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第20回 シアトルのゾーニング法

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

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写真1:ダウンタウン北側、手前からベルタウンの高層マンション、奥にクィーン・アン、バラードの住宅街が見える

シアトルの街並みの美しさは、毎年雑誌の米国内ベスト・シティ番付10番に入るくらいだからかなり定評がある。湖、丘、森、その奥にそびえる山脈の合間に住宅地区、商業地区、ビジネス地区そして工業地区が連なる様は、他のどの街にもないダイナッミクさと奥行感がある。日本の街並みの特徴は、小さな住宅のとなりに忽然とマンションがあり、そのまた向こうには小さなタバコ屋さんがあるといった煩雑さであるのに対し、シアトルの街並の特徴は、通りから一定の距離で一個建住宅が並ぶ住宅地区が、アパートやビルなどに邪魔されず、何十ブロックも続くことだろう。またビジネス地区はダウンタウンに、病院郡はファースト・ヒルに、工場群はダウンタウン南側とピュージット・サウンド(湾)の湾岸に固まっており、初めてこの街を訪れる人にも地理がわかりやすいのではないだろうか。

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写真2:ダウンタウン東側、手前からファースト・ヒルの病院、高層マンション、奥にキャピトル・ヒルの住宅街が見える

これらの街並みはもちろん自然に発生したわけではない。シアトル市内にある一つ一つの土地は全てシアトル市ランド・ユース法(Land Use Code)、いわゆるゾーニング法によって、その土地内に開発できる建物の種類、大きさ、位置、高さ、容積等を細かく規定されている。このゾーニング法の中でシアトル市は大きく3つの地域に分類される。この3つの地域 -住宅地域、商業地域、工業地域 – はさらに細かく分類され、合計31のゾーンから構成されている。住宅地域は、戸建ゾーン、集合住宅ゾーン、住宅商業複合ゾーン、ダウンタウン複合住居ゾーン、インターナショナルディストリクト住居ゾーン等から、商業地域は、近隣商業ゾーン、商業ゾーン、ダウンタウン・オフィス・コア・ゾーン、ダウンタウン店舗ゾーン、ダウンタウン複合商業ゾーン、ダウンタウン・ハーバー・フロント・ゾーン、パイク・プレース・マーケット複合ゾーン、インターナショナル・ディストリクト複合ゾーン等から、工業地域は、一般工業ゾーン、工業干渉ゾーン、工業商業複合ゾーン等から成る。

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写真3:ダウンタウン南側、手前にインターナショナル・ディストリクト、山の上にビーコン・ヒルの住宅街が見える

シアトルでは、これらの細かく区別されたゾーンが街区に適用されることにより、一個建の住宅の横に突然複合住宅やオフィス・ビルが建たないようになっている。また、シアトル市が提供するゾーニング地図を見ると、街全体がある法則に従って設計されていることがよくわかる。基本的に容積率が最も高い経済商業地域であるダウンタウンを中心として、ほぼ環状に容積率が下がっていくことだ。つまり、ダウンタウンの東側に(高層)集合住宅ゾーンのファースト・ヒル、住宅商業複合ゾーンのキャピトル・ヒル、北側にダウンタウン複合住居ゾーンのベルタウン、近隣商業ゾーンのクィーン・アン、南側にインターナショナル・ディストリクト複合ゾーンのいわゆるチャイナタウン、また工業・工業商業複合ゾーンのソードー(SoDo)があり、その外環に戸建ゾーンがあるといった具合だ。また、ゾーニング地図を良く見ると、ノード(Node=結束点)と呼ばれる地域がいくつかある。ノースゲート・モール周辺、NE 125th Street と Lake City Way NE の交差するレイク・シティ、グリーンレイク東側、NW Market Street と15th Avenue NW の交差点と含めたバラード付近だ。これらの地域では高さ制限が近隣に比べて断然高く、高層集合住宅と商業施設が並存する高密度地域となっている。

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写真4:ダウンタウン西側、手間にシアトル港、奥にウェスト・シアトルの住宅街が見える

このシアトル・ゾーニング法は日本の憲法のように不可侵というわけではなく、時代とともに修正が加えられてきた。特に高さと容積率制限は、戸建ゾーンと集合住宅ゾーンを除いて、高度化される傾向にある。最近では、アマゾン・ドットコムの本社キャンパスで注目を浴びているサウス・レイク・ユニオン付近の高さ制限変更が市と市議の間で合意されている。この連載の第4回(2010年2月掲載)でご紹介したベルタウンが良い例だが、当然高さ制限を上げれば不動産価値高騰も伴うので、1980年代の日本のバブル期に行われた国による不動産操作などがこの街でも行われないように、シアトル市民は市議が特殊企業や団体の利益に叶うように変更する法律を常に冷静な視点で監視する必要があるようだ。

掲載:2012年12月

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