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「音楽に携わる環境にいられることに感謝」打楽器奏者・武川美保さん

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もくじ

中学入学時に打楽器に開眼

3歳の頃にピアノを始めましたが、私立中学校を受験して不合格となり、「自分はピアノには向いていない」と感じました。でも、公立中学校の入学式で吹奏楽部の演奏があり、女子中学生がドラムを叩いていたことにビックリ。それまでドラムと言えば男性の楽器だと思っていたので、見事にそのイメージを崩してもらいました。

それから打楽器に夢中になり、太鼓からティンパニーまで打楽器一式を体験することに。アメリカでは特定の楽器を演奏するスペシャリストが求められますが、日本ではさまざまな楽器を演奏できる幅広さが求められるためです。これは良い経験になりました。インドのタブラもやりましたし、西アフリカのドラムにも夢中になって、2年ほどはダンスとドラムに明け暮れました。

渡米のきっかけ

アフリカやインドに行くのは両親に反対されたため、自分で英語を勉強し、アメリカのいろいろな大学の民族音楽科を見学しました。それまで「民族音楽科」は民俗音楽を追求する場所だと思いこんでいたのですが、読解やペーパーの執筆もこなさなくてはなりません。「これは大変だ」と困惑し始めた時、ワシントン大学でジャズを教えるトム・コリエ教授と出会い、演奏学科の存在を教えられました。それが私の求めていたものとぴったりだったので、入学申請して、オーディションを受け合格しました。本当に幸運だったと思います。コ

リエ教授はジャクソン・ファイブやビーチ・ボーイズなど多数の有名ミュージシャンとのツアー経験が豊富な方。そんな教授との出会いを大切にしていきたいと思い、2004年には一緒に日本でツアーをしました。アーティストの生演奏からは、アーティストとしての人間を感じるというか、学ぶことはたくさんあります。

アメリカの特色

ワシントン大学打楽器演奏学科で修士号を取得し、博士号候補になってから、さまざまな場所で演奏活動を行っています。一般向けには、Cinco de Mayo などのラテン系のフェスティバルや、Big Magnet などの子供向けのフェスティバル、そしてアート・ギャラリーなどで演奏する機会もありますが、最近ではプライベート・イベントで演奏することが多いです。ラテン系の人の結婚式や企業のパーティー、15歳になった子供の成人式(メキシコ)、太陰暦がベースとなっているインカ・コミュニティの祭典など、実にさまざまな文化に接しています。ラテン系の方々からすると、「なぜ日本人の私が、自分たちの楽器をやっているのか」と不思議に思うでしょうね(笑)。

また、キング郡とワシントン州の補助金を得て、教育プログラムとコンサート・プログラムを合体させたプログラムも提供していますが、そのおかげで乳児から大学生まで幅広い年齢層に私たちの生演奏を聴いてもらうことができます。低所得者層の学校では生演奏を見たことがない子供たちが多いので、「生の音楽を聴かせたい」という先生たちのコンセプトに心から感謝しています。それと同時に、パシフィック・ルテラン大学でも講師をし、打楽器のプライベート・レッスンとアンサンブルのディレクターもしています。

いろいろな国から来た人たちで成り立っているアメリカでは、「その国の音楽はその国の伝統楽器でやるのが筋」とされている面があります。でも、私はそういったジャンルにこだわらず、いろいろな国の楽曲を自分の楽器で演奏するというチャレンジに取り組んでいます。「この音楽はこうあるべき」という人からはいろいろなことを言われますが、何か一つのことを極めている方からはとても良いコメントをいただくので、励みになります。シアトルにはこれから自分のテイストを取り入れながら新しい道を切り開いていこうとする人が多いですし、また、それを受け入れようとする人も多い。だから私はシアトルの人が好きなんですね。

『Miho & Diego Duo』 の誕生

コロンビア出身のディエゴとデュオを組むことに決めたのは2006年。当時、コロンビアでは社会的メッセージをこめた楽曲を演奏するアーティストが弾圧されていたのですが、ディエゴはそれでアメリカに政治亡命してきたアーティストの一人でした。彼は南米アンデス地方の伝統楽器であるケーナやサンポーニャなどの笛の名手。シアトル地域でラテン系音楽をやっているアーティストの間では、「すごいアーティストが来た」と話題になり、いろいろなところで一緒に仕事をしたことをきっかけに、デュオを組むことになりました。

キャリアを積むと忙しさに振り回され、経験でなんとか演奏を切り抜けられてしまうことがあり、リハーサルや準備をきちんとしなくなるアーティストが多いのですが、幸いなことに私たちはそういう傾向はないので、とてもやりやすいです。ディエゴはコロンビアにいた時から日本人コミュニティと交流があり、彼の吹く笛がその日本人コミュニティにとても喜ばれていたと同時に、彼も日本の音楽が好きだった。そんなわけで、デュオとして日本の音楽も演奏しています。

