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ジェームズ・ビアード賞セミファイナリスト座談会「シアトルを “culinary destination” に」

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ジェームズ・ビアード賞セミファイナリスト

(左から)相馬睦子さん(『かもねぎ』)、中島正太さん(『Adana』)
北村太一さん(『田むら』)

米国の料理界のアカデミー賞と言われるジェームズ・ビアード賞の今年のセミファイナリストが先日発表され、最優秀シェフの米国北西部部門に『田むら』の北村太一さん、『かもねぎ』の相馬睦子さん、期待の新人部門に 『Adana』の中島正太さんの3人の日本人シェフがノミネートされるという史上初の展開になりました。ファイナリストが発表されるのは3月14日。その前に、3人にざっくばらんに語っていただきました。

アメリカで起業するまで

ジャングルシティ:まずは、ジェームズ・ビアード賞へのノミネート、おめでとうございます!

北村、中島、相馬:ありがとうございまーす。

ジャングルシティ:今回のノミネートについて、そしてシアトルの食文化について、ざっくばらんにお話を伺いたく、お忙しい金曜の朝にお集まりいただきました。シアトルのフードコミュニティ、ローカルのシェフとつながりの深いみなさんならではのお話を伺えると思っておりますので、よろしくお願いします。ではまずこの記事を読んでくださる皆さんに、簡単に自己紹介をお願いします。

北村:京都生まれで、1991年の高校3年の時にアメリカに来て、大学一年生からずっと日本食レストランのキッチンで働いていました。シアトル大学に通っていた時にしろう寿司に入って卒業までの2年間働き、その後はアイラブ寿司のレイクユニオン店、そして2001年、27歳の時にフリーモントに馳走をオープンしました。それを9年やり、その間に馳走割烹をやって、ジェームズ・ビアード賞に初めてノミネートしていただきました。それを2009年に売却し、2010年に田むらをオープンして今に至ります。

相馬:2001年の18の時にアメリカに来て、最初はカリフォルニアで大学に行き、シアトルのアート・インスティチュートにトランスファーしてで料理を学び、今もあるHarvest Vine、今はもうない斎藤、Chez Sheaで働きました。そしてリーマンショックがあったので、一度東京で働いてみたいと思って2008年に日本にいったん戻り、東京でワインを勉強しようと、ソムリエをしていました。そしてアメリカに帰ろうと思ったら、うっかりグリーンカードを失効してしまって、「帰れない!」ということに。それで、就労ビザを待つ間、蕎麦の勉強を始めました。待てど暮らせどビザが下りず、3年ぐらい修行することになりましたが、ようやく2012年にシアトルに戻って来ました。30歳で雅45thを共同経営者としてオープンしましたが、3年後にそれを共同経営者に売却し、昨年、子供がデイケアに入れる年齢になったので、この店をオープンしました。

中島:僕は生まれて1ヶ月でこちらに来ました。中学は日本、そして高校からまたこちらへ。16歳の時にベルビューの菊寿司とアイラブ寿司の洗い場から働き始めて、18歳で大阪に行って辻調理師専門学校で勉強し、大阪の割烹 『さか本』で働いて、そしてこちらに戻って来て太一さんの『田むら』で働かせていただきました。その後、ビジネスを勉強したかったのでコーポレートのBlue C Sushiやらーめん山頭火でも働きながら学ばせていただき、ケータリングを始めて、2015年に『Naka』をオープンしました。1年半後に方向性を変えて、『Adana』として再出発してちょうど1年です。

Roses are red the sky is blue our umami makes you go ooooo 🤤😋

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ジャングルシティ:中島さんのこの間の開店1周年記念イベントの楽しそうな写真を拝見しました。

相馬:あれ、片付け大変だったでしょう?(笑)

中島:大変でした。クラブみたいになって。DJ は来るし(苦笑)。

相馬:次の日は営業したの?

中島:しましたよ。スタッフと一緒に酔っ払ったまま片付けて。

相馬:すごい!

