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松岡健一さん(ワシントン大学雪氷学助教授)

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もくじ

氷河研究との出会い

私は、雪氷学のなかでも自然界にある雪や氷を調べることを専門としています。小学校の時は新聞記者になりたかったのですが、いつごろから地球科学や物理に興味を持ったのかわかりません。でも大学は理科系を受験しましたので、もうその頃には新聞記者になろうとは思っていなかったようです。実家からとにかく離れたところであれば良いと(笑)。そうすると北海道か沖縄で、山があるということで北海道になったのではないかと思います。

北海道の雪、ネパールの氷河

北海道大学に入学すると、山スキー部に入り、年間100日ぐらいは山に登っていました。出身の滋賀県では年に数回雪が降ることはあっても、水分の多い雪ばかりでしたので、北海道で初めてパウダー・スノーを見て、「きれいだな」と思いました。そして在学中にスキー登山をするために行ったネパールで初めて氷河を見たのです。「教室にすわっているよりも楽しい」と思いましたね。

北海道大学は1936年に雪の結晶を初めて人工的に作られた中谷宇吉郎先生の伝統やその地域性もあり、たくさんの雪氷研究者がいらっしゃるということがわかりました。さらに、北海道大学低温科学研究所の氷河学のグループがパタゴニアに氷河の調査に行くので現場アシスタントを探していることを知ることができたのです。それこそ「なんでもします!」という状況で、パタゴニアに連れて行っていただきました。自分なりにいろいろと勉強はしていきましたが、氷河は現在は日本に存在しませんし、ネパールで見た時は遊んでいただけで、本の知識だけでした。初めて現場でやった仕事の一つが氷が移動する速度の計測。当時は GPS がしっかりしていなかったので、鏡を組み合わせて光の反射を利用して、 1時間に約1センチずつ氷が動いているのを計測したのです。確かに、教科書には「氷は動いている」と書いてありますが、実感したのはそれが初めて。「あ、おもしろい!」と思いました。

氷の研究と言ってもさまざまです。氷は零度で融ける、融点にとても近い物質。まるで溶鉱炉の中にある鉄のような状態で自然界に存在していますから、 ミクロな結晶レベルの物理学の素材としても大変興味深い存在です。一方で、マクロに地球規模で氷の果たす役割を調べる人たちもいます。私の場合は、主に氷がどう動いているのかということ、それが気候や環境という地球全体のシステムを考えた時にどういう役割を果たしているのかということを研究しています。

南極地域観測隊への参加

その後、北海道大学の大学院に入って研究を始めました。当時の日本の南極観測は、ドームふじ基地での氷掘削の目処がつき、新規プロジェクトが模索されていた段階でしたので、研究を始めたばかりの私にとっては絶好のタイミングでした。運良く研究案が採択され、1998年から2000年の第40次越冬観測隊に参加しました。日本の越冬観測は日本を出てから戻ってくるまでに500日かかります。この時は40人で一冬をオンブル島にある昭和基地(1957年建設)で過ごしました。昭和基地の寝室は ベッドと机を置いたらいっぱいになる小さな個室ですが、札幌の私の下宿より暖かかったのをよく覚えています。約半数はシェフや大工さんに電気工事師といった生活に必要な仕事をする方です。その分野の専門家は一人しかいないという状況で基地を支えるわけですから、皆さんベテランでした。

その時の私の仕事はレーダーを使って氷の中を電波で見るというもの。 電波は、氷のなかを伝わっていきますから、目で見ることのできない南極氷床(ひょうしょう)の内部を可視化するには最適な道具です。まず、氷の下にある岩盤との境界ははっきりと捉えられますから、それを使って氷の厚さを測れます。次に、年々積もった雪が年輪や地層のように層構造をなしている様子も分かります。実際は元々平らに近かった層構造が氷の流れによって変形している様子を捉える訳です。当時は、レーダは既にそういう層構造や氷の厚さを測る道具としてはほぼ確立していたのですが、我々が目指したことは、もっと高度な情報を取得すること。そこで、電波の性質を少しずつ変えて観測をしました。例えば、手は目で見ると(可視光で見ると)普通の手に見えますが、 X 線で見ると骨が見えますよね。目も X 線も同じ電磁波を使っているのに、なぜ違うのか。それは周波数が違うからですね。ラジオやテレビのチャンネルのように周波数が異なることで、聴けるもの見えるものが違ってくるわけです。

