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池上泉さん (シアトル自然の会 主宰)

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池上泉さん (シアトル自然の会 主宰)

今月は、シアトル自然の会を主宰し、豆腐などの作り方を各地で教えておられる池上泉さんにお話を伺いました。
※この記事は2006年6月に掲載されたものです。

池上泉(いけのうえ いずみ)

1958年 日本からアラスカのシトカへ

1984年 シアトルへ シアトル自然の会を発足、現在に至る

夫婦で渡米

日本からアラスカ、そしてシアトルへ移られた経緯について教えてください。

新婚早々で夫が突然「アラスカ駐在」を命じられた時は、「とんでもない田舎に行くのだ」と思いましたが、シトカ(Sitka)はアラスカ東南にあり、南東はカナダです。(と、壁に貼られたシトカのポスターを指差し)派手な繁華街などはありませんが、自然にあふれ、島が浮かぶ内海は瀬戸内海のようで、とてもきれいなところでした。東京から駐在で来られた方々の中にはやはり赤や青のネオンが恋しく、「こんなところ耐えられない」と言う方もおられましたが、私は岡山の田舎育ちなものですから、とてもリラックスした気分でしたよ。その後、年子の娘を3人生んで5人家族になりました。

その後、シアトルへ。

しかし、夫が肝硬変になって休職せざるを得なくなったため、26年にわたって住んだシトカを離れ、シアトルに引っ越してきました。夫は寝たきりにこそならなかったものの、肝硬変がガンになり、シアトルで4年にわたる闘病生活を送った後に亡くなりました。

正しい食生活への目覚め

食生活を見直すきっかけになったと。

取材の後、池上さんにいただいた、野菜たっぷりの昼食。中央にあるのは、もちろん手作りのお豆腐。

取材の後、池上さんにいただいた、野菜たっぷりの昼食。中央にあるのは、もちろん手作りのお豆腐。

今から思えば、私は食生活に対していい加減だったと思うのです。また、こんにゃく湿布やビワの葉の温灸などいろいろな自然療法があったのですが、それには目も向けず、西洋医学一辺倒だったことが悔やまれてなりませんよ。夫自身も西洋医学に目が向いていましたからね。でも夫が亡くなってしまうと、つくづく食生活がいかに大切かということに気づいたんです。元気で暮らしてころりと死ぬ、つまり、私がいつも言っている “ぴんぴんころり” で人生の幕を引くためには、今の時点から正しい食生活をする、適度な運動をする、そして穏やかな心で毎日を送るということが大切なのだと。もともと好奇心が強いものですから、それからはいろいろなところに頭を突っ込んで、日本に行くたびにセミナーや講演会に行って勉強し、そこで学んだことを知人に伝えていくようにしました。シアトルで運営されている如月会にも参加し、そこでまずお話をさせていただき、自然療法で知られる東城百合子先生が毎月執筆される小冊子を、東城先生の許可をいただいてコピーし、会報として如月会のメンバー38人(当時)にお送りしました。その頃にはこの東城先生がシアトルで講演をしてくださるとお約束してくださってましたので、それまでになんとか先生のお考えをできるだけたくさんの方に伝えておきたいと考えていたわけです。先生は約束どおり、シアトルで講演してくださいました。その後は読んでくださる方々のご意見も伺って試行錯誤し、いろいろなところに問い合わせ、東城先生の刊行物に加え、自然食ニュース社が発行している月間の冊子などからも情報を抜粋するようになりました。現在は自然の会として運営し、ほぼ月間のニュースレター 『ひろば』 として、会員にお送りしています。自然食ニュース社の冊子で執筆されているのは日本で超一流とされる先生方で、とても勉強になることから、会員のみなさんにもとても人気があります。あちこちで活躍されている先生方なので、さまざまなところでお名前を拝見します。

ずっと続けるということは、とても大変なことですよね。

私はこういった会報を作るのが好きなので、まったく苦ではありません。これまでのトピックで最も評判が良かったのは、髪の染色剤、カップ麺、IH 調理器の危険性です。あれは本当に恐ろしいもので、ぜひ多くのみなさんに知ってもらいたいですよ。若い人はおしゃれだと思って髪を染めておられますが、中年になると髪が薄くなってしまうなどの他にも、体に悪い影響があります。「悪いのは知っているけど、どう悪いのかまでは知らない」という例が多いですね。でも黒い髪の良さが見直されてきていると、日本のテレビで知りました。とても良いことですよ。

