暗いニュースが多い中、ファンのおかげでスタッフが命拾いしたという明るい話が、新年早々、ホッケーコミュニティで話題になっています。
今月1日、北米アイスホッケーリーグ(NHL)バンクーバー・カナックスが、フェイスブックとツイッターで、ある呼びかけをしました。
「#HockeyTwitter ご協力をお願いします!これをRTして拡散し、レッドを彼のヒーローの女性とつなぐよう手伝ってください」
カナックスが探していたのは、昨年10月23日に開催されたシアトル・クラーケンとの試合で、チームのギアを管理するアシスタントマネジャーをしているブライアン・”レッド”・ハミルトンさんに、「あなたの首の後ろにあるホクロはガンかもしれません。医師の診察を受けてください!」とタイプしたスマホの画面をプレキシグラス越しに見せた、一人の女性でした。
読みやすいように大きなフォントで書かれたその文章を見たブライアンさんは、特に注意を払わず、肩をすくめて歩き続けたそうです。
でも、帰宅してパートナーに見てもらったところ、「おかしな形をしているホクロがある」と言われたため、すぐにチームドクターの診察を受けて細胞を検査してもらった結果、悪性黒色腫(メラノーマ)であることがわかりました。
すぐに手術を受けて取り除いた後、医師に「放置しておいたら、4~5年後にあなたはここにいなかった」と言われたレッドさんは、「もしあの女性が伝えてくれなかったら、自分は助からなかったはず。なんとか彼女に会って感謝の気持ちを伝えたい」と思ったそう。
そして、「10月23日のあの夜に、あなたがあなたの携帯電話で見せてくれたメッセージは永遠に私の脳に刻み込まれ、私と私の家族の人生を本当に変えてくれました。あなたの直感は正しく、私の首の後ろにあったホクロはメラノーマでした。あなたの粘り強さと医師たちの素早い対応のおかげで、取り除くことができました」と、感謝の言葉とともに、カナックスの SNS を使ってファンに協力を呼びかけることにしたのでした。
1日の午前9時51分に投稿されたこの呼びかけはすぐに拡散され、レッドさんに携帯電話でメッセージを伝えた本人のナディア・ポポヴィッチさんの母親の目に留まり、ナディアさんに伝えられるまで2時間もかからなかったそう。
ナディアさんは、2019年にワシントン大学を卒業し、メディカルスクールへの入学を控えている22歳のカナダ系アメリカ人。レッドさんの首にあるホクロについて、一緒に観戦していた義父と母親に話したことを、母親は覚えていたんですね。
ナディアさん自身は、大晦日から自殺防止ホットラインでボランティアをしていたので、元日に自宅で寝ていたところを母親に起こされて事の顛末を知ったとのこと。普段からコミュニティに貢献するというミッションを持った方という印象を受けました。
この話にはさらに続きがあります。
レッドさんは1日に行った記者会見でナディアさんに感謝の気持ちを伝え、さらにシアトル・クラーケン対バンクーバー・カナックスの試合前に、ナディアさんと対面。かたくハグしあい、改めて感謝の気持ちを伝えました。さらに、クラーケンとカナックスが共同で1万ドルをナディアさんにスカラシップとして提供することをアリーナで発表するというサプライズも。ナディアさんが驚いて顔を両手で覆う様子をとらえた動画が拡散されています。
この件は、シアトル・タイムズで報じられた他、カナダなどでも報じられましたが、私がこの件を知ったのは、毎日聴いているKUOW(NPR系の公共ラジオ局)のポッドキャスト『Seattle Now』でした。
3日に配信されたエピソードでナディアさん本人が一部始終を語るのを聴いたところ、ガン病棟でボランティアをした経験からガンを疑ったそう。でも、「見知らぬ人に体のことを指摘するのはとても勇気がいること。どのようにすればプライベートに伝えることができるか考えました。彼と彼の家族がちゃんと診察を受けるという行動を起こしてくれたことに感謝しています」と振り返っていました。
やっぱり、誰かに「それは病気かもしれない」と伝えるのは、知っている相手でもなかなか難しいことですから、知らない相手だとなおさら。「自分の勘違いかもしれない」「伝えて気分を悪くされたら嫌だ」と、自分を守る方向に行ってしまうかもしれません。
でも、私の周りでも早期発見で助かった家族や友人もいますし、ネットを検索すれば、フロリダ州のテレビのニュースレポーターが視聴者に首のしこりについて指摘を受け、検査を受けてガンだとわかり手術して助かったことなど、いろいろ出てきます。
なので、自分が伝えてもらう方だったら、難しいことをあえて伝えてくれた相手に感謝する以外にあり得ないかなと。今回の件は、毎日一緒に生活する家族に「躊躇せずに、伝えあおうね」と話しあうきっかけにもなりました。