第6回のコラムで、雇用形態によって雇用者と被雇用者の関係と法的効力が変わることをご説明しましたが、今回は、雇用者と被雇用者の関係にあっても、雇用者にその仕事の内容や予定を管理する権限がまったくない独立契約者(Independent Contractor)について、家主と建設請負業者(以下、契約者)の関係を例としてご説明します。
家主と建設請負業者の関係は、企業内での雇用者と被雇用者の関係とは大きく異なり、家主が建設請負業者に支払いをする時は、福利厚生や労働災害補償、保険、あるいは税金など、通常なら雇用者に義務付けられている支払いは含まれていません。建設請負業者が独立契約者の義務である保険や税金を支払うのが通常です。従って、建設業者が仕事中にケガをしても、家主に非がない限り、家主にはその医療費を支払う必要がないわけです。
しかし、家主は独立契約者の仕事の流れを監督する権限を持っていないため、何か問題が発生した時には対処の方法が複雑になります。従って、契約者の仕事が終わった後に家主が支払いをしなかったり、契約者が頭金をもらった直後仕事をやめてしまったり、契約者の最終請求書が最初の見積もりと大きく違っていたり、契約者が仕事中にけがをしたり、仕事中に家の一部が壊されたりした時に、どのように対処するか知っておくことが大切です。
まず、契約者を雇う前に、下記のことを調べておきましょう。
- 契約者が保証金と保険加入登録しているか。
- ワシントン州で建設業の免許を持っているか(UBI 番号を持っているか)。
- 労働災害補償の支払いをしているか。これは、契約請負人がその下請け業者(sub contractors)を雇って仕事をしていた場合に該当します。州の労働産業庁を通して調べることができます。
さらに、他の人からの推薦があればなお望ましいでしょう。また、Better Business Bureaus を通して過去に顧客からの苦情の申し立てがあったかを調べることもできます。
下記は、仕事開始後に発生するいくつかの典型的問題の対応についての簡単な説明です。
- 途中で契約者あるいは下請け業者がケガをした場合:
契約者が労働災害補償(労災)に入っている場合は家主の責任にはなりませんが、入っていなければ家主が下請け業者の医療費を支払うことになる可能性があります。いずれにしても、契約者が労災に入ることは州法で義務付けられているので、契約者は州に未払い分の労災を支払う義務があります。ただし家主の不注意と落ち度のために契約者がケガをした場合は、家主の不法行為として扱われるので、労災に関係なく家主の責任になります。 - 家主の未払い分についての苦情があった場合:
契約者が仕事を完了した後、家主が支払いをしなかった場合、契約者は家主の家を保証担保として差し押さえることができると法律で決められています。また、契約者が下請け業者に給料を支払わなかった場合も、仮に家主がすでに契約者に支払いを済ませていたとしても、下請け業者は家主に支払い請求をすることができます。従って、家主が二重に下請け業者に支払いをせざるを得ないこともあるわけです。こうした二重支払いに関する苦情や、契約者の仕事が粗雑で落ちが合ったための支払い拒否、労働時間の水増し請求の疑いなどは、すべて弁護士を通して和解するか、あるいは法廷で解決されます。 - 家の一部が壊された場合:
例えば屋根の修理を頼んだ契約者が修理中に庭の木を折ってしまった、天井を修理している最中に天井自体が落ちてきて家具が壊されたなどという時は通常、契約者がその修理代を支払います。しかし、その賠償金の上限額は保証金として契約書に記載されている額になります。家主が「それでは公平な弁償がなされない」と判断した場合は、契約者と契約を交わす際にその賠償額などの詳細を契約書に追加する必要があります。 - 家主が途中で契約者を解雇した場合:
契約者がその時点まで働いた分の支払いを済ませれば、家主として他にするべきことはありません。契約者はその時点から家主の家・土地に入ることを禁じられるため、もし後で忘れ物を取るためでも家に合鍵を使って入った場合は不法侵入になります。 - 契約者の最終請求額が最初の見積もりと大きく異なっていた場合:
安い見積もりを出しておき、仕事に取り掛かったらそれを上回る金額を請求するという問題も少なくありません。残念ながら、契約者が詐欺行為をした場合を除いては、こうした誤解や伝達不良に対する法律の効力はほとんどありません〈ただし、車の修理に関する見積もりについては例外〉。従って、契約者が見積もりに含まれている以上の仕事をする場合、家主としてできる限りその要点と金額を書いたメモを契約者からもらっておくことをお勧めします。そうすることによって、契約者が働いた時間と内容を把握できる上、水増し請求などの疑いや問題を防ぐことができます。
上記の例はほんの一部ですが、雇用者と独立契約者との法的問題と争議が非常に多いのは、企業内での雇用関係と異なり、規則などで関係が結ばれていないことが原因です。しかも雇用者と独立契約者の関係は雇用者の個人的生活に直接反映し、支払う金額も案件によってはかなりの額になるため、契約書を精読し、不明瞭な点ははっきりさせておく必要があります。
シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com
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