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「高齢者や免疫力が低下している人への COVID-19の影響は続く」 バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

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バージニア・メイソン病院 感染症科指導医 千原晋吾さん

世界保健機関(WHO)は今年5月5日、COVID-19の感染拡大を受けて2020年1月から出していた「国際的な公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern for COVID-19)」宣言の終了を発表。米政府も同月、COVID-19に関連する入国規制をすべて解除し、感染対策の状況が大きく変わりました。そこで、シアトルのバージニア・メイソン病院で感染症科指導医として勤務している千原晋吾さんに、米国、ワシントン州の現状と、これからの対策について伺いました。

– 米政府が今年5月にCOVID-19に関連する入国規制をすべて解除し、感染対策の状況が大きく変わりました。普段の生活では、職種によって、または個人の判断によってマスクをしている人をたまに見かける程度です。千原先生は日常レベルでどのように感じておられますか。

私もそのような印象を持っています。バージニア・メイソン病院でも、ホールや休憩室、待合室などを歩く時はマスクの着用は必須ではありません。しかし、患者の診療中は着用が義務付けられています。患者や訪問者はマスクをすることを強く勧められますが、義務ではありません。

ワシントン州保健局(DOH)によると、地域の保健管区、医療施設または医療プロバイダー、学区、および個々の企業は、依然としてマスクを義務付けることを選択することができます。

ワシントン州保健局(DOH)は、公共交通機関、医療機関、そしてCOVID-19による入院率が高い地域など特定の屋内環境ではマスクの着用を推奨しています。また、COVID-19の症状がある人、陽性判定が出た人、COVID-19感染者に接触した人は、周囲の人を感染から守るためにマスクを着用することが求められます。詳細はワシントン州保健局の Masks and Face Coverings でご確認ください。

– COVID-19を引き起こすウイルス SARS-CoV-2は、6月10日現在、米国内で流通しているのはXBB.1.5が約40%と最も優勢であることが、CDC のトラッカーによる推定値でわかっています。しかし、16番目のオミクロン株の亜種(XBB.1.16)も約18%に達し、増加傾向にあります(CDC COVID Data Tracker: Variant Proportions)。この状況について、専門家はどのように見ているのでしょうか。

幸い、現在使用している抗ウイルス薬(ニルマトルビル/リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビル)は、現在流通している変異体に対して有効なままです。

ちなみに、XBB.1.5.は、シアトルのホッケーチームと同じクラーケンと呼ばれています。

– XBB.1.16にはそれ以前の亜種とは、どういった違いがありますか。特有の症状はあるのでしょうか。

XBB.1.16には、感染性、免疫性、重症度への影響に関するエビデンスはありません。小児に多く見られる結膜炎(conjunctivitis)を発症することがあるとの報告はあります。

– COVID-19と症状が非常に似ている Respiratory Syncytial Virus (RSV)について、気を付けておかなくてはならないことを教えてください。

RSV は通常、風邪のような軽い症状を引き起こしますが、特に65歳以上の高齢者、慢性心疾患や肺疾患のある成人、免疫力が低下している成人では肺炎を引き起こすことがあります。FDA は最近、60歳以上の成人における RSV のワクチンを承認しましたので、近い将来利用可能になるはずです。

感染対策としては、手指を清潔に保つこと、顔を手で触らないことなど、COVID と同様です。

– この夏は、COVID-19において、どのような傾向が予想されていますか。

今年の傾向としては、COVIDによる入院や死亡が減少していることがあります。とはいえ、傾向は予測不可能です。突然変異で新しい亜種ができたり、ACが稼働している室内に人が集まったりすれば、患者数は増えるかもしれません。

CDC の公式サイトには入院患者数の全国予測が掲載されており、今後数週間は安定した状態が続くと予測されています。

– 夏は旅行シーズンで、飛行機で旅行する人が増える季節です。飛行機で注意するべき事柄があれば教えてください。

COVIDワクチンの接種状況を最新の状態にしておくこと。飛行機に乗る時に通過するセキュリティチェックなど、屋内の混雑した場所にいる場合は、私ならマスクの着用や人混みから離れた場所を確保することを検討します。また、小さなボトルしか機内持ち込みができませんが、自分の手指用の消毒液も持参します。その他にも、窓際の席を選んで、通路に立つ人との接触を避けたり、空調設備の送風口をつけたほうが感染機会を減らすことができるという専門家もいます。

COVID 検査キットがあれば持参し、旅行中に検査できるようにしておくといいですね。

– アメリカでは、8月から9月にかけて新学年が始まります。子どもの保護者にどのような対策を勧めますか。

子どもの COVID ワクチンの接種状況を最新の状態にしておくこと。咳、発熱、喉の痛み、嘔吐、下痢などの症状がある場合は、外出せず、COVID-19の検査を受ける必要があります。 また、こまめに手洗いをし、咳やくしゃみは手ではなくひじの内側に向かってするなどのエチケットを守ることも大切です。

– その他に気を付けておいた方がいいこと、知っておくべきことがありましたら、教えてください。

連邦政府によるCOVID-19公衆衛生緊急事態宣言は、2023年5月11日に終了しました。そのために、いくつか変更点があります。例えば、医療保険会社は、COVID-19の自宅での検査費用を免除したり、無料で提供したりする必要がなくなりました。

連邦政府は現在も家庭用検査キットを無償で提供しています(在庫がなくなり次第終了)。必要とする人から優先的に提供されます。また、現在のアウトリーチのプログラムを通じて、無保険者やサービスが不十分な地域に提供し続けます。

緊急事態宣言が終わったと言っても、特に高齢の方や免疫力が下がっている方の間では、COVID-19の影響がすべてなくなったわけではありません。これからさらに新しい治療方法やワクチンが出てくることに期待します。

– ありがとうございました。

千原晋吾さん(ちはら・しんご)
バージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医
日本、プエルトリコ、ニュージャージー州で幼少時代を過ごし、山梨医科大学に入学。卒業後、横須賀海軍病院インターン、飯塚病院初期研修、コネチカット大学プライマリ・ケア内科プログラムのレジデント及びチーフ・レジデント、ラッシュ大学・John H Stroger Jr Hospital of Cook County 感染症科フェロー、ユタ大学臨床微生物学フェロー、獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教室講師。2011年に再々渡米し、南イリノイ大学感染症科講師を務めた後、2014年3月よりバージニア・メイソン・メディカル・センター 感染症科指導医。2016年7月のインタビュー記事はこちら

掲載:2023年6月

この情報は、ワシントン州保健局(Washington State Department of Health)により、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)からの助成金が一部提供されています。この情報は、必ずしもワシントン州保健局または保健福祉省の公式方針を反映するものではありません。

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