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第18回 モノレールの走る街

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

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写真1:アルヴェーグ形式の車両

シアトルに住む人だったら一度は乗ったことがある歴史的遺産、シアトル・モノレール。21世紀博覧会会場(現シアトル・センター)への訪問客の交通手段としてダウンタウン、ウエストレイク・センターと会場を結ぶことを目的として総工費350万ドルをかけて建設され、1962年の3月に開業した。

全行程1.2マイル(約1.9キロメートル)、地上30フィートにあるコンクリートの高架軌道上を三両編成の車両が一時間あたり6往復する。車両の形態はアルヴェーグ式と呼ばれ、車両中心のゴム車輪が軌道桁に対して車重を支え、軌道桁左右のある横車輪が進行方向を安定させる役割を果たすタイプだ(写真1)。

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写真2:Denny Way から5th Avenue に向かって

街並という観点からこのモノレールを考えると、まず思いつくことは、5th Avenue 沿いに建ち並ぶ30フィート近くある支え柱であろう。50本近くの柱が8ブロックにわたり等間隔に並んでいる風景は、同じベルタウン内の他の通りには見られない規則性と均質性を醸し出している(写真2)。

Denny Way と5th Avenue の角にある自動車修理工場の屋根の一部をかすめてモノレールの車両が通り過ぎる様は、映画のシーンを見るているようで、3次元の街並みにもう一つの次元を加えているようだ(写真3)。製造以来50年以上たち歴史的遺産指定を受けている車両は、まるで1960年代からタイムワープをしたかのように、50年たった今でもその新鮮さを失っていない。

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写真3:自動車工場上部を横切る軌道

実は21世紀万国博覧会から35年たった1997年に、このモノレールを拡張しようという計画がシアトル市住民投票の過半数の支持を得て具体化されることになった。いわゆるイニシアチブ41というもので、この計画によると、シアトル市の四隅に向かってダウンタウンから4路線、合計54マイルのコンクリートの高架軌道が作られるはずだった。

この計画はその後7年にわたり進められたが、結局、設計桁高7フィートのコンクリートの軌道が 2nd Avenue の中心30フィートに作られると、窓からの視界の悪化を条件にテナント料減少を懸念したダウンタウンのビルオーナー達が反対し、また既存バス路線との利用客の取り合いに対する懸念もあり、2004年、住民投票によって正式に計画中止に追いやられることになった。

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写真4:シアトルセンター内、EMP を通り抜けるモノレール

モノレール・システムの利点は、まず工事費が他の大量輸送交通システムに比べて安いことだろう。2条式(線路式)に軌道を持つ輸送システムは既存の道路上に新しく敷設する場合、道幅を拡張する必要が生じる。高架線にすることも可能だが、構造の問題上支える柱の大きさがコンクリートの軌道を使用するモノレールより数倍大きくなる。モノレールの場合、軌道桁自身が構造的に車両を支えることができるが、一般の鉄道の場合、鉄のレールと車両を支える構造物が必要になり、コスト高になる。前出の通り、支える柱が小さいので、既存に高速道路の中間分離帯上にモノレールを走らせることも十分に可能だと言える。

モノレール建設反対意見の一つとして、モノレールは常に高架上なので事故処理が難しいということが挙げられているが、2009年に開業したサウンド・トランジットが運行するセントラル・リンク(ライトレイル)は全行程の三分の一以上が高架になっており、緊急時のアクセスは同様に厳しいと思われるが、特に一般からの批判は出ていない。

また、5th Avenue を歩いていて気がつくことは、モノレールの通過音が小さいことかもしれない。車体を支える車輪がゴムタイヤなので、オペレーションの騒音が少ない。軌道を高架にすれば既存交通の動線も重ならず、路面電車と一般自動車が起こすような交通渋滞も避けられる。モノレール形式の大量輸送交通システムは完全とは言えないにしろ、シアトル市とその近郊付近に取って一つの大量輸送交通手段のチョイスとしてもう一度見直されても良いのではないだろうか。(写真4)

掲載:2012年8月

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