ジェームズ・ビアード賞へのノミネートについて

ジャングルシティ:今回のノミネートについてはどのように知ったのですか?

中島:僕はその前日がバレンタイン・デーだったので午前4時ぐらいまで仕事をしてましたから、翌朝はゆっくり寝ていたんです。そして起きたら携帯がすごいことになってて(笑)。

北村:相馬さんは気づくのが一番早かったよね。

相馬:そう、私は気づくの早かったです。

ジャングルシティ :相馬さんはいつも賞をチェックしてるんですか?

相馬:今日が発表日だなと思って、発表される前からクリックし続けてチェックしていたんです。それで、発表された瞬間に見ることができて。お、出た!と。

ジャングルシティ :相馬さんは結構シェフの動向とかチェックしてますよね。Eater.com もそれが理由でよく見てると前にも話してましたが。

相馬:自分がノミネートされているのを発見して、そして太一さんも正太君も。ふと見たら太一さんがオンラインだと出てたので、「太一さんもノミネートされてますよ!」ってメッセージしたんです。

北村:僕は知らんかってん(笑)。僕の場合は前に一回ノミネートされたし、もうないと思ってたので、「ああ、発表されてるわ、誰がノミネートされたか後で見よう」と思ってたんですよ。そして携帯に友達から「Congratulations!」って出てきて、「おかしいなあ、誕生日はまだやし、何やろ?」と。

ジャングルシティ :誕生日は Congratulations って言いませんしね。

北村:でしょ?だから何かなって思ったんですよ。でも誰かが「Congratulations on James Beard nomination!」と書いてくれたから、「おおー!」と、チェックしてみたら載ってたんです。ありがたいことやなあと思いましたね。もう一回は選ばれたことがあるし、ひがんでるわけじゃないけど、やはりメディアへの露出的に考えると、僕は「いて当たり前」の存在になってるから。ジェームズ・ビアード賞がそんな僕の功績を認めるのかという気持ちはありましたね。

相馬:むしろ、outstanding chef のカテゴリに出てきそうですよね。

北村:今から10~20年たったら、それもあってもいいかなと思いますが、今回は前と同じカテゴリですし、ここでまたノミネートだとは思わなかった。そして見てみたら、相馬さんも正太君もノミネートされてるし、「同時に日本人が3人という、こんな年はないなあ」と思いました。


アメリカの社会的な変化?それともアメリカの食文化の変化?

ジャングルシティ:ジェームズ・ビアード賞は今年はアカデミー賞などのように、女性やマイノリティを注目するような動きをとったと書いてあったのですが、それについてどう思われますか?

中島:嬉しいことですよね。アメリカのメディアが日本人や日本食に注目してくれるということは。アメリカで日本食をやっていても来店してくれる人のデモグラフィが全体としてやはり少ない中で、足を運んでくれるお客さんが増えている気がするんです。今まで来なかった人が和食に興味を持ってくれたり、そういうニュースを見て来てくれたりする。

相馬:トレンド的に日本がやはり注目を浴びてるんじゃないかと私は思っていて。だって、マイノリティでもマイノリティが平等に賞をとっているわけではないし。今回、北西部からは、日本人は3人ですが、韓国系は一人、中国系はゼロです。だから日本食が注目を浴びて、認められてきてるんじゃないかと。

ジャングルシティ:お客さんは、シェフが日本から来た人だとか、日本人だとか、そういうことを考えてるんでしょうか?

