の際に生じやすい混乱や不安を避けることもできます。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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