音楽を通しての日本との交流活動

今月にはワシントン大学の大学生60人が構成する吹奏楽部(ブラスバンド) 『ウィンド・アンサンブル』 と日本に行き、約10日間にわたり神戸・大阪・出雲の学生とジョイント・コンサートを行います。今回が3回目となりますが、そもそもワシントン大学大学院在学中に師事していたワシントン大学の教授と、関西吹奏楽連盟の山本富男先生のアイデアで生まれたものです。

初めての日本行きで気づいたのですが、アメリカ人の大学生たちは日本に行く前は顔つきがきつく、いつも “I want” “I think” “I believe” “I need” と自分を主張していたのが、日本に1週間も滞在すると顔つきが柔らかくなり、リラックスしてきます。そして、自分中心の主張をやめ、”Is it OK to…?”(~してもいいですか?)と聞くようになってきます。アメリカでは自分を主張しないと負けてしまうので強くあらねばなりませんが、日本ではその必要がないとわかるんですね。そして、「日本人は集合時間の15分前に到着するらしいよ」と、集合時間の15分前にきっちりと並んで待っていたことも。私の方が「何かあったの?」と、驚いてしまいました。おそらく周りの人たちがどのようにコミュニケーションをしているのか見て学んでいくのでしょう。彼らの中に起きるそういう変化を見たくてやっているようなものです。

また、日本からのワシントン州訪問プログラムでは、今年6月に熊本県玉名市の玉名女子高等学校の吹奏楽部とワシントン州グラハム市のグラハム・カポウシン高校との交流プログラムを実施します。大正14年に設立された玉名女子高等学校の吹奏楽部は数々の賞を受賞している実力派で、同校を訪れるのは2008年に続き今年で2回目。1回目に訪れた高校生たちはわずか2日間のホームステイでもホストファミリーと深く通じあい、最初はハグをするにも体をこわばらせていたのが、最後にはホストマザーと抱き合って、涙の別れをしていました。

10月には富山県氷見市のマーチングバンド 『ムジカグラート氷見』 がワシントン大学のハスキー・マーチング・バンドとコンサートを行います。また、ムジカグラートがモデルバンドとなり、ワシントン大学の音楽教育関係者が「知らないグループをどのように指揮するか」という練習もします。どちらの交流プログラムも準備が大変なので毎年は実施できませんが、本当にたくさんのことを学んでいます。

今後の抱負

音楽に携わる環境にいられることに感謝しています。すばらしい人々に出会うことができますし、言葉がなくても、パッションがある人は音楽を聴けばわかります。生の音楽でしか出せないものというのがあるんですね。さまざまな場所で演奏させていただきますが、驚きなどの生の感覚はとても密なもので、心に来ます。いい物をいいと素直に言える。その素直な感情が大切ですね。

これからも音楽をローカル・レベルで展開していきたい。言葉のない分野ですが、音楽は何かを伝える、一つのツール。いいなと思えることを育み、追求していくことが、平和につながるように思います。

【関連サイト】
ワシントン大学音楽部
パシフィック・ルテラン大学音楽科
KUOW インタビュー
トム・コリエ
玉名女子高等学校
ムジカグラート氷見
ムジカグラート氷見
シアトル訪問

UW Wind Ensemble 日本訪問 (HTML)(PDF)
Tacoma Weekly (2010年)

武川 美保(たけかわ みほ)
中学生で打楽器に目覚め、NHK 交響楽団の打楽器奏者に師事。国立音楽大学を卒業し、ワシントン大学大学院音楽部打楽器演奏学科で修士号を取得・博士号候補。2006年にコロンビア出身のディエゴ・コイさんとデュオを結成し、翌年にアルバム 『Quenarimba』(ケナリンバ)をリリース。現在はさまざまなフェスティバルやプライベート・イベントで演奏すると同時に、教育プログラムを実施して各地の学校で演奏、パシフィック・ルテラン大学でアンサンブルのディレクターや打楽器一般のレッスンも担当。日本とワシントン州の音楽を通じた交流プログラムにも尽力している。キング郡4Culture 3年連続アーティスト・グラント賞受賞。アーティスト・トラストのセントラム・アーティスト・レジデンシーのグラントを授与される。シアトル市が市役所で開催する音楽プログラム 『Live Concerts at City Hall』 のプロモーション・アーティストに選ばれる。

【公式サイト】 Miho & Diego Duo

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