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第104回 二重訴訟(double litigation)とは

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二重訴訟とは、二国間、あるいは管轄域が相違する2ヶ所の裁判所において、同じ問題に関する訴訟を起こすことです。

米国では、訴訟を起こす際、事物管轄権と対人管轄権がある州/国の裁判所に訴訟を申請します。(RCW 4.12)

事物管轄権は、一般的に、事件の起こった場所、または事件に関わる証拠が所在している場所によって決定されます。対人管轄権は、一般的に、裁判の対象となる原告と被告の所在地によって決定されます。

一方、日本においては、判例に従い国際裁判管轄権が日本の裁判所に認められる場合には、日本の裁判所に訴訟を提起することができます。

そのため、例えば、事件の起こった場所、または証拠が所在する場所が日本と米国の両方に関係するような場合には、米国と日本のどちらの国の裁判所にも管轄権が発生することがあります。

米国に住む原告が日本に住む被告を相手に米国で訴訟を起こすと同時に、日本に住む被告が日本で訴訟を提起した場合には、二国間で同じ案件に関する訴訟が同時進行することになります。

その際、米国及び日本の裁判所は、法的解釈や判決の矛盾を避けるため、相手側の経過を見ながら自国での裁判を進行し、慎重に判決を下します。

通常、相手国の裁判所の判決を無視し、自国の裁判をし、その命令を相手国に強制することはありません。

もし案件を一本化することで効率の良い訴訟が可能で、原告と被告の両方の権利に不利な影響がないと判断されれば、一方の国の裁判所は相手国の判決に委ね、その判決を自国でも強制できるよう対応します。

弁護士としては、クライアントの権利の確保と自国の管轄権を確保するため、相手側の弁護士に相手国での訴訟取り下げを求め、そのような同意が得られなければ、相手国の裁判所に訴訟却下を申し立てるか、相手国の裁判所の裁判官との会議により、相手国における訴訟の取り下げを勧めることを求めます。もっとも、これらの申し立てが裁判所に認められるかは、ケースバイケースです。

こうして、他国において自己に対して提起された訴訟について判決がなされた場合、一定の要件を満たせば、自国においても効力を生じます(日本の場合は民事訴訟法118条)。したがって、どちらの国で訴えられても、二国間(国際間)で条約や協定の規定準拠が前提とされている限り、日本人/日本企業として、米国で訴えられた場合に米国の所持品や財産を整理して日本に移れば、米国の法的問題や訴訟から逃れられる、ということはありません。特に、米国所在の日本企業が、独立した米国子会社としてではなく、日本企業の支社として企業活動をしている場合は、直接日本本社及び日本本社役員個人が法的責任を問われる可能性があります。

シャッツ法律事務所
弁護士 井上 奈緒子さん
Shatz Law Group, PLLC
www.shatzlaw.com

当コラムを通して提供している情報は、一般的、及び教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。 読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。

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