氷の中のことを知るための一番直接的で正確な方法は、穴を掘ることです。しかし、南極大陸は広大ですから、どこを掘るかが非常に重要です。それに、氷を掘るとなると莫大な お金と時間それに労力もかかりますから、たくさんの地点で掘ることはできません。電波を使うことで掘る前に分かることが多くなれば、目的に応じてより適切な場所で掘ることが可能になります。

シアトルに来たきっかけ

2001年の9月にニューヨーク同時テロが起きた時、私はカナダのカルガリーからずっと北にあるアスバスカ氷河で氷を調査するレーダ装置のテストをしていました。そして、帰り道にシアトルに寄って現在所属しているグループの人たちと出会ったのが最初のきっかけです。2002年にフェローシップを取ってこのワシントン大学に博士研究員として来ました。シアトルの町に来たのはその時が初めて。当初は2年ほどいたら日本に帰る予定でしたが、シアトルが気に入ってしまい、ワシントン大学での現職の公募が出たので応募し、採用されました。授業は受け持たず、常に研究を行い、調査に出かけますが、学生とも仕事をしますし、各地で講演も行ないます。

現在の研究

今やっている研究は、大きく分けて3つです。一つは南極氷床を舞台とした4つのプロジェクト。もう一つは、アイスランドでの研究。これらはいずれも現場に出かけていって調べる、もしくは現場で共同研究者が得たデータを解析するといった、それぞれの地域の変動史やその場所特有の物理現象を調べる研究です。そして最後は、 新しい観測手法を開発するための基礎研究です。これは、現場に出かけることなく、理論と室内実験だけを使っています。

一番力点を置いている南極での仕事についてもう少し詳しくお話しします。シアトルからまっすぐ南に下がった付近の西南極、オーストラリアをまっすぐ下がった付近の東南極内陸部、それにアフリカの南にあるドローニングモウドランドと呼ばれる3つの地域で仕事をしています。

まず西南極のプロジェクトは、氷床の中心部で厚さ3,500メートルの氷を掘削する大型プロジェクトと密接に関係しています。南極やグリーンランドでは年々降り積もった雪がどんどん押しつぶされて氷になりますから、雪の隙間にあった空気が氷の中に取り込まれます。このプロジェクトは、掘り出した氷コアを昔の大気のタイムカプセルとして使い、過去10万年の 酸素や二酸化炭素、メタンなどの割合(大気組成)と気候変動を調べます。二酸化炭素が多く大気に含まれた時代には気温が高かったということは正しいのですが、その変動メカニズムの詳細や気候システムそのものの特性というものは、まだまだ分かっていません。今シーズンは無事に1,500メートルまでの掘削を終えました。

私のプロジェクトは、この氷コア掘削地点周辺での氷床変動史をレーダを使って読み解くのが目的です。西南極氷床は約2万年前から面積が減少しているというのは分かっているのですが、厚さがどう変わってきたかはまだよく分かっていません。たとえばカスケード山脈をご覧いただきますと、とても尖がった山がありますね。あれは氷河が削ったもので、「あの山々は氷河が覆っていた」ということは見ただけでわかりますし、それがいつだったのかは、そこにある石の化学組成を分析するとわかります。ところが、南極大陸の内陸は何千メートルもの厚い氷がありますから、カスケード山脈のように岩を使うという方法は、ほとんどの場所では使えません。そうすると氷自身にその変動を見るしかありません。

西南極は標高が低いですから気温も暖かいのですが、東南極内陸部は年平均気温が-30度を下回るようなとても寒い世界です。でも、 熱を伝えにくい氷は例えていうと毛布のような存在ですから、氷床の底、すなわち氷と岩盤との境界が解けていることがあります。岩盤が窪んでいると、そこには水が溜まり、氷下湖(ひょうかこ)と呼ばれる湖が形成されます。そのような湖は決して特異な存在ではなく、南極でも既に145個もの湖が発見されています。湖と言いましたが、湖の他にも池や沼地といった中間的なものも存在するはずです。東南極でのプロジェクトは、既に知られている湖の中で最も大きいボストーク湖の特徴をレーダで明らかにするもの。この湖は縦横が250km x 50km という巨大なものですから、氷は完全に浮いている典型的な湖と考えられていたのですが、実は沼のような特徴を持った場所もあることが分かってきました。このような湖の特徴を捉えることにより、湖のなかの水の循環から物質循環、さらには生物の生息環境まで迫ることが可能になります。