北村:それは非常に微妙というか・・・。日本とか日本人とか、そういうのじゃないんじゃない?今までの段階はそうだったかもしれないけど、今回のノミネーションは日本人だから選んでるとかじゃなくて、普通にフードシーンやレストランシーンの動きを見ていて、自然に選んでるんやと思う。日本人かどうかを意識してるかどうかというのは疑問やね。アメリカで大多数を占める白人に認められる、認められないじゃなくて、つまり、アメリカのメジャーな食の一つを日本人が担っているというわけなんだと。

それと、日本食が認められているというのは、たしかにたくさんの人が日本食を食べてるけど、この3人の何がこれまでの日本食の人と違うかというと、やはりアメリカのシェフとレストランのコミュニティになんらかの形で貢献する姿勢がありますよね。昔は小さい日本人コミュニティの中だけで生きていて、これ出せば売れるという感じでビジネスをやっていたから、地元のコミュニティと強い結びつきを持つとかいう行動はまったくなかったでしょう?それが悪いわけではなく、そういうやり方でしかできなかった時代だったわけです。でも今は時代が変わって、情報があふれていて、日本に行ったことがある人もどんどん増えていて、インターネットで日本食の情報を見つけられて、どんどん日本食を好きになっていく。そしてシアトルみたいにテック系の人が多い街ではそういう人が増えていて、相対的に見て日本食の位置が上がったということなんだと僕は思います。

レストラン経営者としてのチャレンジ

北村:でも、女性で、子供を産んで、1年で店をオープンしたという相馬さんのストーリーを知って、みんなが応援したいと思うのは、今の時代の流れやと思いますね。そして枠にはまってない、蕎麦を作って出して、先頭に立ってやってるわけだから、それは認められて当然だと思うし。そういう意味で僕は相馬さんはファイナリストになったら、アジア人女性を元気づけることになると思います。だって子育てとレストランって両方やるの大変でしょ?

相馬:大変ですよ。夫がほとんど一人でやらないといけないし。がんばってくれています。

ジャングルシティ:家族の応援があってこそという感じですね。だから日曜日はがっちりとファミリー・デーをしてますよね。

相馬:そうです。月曜日も定休で、半分仕事して、半分は子供と。

中島:今は週5営業ですか?

相馬:そうです。日月休み。

北村:正太君は?

中島:今は週7日ですよ・・・

北村・相馬:週7!!(驚)

北村:成長したな!(笑)

中島:大変ですよ(苦笑)。でも今度ブランチをしようかという話にもなってて。

相馬・北村:(笑)

相馬:でも、ブランチ、いいじゃん!ブランチをやって、月曜を閉めたら?

中島:そうなんですよね。今、そういう話をしていて。やっぱり週一閉めたほうが、従業員のメンタリティのまとまりがつくんで。違う方向で収益を上げて、週一の休みを作りたいと思っています。一緒に働いている人たちは同年代ですけど、僕が最年少なのでわからないことはわからないと正直に言って、みんなで一緒にやって、みんなの店になってきているかなと。

ジャングルシティ:結構フラットな関係なんですね。

中島:そうですね。仕事中はビシビシやりますけど、会議の時はみんなで対等に意見を言えて、フラットな関係ですね。


ジャングルシティ:相馬さんは?

相馬:うちは週5なんですけど、すごく小さいチームでやっています。平日は私とスーシェフの二人だけだし。

ジャングルシティ:それが相馬さんがやりたかったやり方なんですね。気心の知れてる人と働く。

相馬:お客さんにとっても、いつも同じメンバーが出迎えたほうがいいかなと思いますし。

北村:そうですね。僕の場合は寿司でしょう。ああいうふうにカウンターでサーブするところは、違うシェフが違うパーソナリティで作るわけなので、違っているのが自然ですね。まあ、チームの話となると、難しいですねえ。やはりこれはもう正直、世代の異なるスタッフをまとめるのは大変ですね。シェフは20代から50代ですし、こちらの視点が、大人が子供を見ている視点になってきているので、厳しいことを言わないといけないのは、それはそれで仕方ない。

中島:それは太一さんだからできることで、すごくいいと思うんです。

ジャングルシティ:後10年ぐらいしたら、相馬さんも中島さんも40歳前後になって、その時代の若手と一緒に働くわけで。みんな将来はそういう状況になるわけですしね。

北村:今、僕と同年代のシェフと話したら、みんな同じ文句ばかりですよ。人種は関係なく、この世界で20年、30年、40年やって来てる人は、もうええかげんにせえよ、最近ほんまきつい、と。弱音を吐くような人じゃない人が弱音を吐いていたり。

ジェームズ・ビアード賞セミファイナリスト

ここで 『かもねぎ』 のロゴを食用インクでプリントしたチロルチョコが出され、盛り上がる。

シアトルのシェフの横のつながりは?