池上さんは豆腐の作り方を教えておられることがよく知られていますが、ご自分で作るきっかけとなったのは何ですか。

ご存知のとおり、アメリカでは肥満が大きな問題で、政府関連機関などは何年も前から食事に関する提案や警告を出しています。やはり東洋人はスリムと言われますし、大豆製品をよく食べると言われ、豆腐が食生活に浸透しつつある地域もありますね。私がアラスカに来た46年前は豆腐などありませんでしたし、宇和島屋の前身だった小さな店で豆腐を少しだけ扱っていましたが、それをアラスカまで送れば鮮度が失われてしまいます。そこでアラスカでは日本から来られる上司をおもてなしするのにさまざまな工夫をしなくてはならなかったんですよ。お魚は豊富でしたが、それ以外の食材はとても限られていて、当時で人口3万ほどの小さな町ですから、レストランと言ってもステーキ屋かサンドイッチ屋だけ。そこで会社のクラブハウスで奥さん方が一品ずつ作っておもてなしをするということが何度も何度も繰り返されてきました。一晩はそれで済みますが、滞在が数日にわたれば各家庭にお招きする日もありますので、ある日、「豆腐があればメニューもバラエティが出る、豆腐作りを習おう」と思ったのです。そこで岡山の実家に帰った時に近所にあった手作りの豆腐屋に早朝から行って勉強させていただきました。そのお店は商売ですから、私が今作っているような家庭的なものではありませんが、自動ではなく、すべて手作りだったのです。そこでにがりや泡消しとかいったものについて教えてもらい、そしてアラスカで作ってみましたが、何度も何度も失敗しました。にがりが多すぎたり、泡が立ちすぎたり、固まらなかったり・・・。でも固まらなければ水気を切って煮れば良いですし、硬すぎれば切って揚げればいいわけだし、捨てたことはありません。そのうち社宅の奥様方にも教えるようになって、みんなが作るようになりました。夏なら冷奴、冬は鍋物。お魚が豊富でしたから鍋物には助かりましたよ。

それをシアトルでも続けておられるわけですね。

20年前にシアトルに引っ越して来た時はスター・トーフというおいしい手作り豆腐がありましたが、その方が引退されてしまったため、おいしい豆腐を食べたいがために、また豆腐を作り始めました。何度か作ってみて、「これなら行ける」と確認し、知人に教え始めてね。一度ご馳走すると、「こんなにおいしいなら」と、作り方を学んでくださいます。今の時代は添加物だの残留農薬だの危険がたくさんありますから、なるべく自然に近いものを食べたいというような考えを持っている人は、年齢に関係なく興味を抱いてくださいますよ。でも、これまで200人以上を超える方々に教えてきた中で、今でも日常的に自分で作っているという人は5、6人あるかどうか。私はもう慣れていますから2時間ぐらいでできますが、最初は半日かかりますよ。それでできたものが柔らかかっただの硬かっただのということになれば、あきらめてしまいます。今の忙しい時代に、自分で作ろうという人はなかなかいないでしょう。

豆腐以外に作っておられるものはありますか。

豆腐以外には、納豆菌は日本で手に入れて、納豆を手作りすることもあります。これも何度か講習したことがありますが、温めている時間が1日半かかりますから、仕込むところまでしか見せることはできません。でも作り方・説明だけでうまく作っておられる方もおられるようですね。トライ・シティ(ワシントン州中部の町)からもお電話をいただいて、納豆と豆腐について教えたこともありました。また、味噌やこんにゃくも作ります。

普段から心がけておられる食生活は。

玄米菜食、手間隙を惜しまない、既製品を買わない、ということです。既製品には必ず防腐剤・増量剤などさまざまな物が入っています。普通の大豆なら農薬がついているでしょうし。危険から遠ざかろうとしたら、自分で手をかけることです。夏野菜はエンドウやキュウリ、ブロッコリーなども育てます。自分で育てたものは味がまったく違いますね。