さて、西南極の仕事も東南極中央部の仕事も、海から何千キロも離れたところの話でしたが、もう一つのプロジェクトは氷が海に流れ出す部分の話です。南極からの氷のほとんどは解けることなく海に流れ出します。そのような、海に浮いた舌のような平らな部分を棚氷と呼んでいます。棚氷は南極氷床の周りの大きな湾を覆っています。棚氷は長くなると海の潮の満ち引きや海の荒れによって上下にねじられ、最後には先端が折れて氷山になります。最近の調査では、氷山として出て行く以外に、 暖かい海水と接触する棚氷の下部で氷が大量に融けているということが分かってきました。融け水を含んだ海水は冷たいですから、別のところでは棚氷の下に凍りつき、融解と再凍結が別のところで生じます。さらには、このような海と氷の相互作用が氷床全体に影響を及ぼしているのではないかということが懸念されるようになりました。

コンピュータ技術の発達により、地球上で生じているさまざまな自然現象を計算によって再現することが可能になってきました。棚氷と海洋との相互作用やそれが氷床全体に及ぼす影響なども勿論計算できるわけです。しかし、計算するには、そのための式を与えなければいけません。これは、実際に起こっている自然の理を理解して初めてできることです。自然の理を理解する方法はさまざまですが、私は自然界にある証拠を手に入れることによって、いわば実証主義の立場で自然の理解に取り組んでいます。よく「そんなことが何の役に立つのか?」と聞かれますが、身近な医療に例えるならば、一個一個の骨に名前をつけた解剖学といった、一見何の役にもたちそうにない基礎医学の積み重ねがあって初めて、実際に病気を治したり予防する臨床医学、そして社会施策も含めた医療システムの構築が可能になるのだと思います。

現場から証拠を手に入れるとために、より新しい測定技術を開発することも大事です。レーダは 氷の厚さや層構造を測る道具としては既に完成していると言っていいでしょう。私の最近の研究によって、今まで掘らなければ分からなかった氷の温度や硬さに関連する情報もレーダで得られるようになってきましたが、まだ測ることができていないことがあります。それは、表面で融けた氷の水の行方です。氷の表面が融けると、その氷が融けてできた水はいったいどこへ行くのでしょうか。まず1つは氷の表面を流れるでしょう。でもこの水が氷の中に入ってしまって、氷の下にある地面に到達することもあるんですね。そうすると、濡れた路面では車がスリップしやすいのと同じ理由で、氷床もスリップし始めます。すなわち、底面が濡れた氷床の氷は早く流れ、より多くの氷を海に出してしまうのです。このような現象が起こっていることは間違いないのですが、目に見えない氷床の内部や底面で起こっていることの詳細な証拠はまだ何もありません。そもそも、そういう現象をきちんと測る方法がないのです。そうすると、まずは測る方法を確立させなくてはなりません。今取り組んでいる基礎研究の一つは、氷の中の水の道、水道(みずみち)を検知する方法を探っています。

研究者の仕事の流れ

大学の研究者の仕事で最も大切なのは、お金を取ってくるということです。先ほども私は授業を受け持っていないとお話しましたが、そうするとどうなるかと言いますと、大学は私に授業の対価としての給料を支払いません。その代わり、 国立科学財団(ナショナル・サイエンス・ファンデーション:NSF)などの研究助成機関から大学に研究費が交付され、その研究費から私に給料が支払われます。 この研究費は、自動的に与えられるものではなく、他の研究者との競争に勝ち残って初めて得られるものです。研究費がなければ、自分に給与を払うこともできません。

