ビールの香りや苦味、風味を決定づけるホップ——この重要な原料の7割以上が、実はワシントン州で生産されていることをご存じですか?
農務省(USDA)の2024年データによると、アメリカ国内のホップの約74%がワシントン州で栽培されており、名実ともに全米最大のホップ産地として知られています。
なかでも、州南部のヤキマ・バレー(Yakima Valley)は、豊かな火山性土壌、乾燥した気候、カスケード山脈の雪解け水、そして長い日照時間といった、ホップ栽培に最適な条件がそろう “ホップの理想郷” です。
ホップがつくる、クラフトビールの個性

栽培ホップ(Humulus lupulus)の花の部分がビールの材料となります。
ホップは、味や香り、苦味、泡立ち、さらにはビールの保存性にまで影響を与える、ビール造りに欠かせない存在。柑橘系の香りやフローラル、ハーバルな風味など、品種によって表情はさまざまです。
ワシントン州では Citra、Mosaic、Simcoe、Cascade、Zeus など、多彩なホップが栽培されており、世界中のブルワリーに出荷されています。特に、フレッシュホップビール(fresh hop beer)と呼ばれる、収穫直後のホップを使った期間限定ビールは、地元ならではの味わいが楽しめるとあって毎年大人気。
ワシントン州最大のホップの産地「ヤキマ・バレー」の魅力と歴史

©︎Jason Hummel / Courtesy of State of Washington Tourism
ワシントン州南中央部に広がるヤキマ・バレー(Yakima Valley)は、アメリカ最大のホップ生産地として知られています。火山性の肥沃な土壌、カスケード山脈からの雪解け水、年間を通じた長い日照時間といった、ホップ栽培に理想的な自然条件がそろっています。
ヤキマ・バレーでのホップ栽培の歴史は古く、1868年にニューヨーク州から移住してきたチャールズ・カーペンターが、父の農場から取り寄せたホップの根株を植えたのが始まりです。その後、1876年には商業出荷が可能となり、1890年代初頭には栽培地が南東方向に広がって、ヤキマ郡はワシントン州随一のホップの産地として発展しました(出典:Yakima Valley Tourism、America Hop Museum )。
1920年代から1940年代にかけては、禁酒法や大恐慌、ホップの過剰生産などの影響で栽培が打撃を受けましたが、ヤキマ・バレーの農家たちは機敏に対応。種なしホップへの切り替えと品質改善により信頼を回復し、1939年には世界への輸出が始まりました。
その後の技術革新も、ホップ生産量の拡大を後押ししました。1940年代には手摘みから機械式の収穫機への移行が進み、固定式の収穫・乾燥設備の導入によって効率が大幅に向上。1963年には、ヤキマ・バレーだけでアメリカ全体のホップ生産量の50%を占め、1970年にはその割合が70%にまで達しました。
2024年のアメリカ全体のホップ生産量は8,707万ポンドで、前年から16%減少しましたが、生産量では世界2位。ワシントン州のホップ生産量は6,413万ポンドで、アメリカ全体の約74%を占めています(参照:National Hop Report – December 2024)
今では、ヤキマ・バレーは世界中のブルワリーから注目される「ホップの首都」ともいえる存在です。
初心者も、愛好家も。“地元を味わう”という贅沢

毎年8月下旬から9月にかけてワシントン州東部で収穫されたホップは、すぐさま地元のクラフトブルワリーで仕込まれます。シアトル近郊でも、個性豊かなとれたてホップのビールが登場します。
- Georgetown Brewing:人気の「Johnny Utah Pale Ale」は、タイミングによってフレッシュホップ版が登場
- Fremont Brewing:毎年注目の季節限定フレッシュホップシリーズ
- Flying Bike: 地域初の協同組合型ブルワリーが手がける「Fresh Hop Harvest Ale」
- Stoup Brewing:「Fresh Hop Fiend」など、香り豊かな限定ビールが充実
- Reuben’s: ホップごとの個性が際立つ「Fresh Hop Amarillo」
- Two Beers Brewing: 飲みごたえある「Fresh Hop IPA」は毎年大人気
- Holy Mountain Brewing:洗練された味わいの「Talus Fresh Hop」
- Cloudburst Brewing: 2025年の世界ビール杯で金賞受賞した「Fresh Hop IPA」
- Black Raven Brewing Co.: 「Fresh Hop Pale Ale」は香り高く飲みやすい逸品
これらのビールは醸造所併設のタップルームで飲めるだけでなく、ローカルのボトルショップやグローサリーストアでも購入できることがあります。
フレッシュホップビールを味わえるローカルブルワリークラフトビール愛好家にとってワシントン州は、ビールとホップの多様性に出会える場所。フレッシュホップビールのシーズンに合わせての旅も、きっと満足度の高い体験になるはずです。
クラフトビール初心者なら、まずは飲み比べセットや店員おすすめの一杯からスタートしてみましょう。「What’s on tap?(生ビールは何がありますか?)」と聞いてみるのもおすすめです。
英語メモ:とれたてのホップは “fresh hop”、または “wet hop” と呼ばれます。”What do you have on tap?” (生ビールは何がありますか?)の “tap” とは、樽など大きな容器からビールを注ぐ場合の蛇口を意味しています。