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第10回 子どもが自分でできるようになるには?その方法と見せ方

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モンテッソーリ教育

これまでのコラムで、子どもには何かに強く興味を持ち、同じことを繰り返す「敏感期」があること、その敏感期に子ども達は急成長すること、敏感期に沿った「整えられた環境」の大切さ、などについてお伝えしてきました。そして、子どもには「自分の身体の主人公になりたい」という共通の願いがあることをお話しました。

自分の身体の主人公になるということは、自分で思うように身体を動かしてできるようになりたい、つまり、自立したいということです。モンテッソーリ教育の大きな目標である「自立」、子どもが自分でできるようになるためにはどうしたら良いのでしょうか。

モンテッソーリ教師になるためのトレーニングでは、「お教室の主人公は、大人ではなく、子ども達です。大人はでしゃばらず、子どもが自分でできるようになるにはどうすれば良いか観察し、環境を整えなさい」と、繰り返し言われます。子どもには "自分を育てる力とエネルギー" があると信じ、見守ることを心がけるのが大切だと学んでいます。

子どもは感覚器官を通じてすべての情報を吸収し、身体に内在化させながら成長していきます。子どもが走れるようになったり、おしゃべりができるようになったりするのは、大人がやってあげるからではありませんね。

子どもに一生懸命になればなるほど、ついつい大人は良かれと思って、先に先にとお手伝いの手を出してしまうことが多いもの。でも、大人は子どもの自分から伸びたがっている芽を先に摘んでしまわないように気を付ける必要があります。

自分で何かをできた時の子ども達は、「一人でできた!」"I did it by myself!" と、本当に幸せそうな顔をします。それは国が異なっても同じで、子ども共通の至福の喜びであると思います。

観察する

モンテッソーリ教育

子どもを観察していると、さまざまな場面があることに気が付くかと思います。「何をしているのかな」「繰り返ししていることは何かな」とよくその場面を見てみます。

子どもが何かできなくて困っている状況に出会うこともあるでしょう。「何に困ってるかな」「どういう時に助けを求めてくるかな」「何ができなくて、ぐずってしまうのかな」と記録を取ってみるのも良いと思います。

子どもが困っている時は、子どもは動き方を知りたがっていると理解し、大人はそこでやり方を見せる(モンテッソーリの現場では「提示」と言います)という立場をとります。

見せる

モンテッソーリ教育

動きを見せる(提示)際には、いくつかのコツがあります。

1. 一つの行為に着目する

子どもが困っていると思われる行為、もしくは教えたい一つの行為だけに集中します。周囲に集中の妨げとなる要因がある場合は、できるだけ片付けます。
例えば、子どもがハサミで紙を切ろうとしたものの、なかなかできないでいるとします。大人が「ハサミの扱い方」を見せる場合、テーブルの上には、ハサミと紙だけを用意します。

2. その動作を細かく分けて、ゆっくり見せる

一つの動作をよく分析して、細かな動きで見た場合にどうなっているか考え、正確に、普段の動きよりも2~3倍ゆっくりはっきり、順を追って見せます。例えば、「ハサミで紙を切る」という動きには、ハサミを持ち上げる → ハサミの穴に親指を入れる → 人差し指を入れる → ハサミを開く → 紙をはさむ → ハサミを閉じる、という動きが連動して起きていると考えることができます。

使用する紙が長すぎると一度では切れないので、一度ハサミを閉じると切れる幅の細い紙を用意します。この動きを子どもがマスターした後に、少しづつ難易度の高いもの(ジグザグや曲線など)を紹介します。

3. 言葉で説明しない

一連の動作をゆっくりと見せる間は、言葉で説明せず、動作だけを見せます。そうすることで、子どもはその動作を見ることに集中できるからです。言葉での説明は、動作を見せた後に行います。

4. 間違いを訂正しない

たとえ子どもが見せた通りにできなくても、手を出して訂正しません。責めたり直されたりすると、気持ちが萎縮してしまうことがあるからです。モンテッソーリは、大人は忍耐強く、訂正するのではなく、提示し続けることが大切と唱えました。

見守る

モンテッソーリ教育

結果をすぐに期待はしないこと、また、子どもに見せたことをすぐに子どもが行動に起こさなくてもそれも良しとすることがポイントです。

子どもが生活の中で、「よしやってみよう!」という気持ちになった時に自分でやってみることが大切なので、強制しません。大人に見せてもらったことをいざやってみよう、という気持ちになるタイミングは、子どもによって異なります。自分で思いついて、考えて、実行して、初めてその動きを子どもは自分の力にします。大人は辛抱強く見せ続けること、また、子どもが自分でやりたくなった時に、そこに道具などがある整った環境を用意してあげることが大切です。

そして、子どもができた成果だけを喜ぶのではなく、その過程を優しく応援してあげる、大きな心と眼差しが大切です。実は子ども達は一連の動きを学びながら、手や身体を動かし、脳を鍛えています。習得したい動きを繰り返すことで、充実感や幸福感を蓄え、自信を築いていきます。そして次への挑戦を快く受け入れられるようになっていきます。

子どもに自立して自分の人生を自分色に描き、切り開いていって欲しい、困難に直面しても自分で考えて乗り越える力を培っていって欲しいというのは、すべての親の共通の願いではないでしょうか。さまざまな能力の基礎を習得する大切な子ども時代に、子どもが自分で自分を育てていく力を信じ、よく観察して、子どもが必要とする際に支援し、見守っていくことができたらと願っています。

掲載:2021年10月

文・写真:斉藤カルコーヴァン智美
慶應義塾大学文学部、シャミナード大学院幼児教育学科卒。ワシントン州ベルビュー市にある日本語と英語のバイリンガル幼稚園、ピカケスクール園長。日本では株式会社オリエンタルランドが経営するチャイルドセンターの立ち上げに携わり、プログラム・マネージャーを務めた。渡米後はモンテッソーリの教員として、ハワイとシアトルで約14年間勤務。2017年夏にベルビュー市でピカケスクールを創立。

Pikake School
www.pikakeschool.com

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