この説明をする時に、私は商店街に例えています。私は八百屋で、商店街に加盟しています。自分で商売をして稼ぎ、商店街から給料をもらうわけではありません。商店街の中にありますから、商店街の他のお店と一緒にセールをやるなどお互いの商売のための協力はしますが、私の八百屋が倒産しても、商店街が助けてくれる訳ではありません。NSF に研究案を出す時は、何をやるのか、なぜこれが大事なのか、何がわかるのか、どうやってやるのか、私にそれができるのかどうかなどを理路整然と説明しなくてはなりません。そうすると、”peer review” と言って、同じ分野の専門家たちのレビュー(評価)を受けることになります。 専門家の知識を持って初めて、ある研究計画の価値や実現可能性などが判断できる訳です。研究資金を出してくれるところはNSFのみでなく、NASA や軍関係などいろいろなところがあります。そしてお金をもらってくると、今度は研究をし、それを論文として執筆し、それもまた専門家にレビューされるわけです。専門家に良い評価を受けたものは専門誌に論文として出版されます。このように、研究資金を得て、研究をして、論文を書いて出版する、それが研究者の基本的な仕事なのです。

“Peer review” というのは、成功可能性が高い計画が採択されやすいという傾向にあるため、あまりに野望的な計画は、実現性に疑問を投げかけられてしまいます。科学というのは本来予想もできなかった発見の積み重ねですから、これでは本末転倒ですよね。でも、一方で、よく準備された可能性の高いプロジェクトに配分するのは、予算の効率的な執行という観点では大事なことでもあります。昨年末に南極で行なったベルギーの調査隊とのプロジェクトは、調査地域の情報が限られているということもあり、政府機関から研究資金をいただくことはできませんでした。まだ大型な予算をつけるには準備不足というわけです。しかし、これでは、鶏と卵ではありませんが、その地域の研究が一切進みません。地球には、一見何事も起こっていない静的な地域(例えば南極地域)と、見るからに動的な地域(例えば梅雨や台風といった現象が多い東南アジア)があります。でも、静的だと考えられている地域には、実は何も調べていなかったから知らなかっただけ、ということもある訳ですね。そういう「匂うところ」を狙う仕事は、始めはとても地味ですし、失敗の可能性も高くなりがちです。そこで、今回はワシントン大学が 得た特許料で運営されている財団にお願いし、研究費を獲得しました。この財団はいわば「種」となるプロジェクトに大学が投資して、大学として将来のリターンを得ようという仕組みです。今回の調査は幸いにして、匂う点がたくさん出てきましたので、これをもとに、大型な予算を狙うべく準備を進めています。

大学の教官と言うと、浮世離れしたとても悠長なイメージで捉えられている方が多いのですが、このように、研究者の内情は非常にシビアです。特に給与を保障された日本の大学の教官と違い、アメリカの場合は大学が払ってくれる給与は、学部長といった管理職を除けば、最大でも80%です。私の場合は全てを自分で稼ぎださなくてはなりません。このような自分の給与を含めた全ての研究基盤が競争でしか得られないという環境は、先ほどの “Peer review” の時と同じで、 野望的な、または時間のかかる研究を避ける心理をもたらすという悪影響もあるでしょう。現実的な大人の対応としては、野望は野望として胸にしまっておいて、でもその大きな研究課題に向けて手堅く準備を進めていくという、長期的な戦略と来年の給与を確保するという短期的な戦略を組み合わせていくことになります。

観測の体制にも見られる国々の違い

観測隊の生活にはお国柄も出ています。

アメリカの場合、マクマード基地は夏場は千人を超える人がいますから、完全に分業体制で、基地にいる時は自分の仕事だけに集中できます。 夜勤で掃除する人がいるんですよ。

でも、日本の観測隊は越冬中は40人しかいませんから、お互いに助け合わないと何事も進みません。自分の研究だけに集中できる時間は限られてしまいます。でも、私の場合は日本の観測隊に参加した10年前は研究を始めたばかりでしたから、その状態がとても良かったのです。大工でも電気工事師でも経験を積んだベテランが参加しているので、いろいろなことを手伝うことで大いに学べます。あの500日間は本当に楽しく、なんでも勉強になりました。でも今は効率よく研究をしたいので、アメリカの観測隊の効率重視が役立ちます。

