ワシントン州では3月上旬から段階的に社会的距離を維持する対策が導入され、3月23日に全面的な自宅待機命令が出されています。日々の生活はどのように変化しているのでしょうか。
第4回は、4年間通ったベルビュー・カレッジを3月下旬に卒業したばかりで、これから就職活動を始める辻小百合さんにお話を伺いました。
– 自宅待機命令で、生活はどのように変わりましたか?
今年の1月中旬から3月中旬は大学の卒業に必要な実地訓練(カリキュラム・プラクティカル・トレーニング)期間だったので、勤務先のマーケティング会社のオフィスに通勤していました。3月20日にすべて終わって卒業し、数日後に自宅待機命令が出されたので、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の維持)をして、できるだけ外に出かけない、人に会わない状態が続いています。
今は1年半ぐらい前に留学してきた大学生の弟との小さなアパートでの二人暮らしなので、寂しくはないですね。アメリカに来てまだそう時間もたっていなくて、自宅待機で親しい友達もいない、英語もまだよく理解できないし話せないという留学生は、寂しくなって不安も募りますから、すぐに帰国を選んだ人もいると聞きます。
でも、何週間も外に出ないのはきついですね。運動不足にならないよう、人が多い夕方を避けてジョギングをしています。食料品を買いに行くのはできるだけ1週間に1回にして、マスクをつけて行きます。どうしても時間がかかる大型店に行く場合は、使い捨ての手袋もつけています。
通常、留学生はオンラインの講義は受けられませんが、今はすべてオンラインに移行しているので、弟は毎日淡々と講義を受けて課題をやっています。幼いころからサッカーをやり、ワークアウトも好きで食生活にも気をつけている弟に刺激を受けて、私も健康的なスムージーを生活にとりいれるようにしたりしています。
– 卒業後の予定に影響は出ていますか?
卒業するまでの4年間、本当にがむしゃらにやってきて、卒業後は普通にOPT(オプショナル・プラクティカル・トレーニング)を使ってアメリカで1年間働いて、その後は日本かアメリカのどちらかで働こうと考えていました。卒業前にOPTを申請したところ、すぐに許可が下りたので、最大8月上旬までが就職活動期間となっています。
でも、こうして自宅待機して自分でいろいろ考える時間ができると、「自分はこれからどのような分野で人の役に立ちたいのだろうか」と改めて考える時間ができました。日本の大学生のように学生のうちから就職活動をして新卒者が一斉に入社する制度はアメリカにはありませんが、私は日本育ちなので、「卒業したらすぐに OPT を申請して働こう」と、それがある一定の流れかのように考えていました。でも学生の頃からやってみたかったのに課題に追われて実現できなかったこともいくつかありますし、卒業してやっと時間が少しできたので、今はそういうことに時間を割いてもいいのかなと思っています。私の場合、まさにこれからだったので、本当にすごいタイミングでコロナが来たなと。個人的には、まわりからいろいろな情報が入って来ます。「これからきついよ」「日本では今年から再来年は就職難になるよ」と言われます。LinkedIn などを使って探してみると、私が専攻したマーケティング関係ではまだポジションはあることはあるようですが、アメリカでこの状態で外国人を雇うところはあるのかわかりません。
ソーシャル・ディスタンシングが緩和されても、以前のようになるのは年単位じゃないかなと。リモート勤務ができるのなら、ロケーションなど関係なく働ける会社が増えていくかもしれません。私はもともと人に直接会い、現場で仕事をするのが好きなので、新型コロナウイルスによって社会のあり方や働き方が大きく変わっていく中で、自分のキャリアをどのように適応していくか検討中です。
– 改めて考えさせられていることは?
今回の件で、アジア人に対する差別について、改めて考えさせられるようになりました。アパートでエレベーターに乗っていたら、あからさまに口をカバーして私の方を向かないようにされたことはあります。でも、避けられたり、何か言われるだけならまだいいですが、何かされたらどうしようと不安を感じることはあります。
また、健康でいられることの幸せや大切さについて考えさせられています。私は膠原病という免疫疾患を持っているので、それもあって早くからソーシャル・ディスタンシングをして、新型コロナウイルスに感染して重篤化しないように気をつけています。免疫疾患のある私が新型コロナウイルスで感じたことは、お年寄りや自らの健康にリスクがある人にとって、ウイルスは本当に他人事ではなく、健康な若者のように自分はもしかかっても免疫が強いから数週間で治る程度だなんていう風には考えられませんが、そういうことはやはり自分がその立場になって初めて気付かされることでもあります。そういう意味で私は健康でいられることは、若者でも当たり前じゃない、と改めて考えました。
先日、体調が悪くなってリンパ腺が腫れたことがありました。熱も出て、体がとてもだるくて、もしかして感染しているかもと不安になって、UW Medicine のバーチャル・クリニックにつないで、オンラインでお医者さんに相談しました。でも、咳もない、鼻水もない、匂いも味もわかる。その時点で新型コロナウイルスの症状ではないので、もしこれから熱が華氏100度以上(約37.8℃)になったら、かかりつけ医に連絡してと言われました。
結局、すぐに良くなったのですが、そんなこともあって、今は深刻になっている日本がまだのんびりしていた頃、ネットで若者が「年寄りが外に出てるのに、重篤化しないと言われる若者の自分がなんで家にいないといけないんだ」と話しているのを見たとき、自分がウイルスのキャリアかもしれない、これから感染するかもしれないという意識がないことに、いつもは冷静な自分も頭に来てしまいました。
そこで、特に今のような状況では情報に影響を受けやすくなると思うので、デジタルデバイスの使い方を考えなおして、見すぎないようにしています。今度、友だちと一緒にオンラインでワークアウトをしようと話しています。一人でするよりも楽しそうですし、オンラインで人と繋がるのなら、やはり直接話したり一緒に何かすることの方がポジティブになれます。
これからは会うならどうして会うのか、それが必要なことなのか、ということを考える機会が増えていくんだと感じています。経済も停滞し、必要なもの以外、ムダにお金を使わないという傾向にある中、お金と幸せの関係性について改めて考えさせられます。本当の幸福論など世の中にはいろいろな論が出てますが、個人的には貢献心を軸にして行動すると、ピュアな幸せを感じます。己のための幸せも大事ですが、それを逆に回ってみると意外と自分も幸せになれた、みたいな感じです。
実際、これからどうなるのか誰も予想できていませんし、誰にもわからないと思うので、期待しすぎても良くないですし、あまり考えすぎずに、自分ができることをしていくしかないと思っています。そして、自分はこれから社会人としてどうあるべきか、考えていきます。
– 自分が幸せであることはとても大切ですが、貢献心を軸にして行動することで自分も幸せを感じるという流れもありますね。おっしゃるとおり、これからどうなるかわかりませんが、私もこうして物事の本質に目を向ける時間ができて逆に良かったと言えるような展開に持っていけたらと思っています。
掲載:2020年5月 聞き手:オオノタクミ