これからの抱負を教えてください。

自然の会で発行している冊子。ページ数は毎回10ページ以上にわたる。

自然の会で発行している冊子。ページ数は毎回10ページ以上にわたる。

前述の東城先生は、「米でさえ残留農薬がある今の時代、すべての危険を排除することは不可能です。ですから、口から入ったものは体外に出していく工夫をしましょう」と言われています。薬や化学薬品、添加物などが肝臓に溜まれば、肝臓が元気を失っていってしまいますでしょう。誰だって病気になりたくないですよね。でも、私たちには「わかっちゃいるけど、やめられない」という世界があるわけ。タバコが悪い、砂糖が悪い、と言われて、その害を百も承知でありながら、好きな人にはやめられない。私の場合は遺伝性糖尿病で、親兄弟も糖尿病です。質のいい物を食べてはいますが、元来、大食いなんです。きっと、食いしん坊の遺伝子もあるんですよ(笑)。ですから、そういうことも含めて、なるべくいい食生活をしましょう、と。どんなにがんばっても150歳まで生きる人はいないわけですが、死ぬ前に、痛み・苦しみ・痴呆・癌などいろいろなありがたくない終末を体験するのではなく、ぴんぴんしていて、ころりと死ぬ、これが1番です。私のように70歳を過ぎると、この思いは切実なんですよ。それでも交通事故の可能性もありますし、私のような癌の家系であれば、今後、癌になるかもしれませんし、誰にも未来のことはわかりません。でも、努力もしないで、体に悪いものを飲み放題・食べ放題した自分のおかげで病気になると、気をつければ良かったと後悔が残るでしょう。そうしたくないから、人事を尽くして天命を待つ。会報を受け取られているみなさんも、油も砂糖もいいものではないことは当然、知っておられます。でも、育ち盛りの子供が欲しがれば与えてしまう。そこでこの会報を読んでいただいて、「ではちょっと控えよう」と思って実行してくださればありがたいです。今後もシアトル自然の会を続け、今の厳しい時代を生き抜くための知恵を、みなさんと共有していきたいと思っています。

シアトル自然の会
カップ麺・IH 調理器・油・砂糖・風邪など、さまざまなトピックに関するニュースレターを毎月発行。豆腐の作り方の講習会や講師を招いての講演会の企画・運営を行っている。
問い合わせ (206) 330-2205

【関連サイト】
アラスカ州シトカ市
自然食ニュース社

豆腐の作り方(約8丁分)

材料
大豆 5カップ ※オーガニックがベスト
ニガリ(Tofu Powder) 大さじ1杯
湯 1カップ
水 7、8カップ
用意する道具
  • 布2枚(A)※サラシ、またはフラワー・サックと呼ばれる布でOK
  • 13×10インチぐらいのプラスチックの箱(B) ※底と下半分に約2インチ間隔で直径1/4インチほどの穴を開けるか、深めのザルでも代用可
  • 容量が16クォート以上の大鍋 ※ステンレス製がベスト
  • 柄の長いしゃもじ ※鍋の底まで届く長さ
  • トング(tong)※熱いおからを絞る時に使用する
  • 重し
  • 重しを乗せる板 ※2のプラスチックの箱より小さいまな板など
作り方
  1. 大豆を洗い、たっぷりの水に浸したまま、一晩置く
  2. 1で大豆から抜けた殻を取り除く
  3. ミキサーに2を入れ、大豆の上2.5インチ(約5センチ)まで水を加え(分量外)、高速でミックスする。水の分量はミキサーが滑らかに回転するくらい。
  4. 3でミックスした大豆を道具3の大鍋に入れ、さらに7、8カップの水を加えて薄め、中火にかける。泡やおからが浮き上がってくるが、しゃもじで時々混ぜ、沸騰するまで煮る。この時、底が必ず焦げるが、焦げを取るように底から混ぜたりしないこと。沸騰するとあっという間に吹きこぼれるので、目を離さないこと。
  5. 大き目の桶か鍋に濡らした布を敷き、4を移し入れる。布の四方を持ってトングなどで絞り、おからと豆乳に分ける。なお、布におからを入れたまま放置すると目詰まりするため、すぐにおからを取り出し、布は水洗いして洗濯機へ。
  6. ニガリを1カップの湯で溶かし、その約8割を5の豆乳に注ぎ、均等になるようにしゃもじで混ぜる。5分ほどしてヨーグルト状に硬化してくるのがベストだが、まだ豆乳状の部分があれば、残りのニガリを加えて混ぜる。
  7. 穴を開けたプラスチックの箱に、もう1枚の濡らした布を敷き、5の豆腐をお玉などですくって移す。豆腐を包み込むように四方の布をたたみ、その上に板と重しを乗せて水分を切る。約15分が目安だが、途中で出来具合を確認すること。豆腐をゆすり、プルプルすれば上出来だ。
  8. 豆腐の上にまな板を敷いてひっくり返し、きれいに洗って水をたっぷり張ったシンクにすべらせて移し、適当な大きさに切ると出来上がり。

掲載:2006年6月

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