IPCC の報告書

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、過去や現在の気候の状態、そして今後はどうなるかということを予測し世界各国に報告するための組織です。この報告を元に、国際的な対策が話し合われます。4年に一度、報告書を出しており、最新版は2007年に出版されたものです。このなかで海面上昇を予測した部分があります。 海の温度が上がると海水が膨張しますから、それによって海面が上昇します。

氷河や氷床に蓄えられた氷が融けだせば、それによっても海面が上昇します。単純に融けて流れ出す水は比較的見積もりやすいのですが、先ほど説明させて頂いたその融け水が滑り材となって下流の氷を流しだしてしまうような効果は、重要だとは考えられていますが、まだ未知の部分が多く、海面上昇量という数値を正確に計算することはできません。そこで、この報告書では「分からないから、考慮しない」という立場が採られました。 「我々はろくな仕事をしていないと IPCC からお墨付きを貰った」と冗談のように言っていますが、これはそれほど氷というものはよくわかっていないということの証の1つなんですね。 そういう分からないことを一つ一つ丁寧に調べて、初めて地球全体のことが分かるようになるのです。

今後の抱負

IPCC の次の報告書は2011年に出ることになります。2007年よりはわかっていることが増えているかもしれませんが、2011年までにゴールにたどりつけるとはとても思えません。氷というのは相変わらず難しい対象です。医学で言えば、X 線や MRI など、体の中を見る道具がたくさんありますね。でも我々、氷に関わる人間はそういった道具を実に持っていない。それに、そういう飛び道具で見えたものを確かめることが、氷では容易ではなりません。まずは、我々の手の届かない物を見る技術をより洗練すること。そして、それを使って氷が地球全体の気候に及ぼしている影響をより正確に知ること。それには、氷の粒一粒一粒から、谷を埋める氷河、大陸を覆う氷床、そして地球規模での様々な知識、視点が必要です。 これらを一つずつ押さえて、自然をきっちりと理解していきたいですね。

農業と人間の定住とどっちが先に始まったのかという問いがあります。事実は知りませんが、その問いの答えは「定住」じゃないかと思うんです。毎日移動していたら、その植物が育っていくことを知りえなかったはずです。ある時は緑のこういう草があり、ある時は茶色の大きな草があったとしても、そこにずっといないとその茶色の草は緑の草が成長したものであると認識できないですよね。起こっていることの認識は、時として立ち止まってみることによって、別なときにはできるだけ短期間に長大な距離を移動することによって初めて可能になることがあります。ずっと立ち止まってとか瞬間的に移動というのは、理論研究では簡単なことですが、実際の証拠を集めるという点ではなかなか容易ではありません。しかし、理論が証拠によって導きだされ証明される以上、良質の証拠を集めることは科学では絶対的に必要なことです。現場から緻密に証拠を提出する、今まで思ってもいなかった新しい現象を探し出す、そういう仕事をやっていきたいと思っています。

昔はいかに長期わたって人の行けないところに行くかということにばかり興味がありましたが(笑)、今は家族のことを考え、いかに短期間で成果をあげるかを考え、そしていつか大学生の学部教科書を書き換えるような発見をしたいと思っています。最近は学生の理科離れが指摘されるようになっていますが、問題は優秀な学生とそうでない学生の格差が以前よりも広がっていることではないかと思います。優秀な学生は相変わらず多く、大学に来る人は何かしらの希望を持って来てくれるので、うれしい限りです。でも、シアトルやワシントン州のようにアジア人の人口がそれなりにあるところではアジア人の学生や職員がいて然るべきなのに、現時点でこの学部にはアジア人の学生がいません。ご興味のある方はぜひ私までご連絡ください。

【関連サイト】
ワシントン大学雪氷学
国立科学財団(NSF)
National Snow and Ice Data Center
Intergovernmental Panel on Climate Change

松岡 健一(まつおか けんいち)
1993年に南米パタゴニアへの氷河調査に参加。その後、カムチャツカ、カナダ、アイスランドなどで氷河の調査に従事。1997年に北海道大学から地球環境科学修士号を取得。1998年〜2000年に日本の南極地域観測隊の越冬隊員として南極大陸での調査に従事。2002年、北海道大学から地球環境科学博士号を取得。博士研究員としてワシントン大学へ。2005年に助教授に就任し、現在に至る。

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