ジャングルシティ:シアトルのフード・コミュニティ全体としての大きな変化は?

相馬:やっぱり SNS が大きいですね。インスタでどこかのシェフと知り合えて仲良くなったり、新しい料理を知ったり、結構気軽にコミュニケーションができるようになりましたね。「え、これ、何?教えて!」とシェフ同士で教えあうこともできて、世界が広くなったけど近くなった感がありますね。

中島:今はそういう会話をしたり、インスタで発信したりというのが仕事の一部になってきてますね。飲食業にいない、お客さんとしてお店に来る人は、エンターテイメントが欲しい中で、SNS を通じて、シェフが日々何をしているとか、生き方を知るとか、シェフ同士が会話しているとかを自分で見ることができると、面白くてお店に来てくれるようなんです。

ジャングルシティ:SNS でそういったことが見られると、覗き見をしているような面白さを感じますね。この人とこの人は仲がいいんだ!というようなことがわかったり。

相馬:太一さんは SNS でシアトルのレジェンドのような人たちとよく会話してますよね。

北村:まあ、かわいがってもらってるなと感じます。やはり日本食に関するアドバイスとか、これはどうなってるのとかいうことを、昔は店のカウンターに来て直接聞いていたわけです。他の店に行って食べて美味しかったあれは何なんだろうというような疑問がわいて、僕のところに来て英語で意思疎通できて謎が解けるというようなことがあったから、シェフが感謝してくれたことがあったと思うんですよね。それは僕が相馬さんや正太君より先に始めて長くやってるからで。そして、金にならないけど、いろんなイベントに顔を出したりして、荷物運ぶのを手伝ったり、自分に余裕があったら手伝ってあげたり。フードコミュニティの一員になるというのはそういう細かいことからだと思いますね。それは本当にお金に変えられない財産だなと思います。辛いと思ったことはない。認めてもらおうとしてやってきたわけではなくて、人間として横でしんどい思いをしてる人がいたら助ける、そういうふうに普通にやることをやってたら認めてもらっていました。

ジャングルシティ:シェフのコミュニティは横のつながりが強いということでしょうか。

北村:それはシェフ次第でしょう。

相馬:シアトルはシェフコミュニティのつながりが強いと思いますよ。

北村:強いけど、そこに入ってない人はたくさんいますよね。アメリカ人でも、全然顔を出さない人がたくさんいるでしょう。

シアトルのローカル食材の値上がりがすごいという話

ジャングルシティ:SNS ではそういう感じで、ではシアトルの食べ物はどういうふうに変わってきていますか。1990年代始めは普通に普通のものばかりで、テリヤキでしのいだ時期もあります。学生だからリーズナブルなものしか食べられないけど美味しいものが食べたかったという状況でした。美味しいものを食べるにはカナダのバンクーバーに行かないといけないという認識があって。

中島:僕はテリヤキ好きですね。結構食べます。

相馬:最近、テリヤキ屋が減ってますよね。

北村:1990年当時を振り返れば、アメリカが食において遅れていたことは間違いないですね。料理にしても、料理に対する興味にしても。でもそれからのキャッチアップのスピードの速さがすごいです。人生を豊かにするためにはと考えた時、「食べ物」と考える人が増えてきているのかなと。シアトルに住んでればアウトドアやったりとかしますけど、例えば、土曜日にスキーに行ったら、やっぱりおいしいものを食べたほうが幸せだし。おいしいものに興味を持ったり、それを楽しむ人のコミュニティに入れば友達もできるし。

ジャングルシティ:でも美味しいと感じるレベルは、どのように上がってくるんでしょう?

