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「学ぶことに年齢を言い訳にはできない」University of Washington ワシントン大学大学院 近江まさこさん(後編)

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アメリカの女子大生になる

シアトルキャンパスだけで10以上の図書館があります。
Suzzallo Library は重厚で一見の価値あり。

近江まさこさん

プロフィール:近江まさこ(おおみ まさこ)さん
Seattle IT Japanese Professionals メンバー。ワシントン大学(University of Washington) 大学院 iSchool(Science in Information Management) にてデータサイエンス、セキュリティを専攻中。ロータス、マイクロソフトにてエンタープライズ製品テクニカルサポートエンジニア、その後日本ベリサイン、トレンドマイクロにてセキュリティ製品スペシャリスト、マネジャーを経て、夫と渡米。念願の "アメリカの女子大生" に。テクノロジー大好き。シアトルに来てから、走ったり、山や壁に登ったり、毎日が筋肉痛。

※このエッセイの前編はこちら!

授業はみんなでつくるもの

大学院では、読む、読む、読む、読む、話す、話す、話す、読む、読む、読む、書く、書く・・・

もう読む量が多くて、毎回てんてこ舞いです。ネイティブの人はぱっと目を通すだけでわかるものを、私はきっと一時間以上かけて読んでいるのだろうなあ。

最初の授業でびっくりしたのは、みんながとてもしゃべること。日本の教授の講義形式に慣れているので、生徒が自由に発言する姿はまさに衝撃的。

「俺、その専門家だからよく知っているよ」と言って、教授に代わって説明を始めたり。教授も「新しいことを知ることができてよかったわ」と、そんな生徒を戒める様子もありません。大学院では、生徒と教授は対等の関係なのですね。

時には自分がファシリテーターとして、みんなの議論をまとめることもあります。私が今まで経験した教育では、論文を細部まで掘り下げて議論、のような形が多かったのですが(例えば、このデータは正しいのか、とか寄稿者の意図は…など)、ここでは論文の内容はあくまでネタ、読んできた論文はあくまでもスタートポイント。そこからどんな面白い話につなげるか?教授はそのみんなの興味の方向を面白そうに見ていて、アドバイスを加えてさらに話を展開するのを手伝うのです。

最初は「もうちょっとじっくり考えたいのだけれど」と思っていたのですが、そういう人は各自で掘り下げてその後に論文の課題や発表などの形にしていけばいい。ここは、「考えるきっかけお互いに与えあう場所」で「授業はみんなでつくるもの」なのです。

アメリカの女子大生になる

UW IEP のアカデミック・ライティング・クラスで三か月で書いたノート。
宿題の量が半端なかった。こんなに手で文字を書いたことも久しぶりでした。

英語がダメならネタで勝負だ

授業の英語はとてもとても大変です。そもそも前提になるアメリカの政治背景、歴史や法律の基本的な理解がほとんどないので、何を話しているのかさっぱりわからないのです。

なのに、ここでは "自分" を理解してもらうことが何よりも重要なのです。英語もきちんとできないのに自分のことを理解してもらうなんてできるわけがないじゃない!!!と半ば自暴自棄になりながら考えたのが「自分が日本人であることを最大限に活用しよう!」

これまで授業では、何度かプレゼンテーションを行う機会があったのですが、「日本とアメリカの考え方の違い」をテーマにしたところ、これが大うけ。

最初の発表では、情報セキュリティの授業で「日本とアメリカのオンラインバンクの比較」を行ったのですが、日本で当たり前だと思っていたオンラインバンクのログイン手順を実際に見せたら、あまりにも複雑な手順なので、同級生は文字通り頭を抱えていました(よくアメリカ人が行う仕草ですね)。その反応が面白くて、次の授業では、プライバシーをテーマとして取り上げ、ベネッセ個人情報流出事件の謝罪会見のビデオを見せたところ、タダならぬ雰囲気に神妙な顔つきに。

「どちらがいいとか悪いとかでなくて、ビジネスを行う上で、どこの国でもお互いにバックグラウンドを知っておく必要がある」と力説したところ、ボーイングで日本と働くことの多いクラスメートや、グローバル企業で働くクラスメートから、「面白かったよ。いつもなんかいろいろな違いを感じていたけど、具体的な考えが分かった」とうれしいフィードバックをもらいました。

アメリカの女子大生になる

Suzzallo Library 内

英語はまだまだですが、なんとかやっていけているのは、いくつもの授業を通して確立した「日本人」「女性」「テクノロジー好き」という自分のキャラクターがクラスに定着し、お互いにコミュニケーションをしやすくなったことでしょうか。

日本では、常に客観的に分析して整理する能力を問われることが多かったのですが、ここではその分析を元に自分の視点で整理、主張することを求められます。バイアスがかかっていることが当たり前で、その上で自分の立場で何をメッセージとして伝えたいのかを問われるので、自分の確立したキャラクターがあることがとても重要なのです。

学ぶことに年齢を言い訳にはできない

アメリカの女子大生になる

いろいろなところで勉強できます。ここは、古い建物をつかってリノベーションされています。

ここまで6カ月を大学院で過ごしましたが、ただ住んでいるだけでは見えなかったアメリカの社会の仕組みや問題点がさまざまな視点で見ることができるようになり、いつも新しい発見があります。なぜアメリカではこんなにダイレクトメールが多いのか、なぜいまだに銃を所持しているのか、日本人にも理解できないことにも、きちんと理由があることがわかってきました。

留学することや大学院に行くことで、人生が保障されるとか人生がバラ色に変わることは決してありません。でもここは性別、人種、年齢、経歴、職業が本当に多様なので、自分だけでは考えもつかないことや、視点を得ることができるのは、日本ではなかなか経験できないことだと思います。

私より年上の社会人学生もたくさんいて、みんな自分のペースで自分の方法でチャレンジしています。日本にいたら、年齢を言い訳に挑戦しなかったかもしれない。学ぶことは楽しい!この環境で、今の自分にしかできないことを学ぶ、今までの経験を知に変換する、というのが私の今の命題です。

掲載:2016年5月

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