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「ずっとずっと描いていきたい」アーティスト・粥川由美子さん

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絵を描くことになったきっかけ

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幼い頃から独自にさまざまな絵を描いてきました。『大草原の小さな家』 のような田舎で育ったことや、動物のテレビ番組や図鑑、ディズニーのアニメなど、いろいろなものに影響を受けたと思います。サブカルチャーものにも大きな影響を受けましたが、姉の読んでいた少年漫画 『マカロニほうれん荘』 などもその一つです。

でも、大きなインパクトがあったのは、Guns N’ Roses(ガンズ・アンド・ローゼズ)が1987年にリリースしたデビュー・アルバム 『Appetite For Destruction』 のオリジナル・ジャケット。ファンタジーとリアリティが一緒になったような感じで、まだ10代だった私には一目では細かいところまで理解できないものでした。それに、絵のクオリティが高いことにも衝撃を受けて、「こんな上手に絵を描ける人がいるのか。私にはここまで描けない」と思ったのを覚えています。たいていのロックバンドはアルバムのカバーにはそこまでお金をかけず、アイドルのようにポートレートで済ませることも多いので、「この絵がジャケットになるなんて、どういう意味なんだろう」と、いろいろ考えさせられました。

シアトルを選んだ理由

札幌近郊の町で英語を教えていた友人を訪ねて遊びに来たのがそもそものきっかけ。ロックが好きなので、たくさんの ロック・バンドがいて、ライブがたくさん開催されているシアトルに大きなカルチャー・ショックを受けながら、のめりこんでいきました。それからもたびたびシアトルに来ましたが、そのたびに「もっとシアトルにいたい」と思うようになりました。
その後、友人の紹介でシアトルのオルタナティブ・ペーパー 『The Stranger』 誌のアート・ディレクターに作品を見てもらい、さらにその方の紹介で、2001年に Roq La Rue Gallery で初のグループ展示会に参加。当事は日本に住んでいましたし、言葉もわかりませんでしたから、今から考えると、空気も読めず、人とのコミュニケーションもうまく取れない状態。右も左もわからず、「アメリカで作品を展示できる!」ということだけで盛り上がっていました(笑)。コーヒーショップでの展示と、ギャラリーでの展示との違いにも気づいていなかったと思います。

でも、そこで反響があったことから、シアトル以外の場所でも作品を展示する機会に恵まれました。なんて幸運だったんだろうと思います。当事も幸運だと思っていましたが、その幸運の意味を本当に理解したのは、もっと後になってから。今では、ロサンゼルスやサンフランシスコ、そしてニューヨーク、そしてヨーロッパでも作品を展示する機会に恵まれています。あの時、あそこでスタートしていなかったら、こういった展開はありえない。本当にありがたいことです。

シアトルに住み始めてから

昔は日本にいてアメリカを見ながら絵を描いていましたが、今はその逆。アメリカはポップなカルチャーが大きいので、私と合ったのだと思います。言わば、運命の国。その一方で、いったんアメリカに住み始めてしまうと、これまで自分が当然のように受け入れていた日本のさまざまな小さな日常のことを「あれは日本の良いところだったんだ」と認識するようになりました。それまで意識していなかった伝統的なものなど、アメリカになくて日本にあるものもそう。でもシアトルは好きですし、住むならシアトルがいい。私はもともと田舎育ちですから、シアトルのように都会と田舎がほどよく共存しているところがいいですね。ロサンゼルスなどに行くと、シアトルに帰りたくなってしまいます。

2006年にシアトルに引っ越して来てからは、世界の経済破綻などもあり、アート業界も影響を受け、閉店するギャラリーも目立ちます。どこの業界もそうだと思いますが、とても大変な状況なので、ギャラリーが選ぶアーティストも変わってきました。やはり「売れる」アーティストを選ぶようになっていると思います。私自身はありがたいことに忙しくしており、展示会の次にまた展示会が来ますから、出かける暇もなく、週末の天気のいい時にも絵を描いている状態。趣味が仕事みたいな感じでもあるので、オンとオフの調整がいまだにできません(笑)。でも、描いてる時は本当に楽しくてたまらない。死ぬまでに描きたいものすべて描き終えることはできないかもしれませんが、ずっとずっと描いていきたい。

デビュー10周年の展示会

2001年に初めての展示会を開催した Roq La Rue Gallery で、デビュー10周年の展示会を9月9日から開催します。今回の展示会のテーマは「願い」。今年3月に発生した東日本大震災では、みんな傷ついたと思います。アーティストの人たちも、あの震災には影響を受けたはず。何かしてあげたい。でも、私は、絵で何かできたらというよりも、自分の中にあるその気持ちを絵にしていきたいと思いました。メインの作品は、『Coming Home:里帰り』 というものです。お盆にいろいろな人の魂が帰ってくるという、ずっとあたためていた絵なのですが、これを機会に作品として仕上げることになりました。今後しばらくはこの「願い」がテーマになると思います。

今回の展示会では、その 『Coming Home:里帰り』 を含めた新作10点に、過去の作品も何点か展示します。10年前に初めて作品を展示したところで、10年後の今年また展示会を開くというのは、とても感慨深いです。今は支えてくれるギャラリーの方々もいて、本当に幸運だと思います。

粥川 由美子(かゆかわ ゆみこ)
北海道札幌出身。幼い頃から独自に絵を描いてはいたが、たまたまシアトルの友人に頼まれて描いた漫画風の作品を見た 『The Stranger』 誌のアート・ディレクターの紹介により、2001年に Roq La Rue Gallery で初のグループ展に参加。それがきっかけとなり、米国西海岸各地で個展を開催するようになった。2006年にシアトル に拠点を移し、作品集も出版。米国を中心に、ヨーロッパなどでも個展やグループ展を積極的に開催している。
【公式サイト】 sweetyumiko.com個人ブログ

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