相馬:やはりネットじゃないですか。どこかに食べに行こうと思ったら、ネットで簡単に検索して情報を見られるし、写真も見られて、レーティングがいいところを選んだりして。いつも行っていた同じ店じゃなくて、ここに行ってみようと。

北村:やはり基本的に収入レベルが上がってきてることでしょう。これまでシアトルは寿司と天ぷらだったのが、ラーメンがどかーんと来て、相馬さんが蕎麦を始めて、正太君が懐石とかいった料理をやっても、それが生き残ってビジネスとして成り立っていくのは、やはり収入レベルが上がってるからですよね。そういうレベルのことをやっていても、ビジネスとして成り立たないと生き残っていけないし。お金を持ってる人がもっとそういう食べ物にお金を使うこと、その中で違ったことをやったレストランが生き残っていけるということでしょう。

ジャングルシティ:そうですね。20年前のシアトルで、相馬さんが蕎麦、正太君が懐石をやっても、シアトルは田舎すぎて反応できてなかった気がします。

一同:ですねー。

相馬:絶対無理だったでしょうね・・・。

中島:日本食以外でも新しいことをやっているシェフが増えてきて、メディアがそういうことを取り上げてくれて、いい記事を出してくれたりすることで知られて、コミュニティが前に進むことを手伝ってくれているのかもと思います。

北村:一例として、ローカル産の食材の値段の上がり方ね。

相馬:スポットプラウンとか、グイダックとか。

北村:今はもうサーモンの方がマグロより値段が高いんですよ。こんなの10年前には考えられなかったことだから。グイダックなんて話にならないほど高いし。やはりローカルに対する意識がものすごく熱いというか。その意識で言えば、ここ5年ぐらいですごく熱くなってきてる。それはいいことなんですよね。サーモンの需要が増えて、仕入れの値段が上がって、レストランもそれだけ値段を上げないといけなくなってます。漁師さんが今までパウンドあたり50セントでしか売れなかったものが、2ドル、3ドル、10ドルなんて値段で売れる。漁師さんも潤う。その間にいろんな業者が入っていて、そこも潤う、と。それは食べ物に関係する産業が全体で良くなっていっている証拠なのかなと。自分で高いお金を出さないといけない時は腹がたつけれども(笑)、でもよく考えたらこれで潤ってる人がたくさんいるんだと理解しています。

相馬:肉に関しても、流行ってるものは値段が上がりますよね。一時はポークベリーが人気で高かったけど、今はそれほどでもないのでまた値段が下がってきてます。今、チキンが来てるんじゃないですか?

中島:オックステールが意外に高くなってますね。煮込んで出しているお店が少しずつ増えてきてます。うちは3コースで37ドルなので、メニューを書くときは原価を気にしながら、何を使えるかと考えるんです。結構いろんな物の値段にびっくりしますね。あと、人件費がすごいですよね。

ジャングルシティ:最低賃金が1時間15ドルなわけですしね。

相馬:すごいですよね。

北村:僕ら、ようやってるよな~と(苦笑)。

中島:もうそれを計算に入れて、死ぬ気で毎日仕事するしかないかなと。

北村:長い目で見たらいいと思うんですよ。でもそれが始まったから調整しないといけない段階が一番しんどい時で。どうなるのかわからないことも多いし。下手したらこれで店が潰れるんちゃうかとか、そういう不安もあったりしましたよ。特に長いことやってきたような店で、例えばサービスチャージとして20%を組み込むと、「どうする、これでお客が半分に減ったら?」と考えますよ。それで、新しい店がどんどんできるというトレンドが少しスローダウンしている気がするんですけどね。厳しいでしょう。人件費、家賃の問題もあって。

相馬:昨年もそれほど新しい店はオープンしてないですよね。

北村:うん。それにオープンした店も大変でしょう。サバイバルはしんどい時期なのではないかなと。

SNS でのアウトリーチが主流?

