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第3回 オルムステッドの遺産 シアトル公園計画の歴史(後編)

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

先月のエッセイでご紹介したオルムステッド事務所が直接または間接的に関わった公園・施設・パークウェイなどは、現在もシアトル市内に数多く残っている。今月はその中でも最も優れていると思われる公園とパークウェイを紹介したい。

1. スワード・パーク(Seward Park)

スワード・パーク

スワード・パーク西側全景

レイク・ワシントンに浮かぶ原生林で覆われているかのように見えるこの島は、1911年、オルムステッド計画案にもとづいて市に32万2千ドルで買い取られ、アンドリュー・ジョンソン大統領の官房長官であったスワード氏にちなんで命名された。

もともと野生動物が多いところだったようで、1940年代にもまだ野生のミンクが見られたそうである。シアトル市営公園のなかでも珍しい、入植前からある原生林が保存されていることで有名だ。今でも野鳥のオアシスと言われ、市の公園局は盛夏の時期に野鳥探索のキャンプ、こうもり探索ツアーなどを催している。(写真1)

公式サイト:www.seattle.gov

2.レイク・ワシントン・ブールバード(Lake Washington Boulevard)

レイク・ワシントン・ブールバード

レイク・ワシントン・ブールバード

スワード・パークを起点にワシントン・パーク植物園まで続くこのブールバードは、気持ち良い街路樹、適度な起伏、レイク・ワシントン、マウント・レーニエの素晴らしい景色が入れ替わり楽しめる、オルムステッド計画案のなかでも、もっとも成功した設計のひとつだろう。

約6マイルの道沿いにはレイク・ワシントンのビーチと遊歩道がある他、ジェネシー、マウント・ベーカー、コールマン、フリンク、レシャイ、マドロナ、そしてワシントン・パークがそれぞれ順番に連なるようになっており、スポーツやピクニックに利用されている。

公式サイト:www.seattle.gov

3.ワシントン・パーク植物園(Washington Park Arboretum)

シアトル日本庭園

シアトル日本庭園

レイク・ワシントン・ブールバードをマディソン・アベニューから北上すると、まるで森林のなかを走り抜けるような錯覚を覚える。アザレア・ウェイ(Azalea Way)やシアトル日本庭園で有名なこの230エーカーに及ぶ植物公園は1934年、ワシントン州立大学とシアトル市が協力して公園化された。

生きた植物の博物館とも言えるこの公園には開園以来4,400種類の植物が植樹され、北半球上で温暖気候樹木の種類が最も多い場所と言われている。レイク・ワシントンに面した公園北側は、野鳥、特にハゲワシや鷹の生息地として知られている。

公式サイト:depts.washington.edu

4.ボランティア・パーク(Volunteer Park)

給水塔

ボランティア・パーク: 1907年完成の給水塔

キャピトル・ヒルの丘の頂上にあるこの公園は、オルムステッド事務所がシアトルに来る前からある古い市営公園のひとつだ。オルムステッドの設計にもとづき、1912年までに温室・遊歩道・池・遊戯施設、そして直径50フィート、高さ95フィート、88万3千ガロンの給水量を誇る給水塔が完成された。他のシアトルの公園にはない、東海岸やイングリッシュ・ガーデンを思わせる典型的都市型公園の設計手法がとられていることもその特徴と言える。(写真4)

公式サイト:www.seattle.gov

5.グリーン・レイク・パーク(Green Lake Park)

グリーン・レイク

グリーン・レイク・パーク

この公園ほど年中を通して市民に利用される公園は他にないだろう。259エーカーの湖の周りにある2.8マイルの遊歩道は一日中散歩を楽しむ人、ジョギングをする人、サイクリングをする人でにぎわっており、湖はクルーなどのボート競技、夏場の水泳などに利用されている。

1911年にオルムステッドの設計にもとづき湖の水面が7フィート下げられ、現在利用されている遊歩道やスポーツ施設などを含めた100エーカーが公園として付け足されている。

公式サイト:www.seattle.gov

2番目の公園総合計画書がシアトル市に提出された1909年、オルムステッドは当時の流行や投機的な発想からまったく離れ、自分の設計が50年後、100年後にどのように市民の生活に影響を及ぼすかを確実に予測していた。また、シアトル市公園局もオリジナルの計画に沿って公園の取得・拡張・メンテナンスを続けてきた。そして100年がたった今、我々は彼の考え方が正しかったことに感謝しなくてはならない。今回このエッセイを通して、街作りはそのくらいのスパンでやらなければ駄目だということを改めて痛感させられた。

掲載:2009年12月 更新:2021年7月



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