MENU

第17回 シアトルのコウハウジング (Cohousing)

  • URLをコピーしました!

筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

17_1

写真1:Duwamish Cohousing 入口付近の配置看板

コウハウジング(英語では Cohousing。以下、コウハウジングとする)という言葉を知っている人はそう多くないのではないだろうか。米国建築業界でこの言葉が聞かれ始めたのは1980年代なので、建築形態としては比較的新しいものだろう。”Cohousing” の "Co" はラテン語で "with" とか "together" を意味し、日本語に翻訳すれば共同住宅とか共同生活住宅開発と呼ばれるだろう。

北欧で1970年に "Collective Housing" という形で発祥したこの形態に、デンマークで啓蒙された2人の米国人の建築家、Charles Durrett 氏とKathryn McCamant 女史が1988年に 『Cohousing: A Contemporary Approach to Housing Ourselves』 という著書の中で紹介したことが、米国での開発のきっかけとなった。

基本的には住宅というより、集合住宅コミュニティと言えるこのコウハウジングだが、現在米国内だけでも124、シアトル周辺でも14のコミュニティが存在する。集合住宅と言うとまず思い浮かぶコンドミニアムやシェアハウスとの決定的な違いは、前者が経済的な理由で共同生活をするのに対し、後者はコミュニティに属することを目的に居住者が集まることであろう。また、開発土地の選択、売買、設計、施工者選定、竣工後の運営等すべて居住者が中心になって行われること、Common House や Common Garden など居住者がお互いに関わることができる公共施設がコミュニティ内に必ずあり、任意で夕食の賄いをシェアし、合同夕食会を頻繁に行う等の特徴がこのコウハウジングにはある。

Duwamish Cohousing

17_3

写真3:Duwamish Cohousing 内 Common House

1994年に完成した 『Duwamish Cohousing』 は、ウェスト・シアトル東側、サウス・シアトル・コミュニティ・カレッジのすぐ西側にあり、総数23棟、2.7エーカーからなる森の中に溶け込んだ静かなコミュニティだ。配置計画は、2棟ずつタウンハウスのような形で1戸の独立した建物として細長い中庭に面して連なって建っている。一棟あたりの室内面積は650から1,800平方フィートとシアトルの平均戸建住宅よりは少し小さめだ。

ユニット一つ一つにはプライベートな庭がない代わりに通路があり、子供たちの遊び場でもある中庭が公園のような広場をすべてのユニットに提供している。建物は屋根の勾配の高い山小屋風クラフツマン様式。住人同士のプライバシーがそれほど気にならないのか、大きな窓から光が十分に室内に入るため、室内は以外に広々と感じられる。

17_2

写真2:Duwamish Cohousing 中庭

入り口付近の駐車場からすぐ見えるところに Common House と呼ばれる共同施設がある。ここは大学キャンパスで言えば学生食堂みたいなところで、夏には南側に面して広く繋がるテラスで毎晩のように共同夕食のひとときが持たれるそうだ。

住人に聞いたところ、月に一定時間数の共同作業をする義務がある他は特に制約はなく、子供たちのベビーシッターのシェアがコミュニティ内であったり、園丁道具を共同で使用できるなど、単なる近所つきあいでは得られない相互援助があるようだ。

Jackson Place Cohousing

17_4

写真4:Jackson Place Cohousing 通り側全景

総敷地面積1.25エーカー、27棟からなるこのコミュニティは、インターナショナル・ディストリクトの東端、シアトル日本語学校のすぐ南側に2001年12月に完成した。Duwamish Cohousing より高密度であること、敷地全体が傾斜地であることから、駐車スペースはすべて建物の地下に入り、個別の建物ではなく、地上2~4階建のクラスタ状の集合住宅が中庭を挟んで7棟連結して配置されている。

前出同様このコミュニティにも共通していることは、Common House を中心とした共同食堂と厨房、子供娯楽スペース、会議室、洗濯施設が住民の活動の中心になっていることだろう。対照的なのは、建物の周辺には十分な緑地を残しながら、居住地域の密度を上げることによって、同じコウハウジングならが近代都市空間的な雰囲気が感じられる。しかし、土地の傾斜を上手に利用してレイアウトされているので、建物と建物の間のスペースはさながらイタリアの中世山岳都市の裏道のようにも見える。

17_5

写真5:Jackson Place Cohousing 中庭一部

コンピュータが発達し、人々がサイバーコミュニティを彷徨い、人との絆は見えない線でつながれていると信じられるようになった時代に、コウハウジングは合理的かつ具体的なアンチテーゼであるように思える。その開発の根底には人間生活の本質に不可欠な発想、「共有」「相互援助」「プライバシー」が存在するだけでなく、核家族化が極端に進んだ米国では忘れられている世代間の知識の伝承ができる最後の砦なのかも知れない。

掲載:2012年6月



  • URLをコピーしました!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いします!

もくじ