中島:『Naka』をオープンしたてのころ、最初の2~3週間は満席。いろいろ間に合わない状況でした。新しいお店が開くとちょっとゆっくりになって、しばらくするとまた忙しくなって、新しいお店が開くとちょっとゆっくりになって、しばらくするとまた忙しくなってという波がありました。でも、最近、そこまで波を感じないんですよね。Eater とかネットを読んでないというのがありますが・・・

北村:メインストリームメディアのフードジャーナリズムとかから離れていってるような人も多い気がする。

ジャングルシティ:それは興味深いです。SNS で発信する方が面白い?

北村:そうやね。その方が圧倒的に多いよね。

ジャングルシティ:誰かが加工したものじゃなくて、生のデータみたいな感じが SNS にありますよね。

相馬:そうですね。

ジャングルシティ:でも飲食業の広報を専門にやっている人が、必要な情報やその時期にあったいいストーリーをちゃんとメディアに届けることは、これまで以上に必要になってる気がするんです。情報が溢れているから。

北村:そうですね。プレスリリースを届ける人は、今まで以上にめっちゃ忙しくなってると思いますよ。店も増えてるし。

中島:仲良くなるのは大事だと思って仲良くなっても、特にしょっちゅう人が変わるメディアもありますよね。誰が誰かもうわからない。そんな中で、飲食業の中で増えているのが、SNS を担当する人ですね。うちの場合はスタッフにマーケティング専攻の人がいて、その勉強の一環でやってくれていて助かります。僕も勉強になりますし。もう広報の会社にはお願いしていません。

<しばし、シアトルで多店舗展開をしている某有名シェフたちの話に花が咲きました・・・>

これからの展開は?

北村:例えばイーサン・ストウェルを見てると、ビジネス・パートナー選びはとても重要だと思いますよ。でも、店を開ければいいってもんでもないし。トム・ダグラスとかイーサン・ストウェルはテーマ的に全然違う料理をやるけど、ルネー・エリクソンはノースウエストとドーナツという感じですよね。プロテインの種類が変わるという。
※イーサン・ストウェル、トム・ダグラス、ルネー・エリクソンは、シアトル市内で多数のレストランやカフェを展開しているシェフ兼レストラン経営者で、全米に知られる存在。

相馬:私は広げたくないですね。小さくやっていきたいです。やっぱり、店を増やすことで自分の目が届かなくなって、自分の味でなくなることが嫌です。

中島:僕はどちらかというと、イーサン・ストウェルやトム・ダグラスほどではないですが、もう少し会社を大きくしていきたいと思っています。組織化して、お金の稼ぎ方ももっと学びたいし。

北村:俺、ついていくわ!(笑)20年近くやってると、料理だけに集中したくなってきていますね。レストラン経営と料理人の道は違う方向があるでしょう。店が一つあるのはブランド的に大事にしていかないといけませんが、二軒目をやるかというと、それはありません。料理人として、店をやること以外のことでも伸びていきたいと思います。

相馬:最近、太一さんのハッシュタグが #privatechef ですよね。

ジャングルシティ:相馬さんって本当に SNS を細かいところまで見てますね。

北村:そうなんよ~。プライベートシェフやりたい。

中島:収益を考えると、ですよね。ケータリングもしたいですね。今の目標は収益を増やして、週1か週2休めるようにしてスタッフのメンタリティを強くして、前に進んで、また新しいプロジェクトを進めてというふうに行こうかな?と。何やってるのかわかってないけど、とにかく目の前のことを進めていきたいです。

ジャングルシティ:これからのシアトルの食文化はどんなふうに進んでいくと思いますか?蕎麦に関しては、相馬さんのおかげでシアトルでの蕎麦の認知度が高まったと思うのですが。

相馬:やっぱり日本と比べるのはやめてほしいですね(苦笑)。「日本ならこれいくらじゃん」みたいな。日本とこっちでは、人件費も材料費も全然違うわけですし。日本なんか最低賃金は低いし、過去10年で30円ぐらいしか上がってないところもあるじゃないですか。

