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第35回 緊急事態が起きた場合の契約不履行について(Force Majeure)

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今回は、東北関東大震災によって被害を受けた方々や企業の方の「今までの契約・仕事はどうなるか」という質問に関連し、その影響を受けた米国所在企業や個人のために、米国法に基づいた法的効力について説明します。

まず、震災は日本で起きたので、米国所在企業や個人に直接被害はありませんが、この震災による日本企業との業務停止または中止、日本の本社との業務停止や遅滞、また日本帰国のキャンセル等、間接的にさまざまな影響が見られます。

このような状況下で米国法でよく使用される契約法法律用語は “Force Majeure” (不可抗力)です。この不可抗力によって業務不履行を証明するために “Impracticability” (実行不可能性) や “impossibility” (履行不能)などが不履行側の答弁としてあげられます。

多くの米国・英国契約書にはこの “Force Majeure” という条項が含まれており、典型的な条項は下記のとおりです。

“A party is not liable for failure to perform the party’s obligations if such failure is as a result of Acts of God (including fire, flood, earthquake, storm, hurricane or other natural disaster), war, invasion, act of foreign enemies, hostilities (regardless of whether war is declared), civil war, rebellion, revolution, insurrection, military or usurped power or confiscation, terrorist activities, nationalization, government sanction, blockage, embargo, labor dispute, strike, lockout or interruption or failure of electricity or telephone service.”

すなわち、1) 人間の力ではどうにもならなかった天災 (Act of God)、2) ストライキ・テロ等、政府関係の事件やその国の規制変更等が起こった場合は、業務を一時中止することができるということです。従って、仮に不履行側の企業、すなわち被害にあった企業が相手企業への支払いや納品を遅らせても、契約違反や契約解除とは見なされないということです。この条件として、不履行側には業務遂行に対する最大限の努力が求められ、その努力を怠った場合は弁解の余地は与えられません。

例えば、日本企業の米国支社が震災のため取引先への支払いを滞納し、その理由として「日本の本社が震災で影響を受けた」というのは無理がありますが、「震災のため、日本本社からの商品の製造・運搬が不可能・困難だった」という場合はこの “Force Majeure” によって容赦される可能性があります(Impracticability /impossibility)。
具体例としては、米国在住の方が家の改装をする際に日本製の風呂釜をバスルームに取り付ける予定だったのが、風呂釜の製造が震災によって不可能になった場合、履行不能 (Impossibility)として契約解除が可能です。その際、日本の風呂釜製造企業の契約違反としては扱われませんが、運送費や商品代金がすでに日本企業に支払われていた場合は、日本企業にその返済を求めることができます。”Unjust Enrichment” といって、支払った額に対して相手がその見返りとなる価値を与えなかった場合、相手は支払いを受け取る権利を失うということです。その他の例として、日本の自動車部品製造業者が被災地に位置していたため、その部品の製造がしばらく不可能となり、部品の輸出を停止した場合、部品製造業者は契約違反として扱われず、部品販売業者との契約を解約せずに、一時停止という形で、契約そのものを保留にすることも可能です。

なお、契約遂行を求める立場としては、こうした緊急事態が起きたことで契約解除を求めることはできますが、契約書に “Force Majeure” の条項が含まれている場合は、契約不履行側の立場と状況を十分考慮した上で契約解除をしないと、契約遂行を求めた側の契約違反として扱われることもあります。この例としては、旅行代理店が顧客から多くの日本行き航空券のキャンセルや延期の問い合わせがあった場合があげられます。”Force Majeure” に、「天災があった時は契約を一時停止してもよい」という項目があっても、契約解除・違反の条項に「契約が30日以上停止した場合は、契約遂行を求める側が契約を解除する権利がある」という項目があれば、契約の一時中止や契約の延期ではなく、契約自体を解除できることになります。

最後に、今回の東北関東大震災は明らかに “Force Majeure” として扱われ、多くの企業に影響を与えています。被災地の早期の復興と日本経済の回復を心からお祈り申し上げます。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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