中島:それは「日本じゃないから」で終わり。

相馬:あ、文句になっちゃった(笑)。

北村:シアトルが culinary destination になるように、みんなで力を合わせてがんばっていければと思いますね。どのように実現するかというと、農家や漁師などと一体化して、商品ブランドを開発したり、コミュニティのブランドを開発したりしていくことができればと。アメリカでここまで地元の素材でできるのは珍しいでしょう。ポートランド、シアトル、バンクーバーは似ているので、一緒にマーケティングしたりしても面白いんじゃないかなあ。それから今、北海道ブランドがアメリカ人の間で来てますよね。ウニ、ホタテ、いろいろ出てきますよ。中国人が北海道にすごくいいイメージを持っているし。

中島:抹茶もすごいですね。抹茶クレープを出した途端、中国人のお客さんが来てくれるようになりました。

相馬:やっぱりシアトルは食材がいいから、アメリカで食の中心になれると思います。でも、いい食材がどんどん他の地域に流れていて、ここで消費されてるんじゃないような?

北村:サーモンに関しては、シアトルで消費されてると思いますよ。もちろん、ニューヨークやラスベガスで消費されたりするということもあるでしょうけども。シアトル内で飛ぶように売れるのはサーモンで、手に入らないことがありますよ。

中島:Fisherman’s News のパネルで話をしたんですが、アトランティック・サーモンの養殖場が閉まる話も話題になりました。

ジャングルシティ:アトランティック・サーモンが養殖場の網が破れて逃げた件ですね。

相馬:あれは最悪ですね。

北村:その辺、興味があるようでしたら、いくらでも話ができます。大事なことなんですよ。本当に。ローカルのサーモンは大事な資源ですから。これだけサーモンで盛り上がってるのに、とれなくなったら大変でしょう。サーモンは、人がどうしてシアトルに住むようになったかという理由の象徴のようなものですから、みんなでもっと考えていかないといけない。シェフの役割は重要です。環境保護や政治でいい方向に持って行こうと思ったら、みんなで主張していかないといけない。知らない間に悪い方向に向かって資源がなくなるなんてことは避けないと。シェフが把握して、メニューに載せて、お客さんに情報を提供していく。こういう理由だから、こういう値段なのですと。うまくいった一例は、カッパーリバー・サーモンです。あと、ワシントン州でトロール釣りのサーモンがとれるわけですが、15年ぐらい前からシェフのジョン・サンドストロムが他のシェフたちを集めて試食させて、「これは二束三文でしか売れない。味も美味しいし、ワシントン州としてアラスカさんに負けないサーモンなのに」と毎年がんばって、今、アラスカのサーモンと値段が変わらない。

ジャングルシティ:生産者とシェフのチームワークということですね。

北村:そのブランドの価値を上げるのに一番効果があるのはシェフなんです。漁師と連携し、購入して料理して、メニューに載せて、認知度を高めていくわけですね。これを長い時間をかけて、たくさんの店でやっていければいいと思うんです。

ジャングルシティ:では、何か最後に一言。

ジェームズ・ビアード賞セミファイナリスト

Tahoma Fuji Sake の生原酒純米吟醸

北村:長い道のりでしたが、寿司と天ぷらの時代から、いろいろある時代になってきました。シェフはとても個性的やし、それぞれ味があって、これからシアトルでしか食べられない日本食みたいなものがこれから出てくるでしょう。

相馬:あ、美味しいお酒ありますよ。これ、バラードにある Tahoma Fuji Sake の生原酒純米吟醸です。食べ物もそうなんですが、やっぱりお酒もローカルで。いろいろ、ローカルがいいと思います。輸送費にお金をかけるのはもったいない。

中島:居酒屋もそうだし、これから新しい和食がやってくると思うので、読者のみなさんにもぜひ応援してもらいたいです。

ジャングルシティ :本日はどうもありがとうございました!

掲載:2018年3月

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